軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

あの魔王が作ったと確信したダンジョンの探索と、予想外の再会

目の前にぽっかり開いた、ダンジョンの入口。

ただの洞窟ではなく魔物のいるダンジョンであることを証明するように、中はダンジョンの魔力で明るく、中が見渡せるようになっている。

夜の誰もいない海岸に、岸壁へ打ち付ける波の音が大きく感じられる。

目の前に現れたあまりにも衝撃的な光景に震えながら、俺はシビラを見た。

「いつ気付いた?」

「昼よ。魔物が現れるルートを『第二ダンジョン』『海底』『地面』『それ以外』に絞って、速攻で前二つは切ったわ。地面の可能性も、砂浜だと有り得ないわ」

「何故だ?」

「細かい砂って、すぐに崩れるし、どんなに小さい穴でも砂が落ちていくし……何より隙間がない分、同じ空間の体積なら大きな岩より重いのよ。だから、ニードルラビットが現れるほどの穴は無理。すぐに塞がるし、その砂の塊をかき分けるほどの力が上層の魔物にはない」

そんなにか……。さらさらしていて、石に比べて柔らかく軽いイメージだったが、シビラがそう言うのなら相当重いのだろうな。

「だから、そんなダンジョンの入口はまずない。そうなると岸壁。しかも下に人間より小さいサイズの穴が空いてるだけ、なんて場合は小さい魔物の一方通行が出来るなと思ったの」

「……あっ、だからシビラさんは泳がずに、岩陰のところをうろうろ歩いてたんですね」

「そうよ。……昼はアタシのこと気に掛けてたわよね、一緒に遊んであげられなくて少し申し訳なく思っているわ」

「えっ!? あ、あはは……やっぱ気付いてましたか……そりゃシビラさんですもんね。ううん、気にしないで! ちょっと落ち込んでるのかなって心配してましたけど、やっぱりシビラさんは凄い人だって分かりましたからっ!」

エミーは昼のシビラの様子が、ただ単に出し抜かれて落ち込んでいたわけじゃないと知り安心したようだ。

心からほっとしたような顔。もしかすると、今日一番の表情かもしれない。

……ある意味、シビラの本心を知ることが、エミーに元気を戻す最後の手段だったのかもしれないな。

「元々この洞窟を探り当てるために索敵魔法も使っていたのよ。上の方はいないから、夜のうちにちゃきちゃき進むわよー」

すっかり余裕の笑みを見せたシビラが、ダンジョンへと一番乗りで入って行く。

俺とエミーは、その後ろ姿を見ながら、同じ事を思っていた。

「シビラと魔王の頭脳戦、だな……」

「うん……私、心から、シビラさんが味方でよかったなあって思う……」

全くだ。

この二人の戦い、代役で出られる気がしないな……。

俺達はそんな頼もしい我がパーティーの女神様の背中を追って、ダンジョンへと足を踏み入れた。

……。……?

「ん?」

「どうしたの、ラセル」

ダンジョンに足を踏み入れて後ろを振り返ってみたが、夜の海が小さく視界に映るのみだった。

「いや、気のせいだと思う」

音が鳴った気がしたが……ここまで誰かが来たのなら、さすがに見えるはずだ。

魔王が隠れたわけではないと思いたい。隣にエミーがいる以上は、危険ではないだろうが。

「……《ウィンドバリア》」

一応、不意打ちは警戒しておこう。

ある程度歩くと、左右に分かれる道でシビラが立ち止まっていた。

「索敵、敵が左右に引っかかった。さあて、初めてのダンジョンよ、久しぶり……でもなかったわね」

新しいダンジョンという意味では、アドリアのダンジョンが出来上がったばかりだったからな。

「エミーちゃんは右を進んで。ラセルは後ろを警戒。多分、アタシの予想だと左の魔物は移動後に動くから」

その指示通りエミーを先頭に右へ進むと、目の前に現れた魔物をシビラが呟く。

「ニードルボア……!」

猪突猛進の文字通りの、前進走行に全力を出す猪の魔物。

紫の猪の額に、太く短い角が生えている。

「さすがにやってくれるわね、中層の魔物を第一層で出すとか、下手なパーティーが迷い込んだら無事じゃ済まないわよ」

……上層の魔物であるニードルラビットをダンジョンから送り出しておいて、中に入るといきなりこれほどの落差があるとは。

その危険な罠を見て、俺は確信した。

——間違いなく、あの魔王がこのダンジョンを作り出した。

エミーがニードルボアを盾で受け止め、右手の剣で一刀両断する。

その突進力がどれほど強くとも、今のエミーを動かすほどではない。

その様子を横目で確認しながら、俺は後方を注視した。

「来るわ、撃って」

シビラの呟きとともに現れたのは……後方からもニードルボアであった。

第一層から中層の魔物二体の挟み撃ち、しかもシビラが先に警告していたことを考えると、こちらの動きを完全に見切っていたように思う。

……全く、嫌らしいことこの上ない。

「《ダークスフィア》!」

この魔法はシビラの指示を受けて、既に魔物の姿を確認したときには撃ち終わっていた。

ニードルボアは、見た目の通り一度直進を始めると軌道修正しない魔物であることは分かりやすい。

下層の鎧を屠ってきた俺の魔法に、ニードルボアは一撃で身体から力を失い転げ回るようにダンジョン壁面に衝突して止まった。

シビラが茶色い角を折っていくのを見ながら、次にどんな手を使ってくるのか想像を巡らせた。

……この場所でこの魔物なら、下層は一体どんな魔物が現れるのだろうか。

そして、何より……フロアボスだ。

そいつがどういう姿になるのか、全く想像がつかない。

ただ一つ分かることがあるとすれば。

間違いなく、一筋縄ではいかない、ということだ。

それから順調に、ニードルボアを倒しながら上層の魔物を仕留めていった。

挟み撃ちにされることも多かったが、一度対処を覚えてしまえば問題はない。

エミーに前衛を任せながら、俺は確実に後ろの魔物を倒していった。

そして、第一層も恐らく終盤の頃。

シビラは難しそうに、腕を組んで唸った。

「……なんか、すっげえ数固まってるわ。右に五体、左に……何体いるのこれ、やばいわね……」

「そんなにか?」

「ええ。でも固まってる以上は、対処できるわ。念の為アタシは範囲攻撃、ラセルはスプラッシュ準備。エミーちゃんは右のを一人で担当してくれるかしら」

「はい、お任せください」

指示を聞き、シビラとともに道の先を進むと……その先は、想像とは違う光景だった。

「広い部屋に、魔物がいない。どうやら左右の細い道の壁に隠れているようね、……正面に出て撃ってこいってワケ? 塞いでしまってもいいけど」

「まだ第一層で、そこまで警戒しているようでは下層で戦えないと思うんだが」

「アタシもそう思うわ。何よりこの程度なら、ラセルのウィンドバリアはそう簡単に破れないはず。エミーちゃんは?」

「はいっ、このぐらいの相手、全部倒してみせます」

皆で頷き合い、防御魔法を使ったところで部屋へと駆け込む。

エミー担当の右側は予想通りニードルボアで、左側は……!

「……ニードルラビット! ここに来てランクを下げてきたわね!」

そのニードルラビットが……なんと人間が通る通路とは違う、岩陰になって見えなかった小さい穴から次々に現れた。

ニードルラビットは真っ先に不意打ちをせず、左右から取り囲むように横に跳んだ。

「《フレイムウェイブ》! フォーメーションってワケ!? 生意気ね!」

「《ダークスプラッシュ》!」

明らかに魔物とは思えない動きに辟易しながら、俺は魔物に対処する。

それからシビラが、舌打ちしながら驚くべきことを言った。

「ラセル! 上にスフィア!」

「上か!? 《ダークスフィア》!」

その魔法を使った瞬間、ニードルラビットの死体が天井から落ちてきた。

「細い穴が、天井にも通じている! 《フレイムウェイブ》!」

右にいるシビラがそちら側の魔物を倒しているが、俺が天井に魔法を撃っている間に、更にニードルラビットが横から囲むように広がる。

防御魔法があるため危機というほどではないが、敵の出現手段が多すぎて面倒すぎる!

この嫌らしさ、間違いなくあの魔王だな!

俺が再びシビラの指示で天井を攻撃したところで……視界の隅に銀色の光が映る。

何だ、あれは、新たな敵か!?

「ラセル! 撃っちゃ駄目!」

「なっ!?」

シビラからの指示は、まさかの待機。

その言葉に驚いているうちに、更に驚くべきことが起こった。

——ニードルラビットが、全て鮮血をまき散らしながら倒れた。

それを為した者の姿を確認し、やはり後ろからの気配は間違いなかったのだと理解した。

その姿を見て、既に魔物を倒し終えたエミーが俺の代わりに叫ぶ。

「イヴちゃん!?」

そこには、大型のナイフを片手に照れくさそうに頭を掻いている、あの孤児の少女がいた。