軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

フロアボス戦で感じる、自分の成長と相棒の力

大きな扉の前で、自分の——黒鳶色だったな——ローブに触れ、その下にある鎧に触れる。

「あ、そうだラセル」

「何だ」

シビラは自分のジャケットを裏返して、黒ずんだ裏地を見せた。あれは、ゴブリンの耳が当たって血が付いた場所だったな。

それからシビラは何を思ったか、ジャケットを剣で少し切った。

「キュアを使ってみて」

「わかった。《キュア・リンク》」

俺が魔法を使うと、シビラが見せるように裏返していた血の汚れが綺麗になくなっていた。

「次はヒールよ」

「いいだろう、《エクストラヒール・リンク》」

「……平気でそっちを選ぶの、あんたらしいわね……」

シビラの呆れ気味な呟きを聞き流しながら魔法の効果を見ると、服の切れ目が綺麗さっぱりなくなっていた。

そうか、クリーンの魔法を俺のキュアが含んでいるということは以前知ったが、ヒールには汚れではなく布地の修復にも役立つことを教えてくれたのか。

「ほんとあんたの魔法どんな仕組みしてるのよ、すごいわねー」

「……おい、マジかよ確証なしに使わせたのか!?」

「そうだけど?」

さもこっちがおかしいと言わんばかりに首を傾げて平然としているシビラに、改めてこいつの肝の据わり方が凄いなと感心するばかりだ……。

「でも、これで分かったわね。この魔法はローブの破損、そして鎧の欠損やへこみにも間違いなく効く。……まー鎧が腕を潰す形のままとか、肉体が戻る度に激痛だしありえないわ」

……ああ、それは確かにそうだな。腕を潰すように凹んだ鎧に向かって欠損した腕が戻っていくとか、あまり想像したくはない。

「あとそれと」

「何だ?」

シビラはそこで、いくつか俺に覚えておくことや、討伐後の指示を出していった。

その内容は何の意味があるのかよく分からなかったが……シビラが指示するのだ、きっと意味のあるものなのだろう。

俺はその指示の内容を頭に叩き込むと、ウィンドバリアをかけ直して大扉を開いた。

——扉の先に現れたのは、大きな空間。

特徴的なのは、長い階段があること。

俺とシビラはお互いに頷き、その階段を一つずつ降りていく。

ジャネットの本からの話でしか聞いたことのないような、王の謁見の間にあるらしい長い長い幅広の階段。三十段ぐらいあるか?

その階段を、全て降りた。

俺は、後ろを見る。

——開きっぱなしの扉に、薄い魔力の膜がある。

「《エンチャント・ダーク》」

(《エンチャント・ダーク》)

予感とともに剣を構えて、再び部屋の中心を見る。

そこには、さっきまで影も形もなかったというのに、いつの間にか金色の鎧が立っていた。

間違いない。ボスのリビングアーマーだな。

やはりシビラの予想通り、その階層と大幅に違う敵というのは現れないらしい。

……アンデッドというわりには、随分と派手で煌びやかな鎧を着ているじゃないか。

音の鳴った方を目の端で追うと、シビラは既に階段を駆け上がっていた。さすがの判断の早さだ。

俺もすぐにその後を追うようにしながら、フロアボスへと最初の魔法を放つ!

「《ダークスフィア》!」

二重詠唱した、少し大きな魔法の球。

一見地味な変化だが、シビラに教えられたとおり体積は二倍。この魔法が直接当たれば、かなりのダメージになる。

俺はその魔法の攻撃が直撃するのを確認——できなかった。

「……は?」

リビングアーマーは、腰を落としたと思った瞬間、高速のサイドステップをした。

そして手には、いつの間にか細く長い上等そうな剣が握られている。

その剣を数度振り回すと、こちらを見据えながら剣を構えた。

……こいつは、強い。

それも、単純な強さではない。

恐らくここまでの雑魚リビングアーマーとは、全く違う系統の魔物だ。

リビングアーマーのフロアボス版、ではない。金の鎧をした熟練の剣士という認識に改め直す必要がある。

相手が剣を構えたと同時に、腰の位置が低くなる。

——来る!

「っ……!」

腕に衝撃が伝わり、両手で構えたミスリルコートの竜牙剣が悲鳴を上げる。

いや、悲鳴を上げているのは俺の剣ではない。

「——」

フロアボスは自身の青白く輝く剣が少し欠けたと判断すると、バックステップ一回で十歩分は離れた。

奴は離れたと同時にサイドステップ一回で五歩分ほど横に動き、元の位置に戻るようにもう一度サイドステップをする。

表情は全く読めないが、こちらの出方を窺っているようだな。

それにしても、アンデッドの印象を根本から覆すような奴だな。

騎馬リビングアーマーのスピードに人間の小回りがついただけで、こんなに厄介だとは。

しかし……。

「お前のもミスリルコートっぽい雰囲気だが……闇魔法が乗った俺の剣の方が、上らしいな」

「——!」

自分の剣にはプライドがあるのか、兜の奥にある赤い光が強く光ったような気がした。

それと同時に、フロアボスが俺に向かって袈裟斬りにするような格好のまま走ってくる。

その程度……ヴィンスやエミーとの模擬戦で、何度も防いでみせたさ。

俺は衝撃を受け流す方向で相手の手元を凝視して——見失った。

「……は?」

すぐに敵にフェイントをかけられたと気付いた。

しかし素早い攻撃を繰り出すこのフロアボス相手には、その刹那の一秒が命取りだ。

はっとして両手で剣を構えた直後……!

「——《ストーンウォール》!」

俺のすぐ後ろから轟音が鳴り響き、後ろから俺の頭上を通り過ぎるように金色の残像が映る。

フロアボスは甲高い音で壁に両足と片手をつけて、まるで壁に着地したかのような格好をすると、そのまま壁を蹴って地面に降り硬直した。

「ボーッとしてんじゃないわよ! すんげー速いサイドステップで後ろ取って、次バックステップで助走つけてたわ!」

後ろを確認すると、紫の岩肌をした四角い壁が後ろ側に見えた。それはまぎれもなく、ストーンウォールの魔法の跡。

そうか……シビラは全体を俯瞰できる場所から、俺が後ろから攻撃されるタイミングであのフロアボスを 打(・) ち(・) 上(・) げ(・) た(・) のか。

なんと的確なコントロールとタイミング……! さすがだ、本当に頼りになる。

「すまん、助かる!」

俺はシビラに返事をしながら、剣を構える。

——ん?

一瞬違和感を覚えたが、すぐに正面のフロアボスの動きを察知して目の前に集中する。

しかし、どう対処したものか。

俺が迷っていると、なんとシビラが階段を降りてきた。

慌ててシビラが向かったストーンウォールの跡のところで合流する。

「危ないぞ!」

「あんたもアタシも術士でしょ、差はないわ! それよりそれ、寄越しなさい!」

シビラは盾を前腕に固定すると、俺から無理矢理剣を奪って両手で構えた。

俺の代わりにあのフロアボスと斬り合うような格好だ。

「大丈夫か、あいつは強いぞ!?」

「ラセル」

「何だ!」

慌てている俺とは対照的な落ち着いた声で、シビラは振り返らずに言った。

「素早い敵は……もう忘れちゃった?」

——ッ!

すっかり相手の強さに翻弄されて、頭に血が上っていた。

そうだ、忘れていた。

回避率が抜群に高い相手が、耐久力も抜群に高いなんてことは、有り得ない。

だから俺は、シビラから事前にこれを教わっていたのだ。

俺は自身の防御をシビラの構える剣と、シビラの作った石壁に頼る。

ああ……これがパーティーを、相棒を信頼し合う力ってやつなんだな。

フロアボス戦でも、こいつは冷静な熟練の先輩だ。

本当に心強い。

両腕を左右に開く。

そして息を吸い……その魔法を放つ。

「《ダークスフィア》《ダークスフィア》…………」

(…………《ダークスフィア》《ダークスフィア》)

交互に放たれた魔法は、何もない場所に落ち、爆発する。

一見、何の意味もない地面を攻撃するだけの無駄撃ち魔法。

しかし……その魔法の爆風に、最早隙間はない。

少しずつ爆風が作り出す壁が狭まってきたことで、ようやく相手もこちらの意図が掴めたようだ。

そして、この状況の打開策にフロアボスはシビラ目がけて一直線で剣を構えて——!

「《フレアソード》ォ!」

——シビラの高威力短距離魔法に、鎧を貫かれた。

「奥の手は一番いい瞬間まで隠しておくものよ。アタシが石魔法専門だと思った時点であんたの負け」

そして最大の武器であった自身の脚を負傷させたフロアボスは、俺の闇魔法を避けられず全ての攻撃を受ける。

数度当たったときには既に、鎧は動かなくなっていた。

頭の中に、声が響く。

「やったわね!」

「ああ、助かった。頼りになるな」

「今回ばかりはラセルちゃんもシビラおねえちゃんにメロメロね——きゃん!」

「調子に乗るな。……全く、その言動さえなければな……」

フレデリカ以外に、その呼び方を許すつもりはない。特にシビラには。

なんだか最近はやってほしくて言ってるんじゃないかと思うぐらいの、調子に乗るシビラへお馴染みのチョップをし、頭を押さえてしゃがんだシビラの背後に現れた、崩れた地面をぼんやりと見る。

俺がそうしていると……急にシビラが立ち上がり、こちらを見る。

真剣な表情が、俺の顔の至近距離まで近づく。

……な、なんだよ急に。

そして彼女は俺の耳にキスをするように触れ——小さく小さく呟く。

「ラセル、プラン二つ目」

俺はその声を確認すると、大きく深呼吸して座り込む。

そして、袖で額を拭きながら階段を見上げる。

扉には、魔力の壁がかかっていた。

「……こんなところにいたとはネ」

俺は扉の反対方面に顔を向ける。

そこには、ボスの鎧の近くで立つ、あの時見た魔王がいた。