軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

救われた少女は、帝国のスラムにもしもの自分を重ねる

本格的にスラムの中へと入っていくと、また先ほどとは違う光景が広がる。

いつから、何故こうなってしまったのかは分からないが、俺達王国民では見たこともないような光景が広がる。

窓の隙間からこちらを凝視する者、地面に倒れるように寝ている戦士、コップを地面に置いて座り込む老人、それと……後ろから俺達を追いかける子供。

「好意的な視線じゃないわね」

「ガキ好きのシビラとしては、ああいうのはどうなんだ」

「そりゃあもちろん可愛いわよ。でも、接し方の判断は難しいわよね。同情するのはあの子達に失礼じゃないかとか、それともちゃんと哀れんでほしいと思っているのか……施すことはできても、全員の救済は根本を変えなくちゃ無理ね」

「それも、そうだな……」

ここでその場の気分で金を渡すだけなら簡単だ。

だが、その瞬間に対象がこの場全員になる。特に俺達は余所者丸出しだからな。

一番後ろを歩いていたイヴが、後ろを振り返らず言った。

「うちらは慣れてるんで、狙わない方がいいよ」

追跡していた子供二人が警戒した、その瞬間――。

「――はい」

イヴは、子供の後ろ側に現れて二人の頭を叩いた。

恐らく【アサシン】の技術で気配を消して後ろに回り込んだのだろう。

慌てて振り向き、距離を取る少年達。

「ちなみにあたしよりも、前歩いてるお姉さんの方が遥かにクソ強くて速いよ。つーか全員あたしよりバチクソ強いけど。自分より強い相手が分からないんじゃ先はねーよ?」

そう伝えると、子供達は黙って俯いた。

そんな二人に対し、イヴは軽くぽんぽんと肩を叩く。

「えっと……難しいかもしんねーけど、どっかで身だしなみ整えて、表を歩ける職を考えなよ。そうやってあたしは上手くいったからさ……。それは、 元(・) 同(・) 業(・) として言っとく」

少年はイヴの言葉にはっとして顔を上げる。

そんな二人に「頑張りなよ」と最後に一言かけて、イヴはこちらに戻って来た。

「あっすんません、お待たせしました」

「気にするな。思うことがあったんだろ? こちらとしてもどう相手したものかと思っていたから助かった」

「へへっ、なら良かったっす」

イヴはかつて、俺が腰に吊り下げていた銀貨袋を盗み、エミーに捕まった。

結果的に今まで未遂ではあったが、そんなスリだった彼女に対して、シビラは服を与えて体を洗った。

それを切っ掛けに、イヴは天性の才と努力の末、今の力を手に入れた。

「確かに、ここの全員は助けられない。だけど、王国民だったあたしは助けられたっす。だから、他人事とは思えなくて、話だけでもって」

すぐには難しいかもしれないが、確かにイヴの言うとおりだ。

たまたま対応したのがシビラだったから良かったが、あれがセイリスの観光地を守る警備兵なら。

そう、捕まった後の対応が真っ当である保証はないのだ。

むしろこの帝国では、その後どうなるかあまりいい想像はできないな。

「助けたとは思わねっす。未然に防いだかも分かんねっす。でも、最良の結果を選ぶって、こういうことなのかなって」

最良の結果。それは、シビラがよく言う言葉だ。

イヴはそれに感化されたのだろう。

あの少年達にもイヴのような前向きな未来が待っていることを願う。

「うりうり~!」

「わっ、シビラさんやめるっすよ!」

「すっかりイヴお姉ちゃんになったわね~!」

シビラはイヴを抱き寄せて頭を撫でた。

気に入ったんだな、まあ気持ちは分かる。

ふと視線を前に向けると、俺達を先導していた男が黙ってこちらを見ていた。

「シビラ、あいつすげー見てるぞ」

「あら、待たせちゃったわね! それじゃ行きましょ」

「……」

男はこちらを見返すと、無言でまた歩き出した。

機嫌を損ねたかは分からんが、まあ連れて来いと言われている以上ほっぽり出すこともないだろう。

イヴの行動か言動の影響か、それから俺達をつけ狙うヤツは現れなかった。

やがて到着したのは、雑木林を背にした小さな家だった。

「ここか?」

質問に答えず、男は部屋の中へと入って行く。

俺も続いて中に入るも、部屋の中は暗い。

誰もいないようだ。

カーテンは閉まっており、昼間だというのに薄暗いランプがついているだけ。

全員で入ると、少し狭いとさえ感じてしまう。

「何なんだ、ここは」

「全員入ったな? 扉を閉めろ」

一番後ろでイヴが扉を閉めると、本格的に夜のようだ。

今更だが、罠とかじゃないよな?

俺はジャネットの方を見ると、向こうもこちらを見ていた。

「大丈夫だろうけど、警戒は一応しておいて」

「何があるんだ」

「下だ」

男が振り返り、「よく分かったな」と言いながら床に手をかける。

……あれは、まさか。

「ここが入口だ」

男が床を持ち上げると、そこには地下へと続く階段が現れた。

目に見えない組織――『不可視』のアジトがそこにあった。