軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

帝国城で、俺はもう一つの運命の始まりに触れる

兵士達に連れられ、俺達は帝国城へと向かう。

見た限り悪い雰囲気ではなかったし、拒否権もなさそうだしな。

まあ悪いことになったら力尽くで逃げるに限る。

二回目となる門を通るも、門番はどうやら俺のことを覚えていなそうだ。

(……《キュア・リンク》)

意味ないと思うが、念のためな。

この遠距離広範囲キュアでヴィンスの洗脳も解けたらいいんだが、まあ無理だろう。

以前通った廊下を歩き、ケイティと会ったサロンの横を抜けて階段を上る。

こうして歩くと、西側に兵士の待機所があるのは……王国と争うことを想定しているのだろうか。

東端が謁見の間ではないのは、東から攻められることも想定しているのかもしれない。

今はないだろうが、こうして歩くだけで設計思想が分かる。

なんつーか、最初に『息が詰まる』という印象を受けたのはこういうピリピリしたところにもありそうだな。

中心部からやや東に寄った辺りで、長い壁と大きな扉が現れる。

「こちらで陛下がお待ちだ」

兵士が扉の前まで来ると、大扉の前でノックをする。

中から「入れ」と声が聞こえたところで、左右の兵士が扉を押し開けた。

重い音とともに、両扉が開いていく。

中は凄まじく高い天井と、床一面に広がる絨毯。

高そうな柄だが、赤くないことにとりあえず安心するな……。

かなり広い部屋だが、どちらかというと王国の謁見の間が国の規模に比べて小さいのかもしれない。

十中八九シャーロットの意思だろう。

帝国での謁見の広間には、左右に兵士が六名ほど待機している。

その間に、魔道士らしき者が四名。いずれも手練れの近衛兵だな。

「こちらへ」

兵達の間を通り、中央に進み出る。

セントゴダートの時とは違い、事前にこちらの誰かと関わりがあるわけではないので、さすがに何が起こるか分からないな。

中央の玉座に男、右の椅子に女、左は空席。

中央席のやや斜め後ろに、年配の男が一人控えている。

「楽にしてくれ」

中央に座るのは、厳つい顔で彫りが深く、筋肉質の大柄な男だった。

長い茶髪を掻き上げながら、鋭い目つきで俺達を見回してきた。

隣に控えていた年配で痩せ型の男が声をかける。

「陛下、よろしいのですか?」

「他国民だ、礼は構わん。それより話が聞きたい」

俺達が楽にしているのを咎めるか相談した、というところか。

どうやら話が分かりそうな皇帝陛下で、多少は気が楽になる。

……これより前に話していた近い年齢のヤツが、あの教皇だからな。

「ようこそ、王国の者。余が現バート皇帝、ヴォルフガング・バートである。……まずは、ジャネットという者はいるか」

「はい、僕です」

後ろにいたジャネットが、ちょうど俺の前まで出る。

「もっと近くへ……ふむ。宰相、どうだ?」

「ほほお、これは……」

何故かジャネットをじろじろ見る二人。

……何なんだよ、気になるな。

「お前はどう思う?」

次に皇帝は、女性の方に聞いた。

やや年配でありつつも綺麗な女性は、茜色の長髪を揺らしてジャネットの顔を覗き込む。

その顔を見て頷くと、嬉しそうに手をひとつ叩いた。

「やっぱり! イェニーそっくりだわ!」

「……! 僕の母を知っているのですか!?」

思わず声を上げたジャネットに宰相がむっと動くも、皇帝が手で止める。

どうやら何かしら会話のルールがあるのだろう。

ジャネットは「失礼」と言い、頭を小さく下げた。

「ああ、気にするでない。親のことを知ったと聞いたが、ローレンスとイェニーの子がいたとはな」

「目元の聡明さなどは、ローレンス殿そっくりですな」

「そうだな。……惜しい友人を失った。教会の中では唯一と言っていいほど話の通じる、余の理解者であった」

そうか、教会の枢機卿と皇族関係者ともなると、自然と付き合いはあるか。

「今回そなたを呼んだのは他でもない。皇帝としてはもちろん、余ヴォルフガング個人としての感謝でもある」

「感謝、ですか?」

「うむ……。教皇は『太陽の女神の代弁者』として様々な干渉をしてきてな。互いの方針に不干渉と決めていたが故に、何かしら咎めようとも考えたが」

「その内容の保証に出されるのが、太陽の女神の言葉となりますとなあ……」

「うむ……我らとしても、頭痛の種であった」

皇帝と宰相が顔を見合わせる。この辺りはシャーロットの言った話と一致するな。

教会と帝国は互いのルールに干渉しない。だから命令し合わない。

そのルールを、あの元教皇は破ってきていたのだ。

「女神の名のもと、支援を要請されたことも何度あったか。だが……断れば、教会に所属している【神官】が自主的に協力しなくなるかもしれない、と脅してきてな」

「彼奴め、流行病のタイミングを見計らって貴重な金の要求をしおってからに……!」

聞けば聞くほど、コルネーリウスのクソ野郎具合に溜息が出るな……。

それも全て女神の言葉とされてしまえば逆らえずか。

「なので、あの者も追い落としてくれたお主に、どうしても礼を言いたかったのだ。帝国を代表して礼を言おう」

「皇帝陛下より感謝の言葉を賜ること、まこと幸甚の極み、光栄な限りです。僕自身も、両親の 敵(かたき) を取れて良かった」

「敵……か。やはりローレンスが罠に嵌められたのは本当なのだな。何も言わずにいなくなってしまった。あのヘルマンの狡猾さに気付いていれば……いや、今更何も言うまい」

「イェニーも一緒にいなくなってしまったわ。時々サロンでお茶会をしていたの。帝国でも珍しくお洒落で綺麗な人で、 徽(き) 章(しよう) を縫ったハンカチーフの美しさは、本職の人以上で、皆の憧れだった……」

「……いい夫婦、でしたなあ」

余程その失態が悔しかったのか、皆しんみりしている。

すぐに皇帝は手を叩き、皆の顔を上げさせた。

「だが、こうして娘が最後には勝ったのだ。ある意味、ここまで含めてローレンスの勝ちかもしれんな」

「ほほっ、陛下の仰るとおりですな!」

「ローレンスなら、どこかで喜びに祝杯でも上げていても驚くまい」

そう軽い冗談を言い、場が湧いた。

悪くない雰囲気だ、ジャネットも少し笑っているように感じる。

――余裕があったのは、そこまでだった。

「陛下、遅れました」

「レオン、遅いぞ。もう皆着いている」

「噂の王国冒険者ですね! 確か【聖者】さんもいるって」

駆け足とともに、どこか聞き馴染みがある声が聞こえてきた。

その男が視界の横を通り、正面から声をかけてきた。

「男性だから、貴方かい?」

「《キュア》!」

(《キュア》!)

俺はその姿を視界に入れたと同時に、目の前の人物に全力の治療魔法を使った。

玉座の間に眩しい光が煌めき、後ろから兵士達がガチャガチャと武器を準備しようか迷う音が聞こえてくる。

だが、関係ない。今やるべきことに比べれば考える必要すらない!

光が収まった時、目の前の人物は唖然とした表情で、俺の顔と、自身の体に触れている俺の手を見比べる。

「……えっと、今の治療魔法……あっ凄いな! ちょっと喉の痛みとかなくなってるわ! もしかして風邪っぽいの分かった? 移しそうだったか? うわー悪かったな!」

目の前の人物は……何も変化がなかった。

本人が治ったと自己申告しているが、そんなことは ど(・) う(・) で(・) も(・) い(・) い(・) 。

目の前の人物は、皇帝陛下の左側にある椅子に座って言った。

「俺はレオン、バート帝国の皇子だ!」

そう言って、初めての――あまりに見慣れた――笑顔を向けた。

赤い髪、赤い目、勝ち気な顔つき。

俺より少し高い背丈に、自信に満ちた表情。

「よろしくな、【聖者】ラセル殿!」

レオン皇子は、ヴィンスと寸分違わぬ顔でそう言った。

自分達の出生の秘密。

何の手掛かりもなく、俺自身もう親の存在そのものを意識したこともなかった。

だが、帝国の教会を調査していくうちに、俺達はジャネットの出生の秘密を解明した。

状況証拠にしては完璧すぎる一致。皇帝達も、一目見てジャネットがかつて枢機卿であった者の娘であると言った。

本好きな少女は、【賢者】となって父の悲願を叶えた。

だが、それだけでは終わらなかった。

バート帝国のローレンス枢機卿が、俺の住んでいた孤児院に図書室を作った。

その帝国にルーツを持つのがジャネットなら、一緒に来たと思われる三人は?

その答えを示すように現れたのが、ヴィンスと瓜二つの男。身分は、皇子。

ただの偶然か、それともこの状況すら 愛の女神(ケイティ) の掌の上か。

この思わぬ出会いが、ヴィンスだけでなく、俺の出生に関する大きな謎を解決する糸口になるとは、この時の俺にはまだ想像すらできていなかった。