軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

自分の分岐点を示される

近くで見ると、帝国の門と同じかそれ以上に、帝国城は威圧感を覚えるものだった。

サイズは小さく、馬車二台分程度。正面には鉄柵が降りている。

セントゴダートが観光者向けに豪奢にしているのなら、バートは敵対者の排除に徹底しているといったところか。

門番に近づくと険しい表情をされたが、名前と用事を言うとすぐに内部の者へと俺達の名前を伝えた。なお、ディアナ達の名前も確認された。

それから鉄柵がゆっくり動き出し、槍の歯でできた上顎のような入口が開いていく。

開閉権が内部にしかない上に、ここまで攻撃的な形状か。本当に厳重な軍事要塞だな。

内部に入ると、鉄でできた広い城も幾分か余裕が感じられる。

人通りが少ないが故に、妙に寂しく感じるぐらいだ。

それにしても、呼ばれたはいいもののここからどうするのか。

帝国を観光する趣味はないとシビラの方を見ると……シビラは鞄をごそごそまさぐりながら、じっと正面を見ている。

その表情からは、感情らしいものは読み取れない。

門を入ってすぐのエントランスホールは、大きく開けている。

シビラの視線の先には誰もいない。

いないはずだが――。

「ふふ、来たわね」

突如として、そこに聞き慣れたくない妙な甘さを感じさせる声が響いた。

瞬きをする。

その瞬間、ホールの中心に、ケイティが現れていた。

カジノの騒動を片付けた俺から見ても、その出現は何の仮説も立てられないほど異様であった。

何だあれは、どういうトリックだよ……!

「視線が熱いわ……芯から火照ってきちゃう」

「はいはい、あんたの独り言はいいから」

「あら、つれないわね」

ケイティの異様な反応に辟易したシビラが、さっさと言葉を促す。

「そうだな、こいつの独り言に付き合うとまた愛だの愛だの更に愛だの言い続けて話が終わらん」

「まあ、私のことをそんなに深く考えてくれてるのね。それもまた愛だわ」

「ほらな」

ケイティには反応を示さず、後ろにいるケイティと初対面の連中に声をかける。

ヴィクトリアはじっと観察し、ヘンリーは……まあ美女だし見てしまうのは仕方ない。ただ事前に気をつけるようには言っている。

なお、ディアナに至っては「なんかすげー腹立つ」というコメントを貰った。実に結構。

「ふふふ……もっと愛し合いたいけど、そうもいかないわね。サロンに招くわ、素敵な場所なのよ」

王国民からは未踏の地もいいところの帝国城を、さも自分の庭であるかのように紹介するケイティ。

既に皆、操り人形ってか?

急に魔法を使うと問題が起こるかもしれないが、それでもいざとなったらさっさとキュア・リンクでいいかもしれんな。

そんなことを考えながら、俺はケイティの隙だらけの後ろ姿を追った。

……ここで手を出すほど愚かではない。罠にしか見えないからな。

帝国城は、一定の場所から先は随分と綺麗に作られており、むしろ王国よりも派手かと思うほどだ。

案内された部屋の中は、外からの印象とは違って随分と豪華絢爛といった様子である。

飾り付けが金中心で、少し目に痛いほどだ。

この飾り方はエーベルハルトの部屋を思い出すので、あまりいい印象は受けないな……。

「ふふっ、本当に――愛のない部屋だこと」

一方ケイティは、この部屋に妙に不満げだった。

「緊急時に換金できることを念頭に置いているから、方向性が感じられない。建物はまあまあだけど、飾りはまるで商品棚ね」

珍しい、意見が一致したな。

口に出すつもりはないが。

一方シビラはそんな話はどうでもいいとばかりに、大理石のテーブルへと脚を組んで乗せた。

こちら女神、大変お行儀が悪い。

「で、結局わざわざ呼びつけるだなんて、一体何なのよ。こっちはあんたを連れ帰るために動いてるんだけど、自分は大丈夫っていう余裕でも見せてるわけ? 珍しく生存性バイアスかかりまくりじゃない」

「そうね、確かに大丈夫よ? 余裕だもの。でもシビラちゃんも分かってるんじゃない? 今治したら、聞きたいことも聞けないって」

「へえ、秘密もべらべら話す気があるって感じね」

「もちろんよぉ。その方がきっと楽しくなるもの」

美人の女神が互いに笑顔で会話をしているだけだが、発言の節々に薔薇の棘が見える。

この手の感受性が強そうなイヴなんて真っ青だし、ジャネットはテーブルの下で握り拳を作っている。

逆にエミーは『仲よさそう?』とでも言わんばかりに薄ら笑顔で首を傾げている。この状況でその顔ができるの、ある意味豪胆すぎて逆に凄いぞ。

「そういえば、セカンドはどうした? ただの呼び出し係か?」

「メリッサよ」

「あいつは自分でセカンドと呼んでほしいと主張したらしいが、あんたの愛は随分と浅瀬をチャプチャプしてるんだな」

「まあ! 私より深い愛を自認してくれるのなら、もう『愛の女神』の教徒でもいいわね!」

よくねえよ、と返すのめんどくせえ。

代わりにシビラが「あんたには無理よ」と返すも、薄く微笑まれるのみ。

煽るのはこの辺にしておくか。

「で、結局何の用なんだよ」

いつまで経っても進まないので、早々に話を促す。

どのみちセカンドだろうとアリアだろうと、出してくるつもりは最初からないのだろう。

シビラは真面目に話を聞く気がないのか、ずっと鞄をゴソゴソ漁ってるしな。

「ええ。まずは愛を与えてくれたことに感謝を。やっぱり【聖者】であるあなたの愛は本物だわ」

「何だよそれ、真贋の差も分かんねえよ」

「それだけあなたが、いつも真なる愛を基準に生きているということ」

相も変わらず曖昧な回答なので、早々に聞き流すことにする。

俺は俺の思うように生きているだけだからな。

「ふふっ」

値踏みするように、金の瞳が俺を、次にエミーを、最後にジャネットを見る。

……何だよ、俺達に用があるのか?

「取って食べようというわけじゃないわよぉ、そんなに警戒しないで」

「警戒されたくないのなら、せめてヴィンスを返してからにしろ」

当然のことである俺の主張に対し――ケイティは自らの両頬を包み込むような姿であの異様に粘度の高い恍惚とした笑みを浮かべた。

美人のはずなのに、違和感しか覚えない貌だ。

こちらの全員が、その異様な雰囲気に一歩引いている。

「……ああ、いけないわ、抑えないと……。そう、あの可愛く縮こまっている子犬のヴィンス君よね」

どういう表現だよ、俺の知ってるヴィンスと違いすぎるぞ。

少なくとも、行きたいと思える場所ではなさそうだな……。

「そうよね。四人はいつも一緒だったものね。何があっても。心はまた戻って来る。愛、愛、愛だわ……」

「その愛とやらを引き裂いている本人が、俺達に何の用だ」

そんな返しも、当然のように余裕の表情で受け止める。

ケイティはようやくまともに座り直して、俺の目をその金の双眸に収めた。

何の話をするんだ?

「ところで貴方達は、真剣に考え直したことがあるかしら?」

「何をだよ、目的の言葉を言え」

「ふふっ、それはね――」

ただ、俺達はまだ覚悟できていなかった。

ケイティが何故、俺達を呼んだかを。

どんな揺さぶりをかけて来るか、考えが足りていなかった。

だが、誰が予想できただろうか。

予想できたとして、動揺せずにいられただろうか。

ケイティが、俺達の心の一番柔らかい部分へと、土足のヒールで遠慮なく踏み込んできた。

「――自分達の年齢なら、生みの親は生きている。どこで何をしている誰なのか、何故自分達を愛さなかったのかって」