作品タイトル不明
詐欺師女神の種明かし
「つーわけで、作戦成功だ」
宿に戻った俺達は、皆が揃ったのを確認すると宴会を始めた。
テーブルには山盛りのケバブで、早速エミーが笑顔でかぶりついている。
「いやー、それにしてもエミーさんの棒読みはちょっと笑いそうでしたね!」
「ングッ!? そ、それは……むしろイヴちゃん、あんなに自然に演技できるとは思わなくて、むしろそっちがびっくりしたよぉ」
「私も驚きました……正直、言わない方が良かったかなってヒヤヒヤしたぐらいで……」
エミーの反省に、マーデリンも乗って困ったように笑う。
三人は、ギロチン台の上で囃し立てる役をしていた。
もちろんカジノの不正に関しても、またダイスの破壊に関してもだ。
あんなの普通、たまたま踏んだぐらいじゃ破壊できないからな。
ただ、演技力は確かにちょっとヒヤッとしたな。
そんな二人に対してフォローを入れたのは、シビラであった。
「何言ってるのよ、ああいう場のただ同意するだけの二人目ってのは、こういう場合に有効なのよ。そこから火がつくんだから」
そんなことを言う当の本人は、一人ワインの瓶をそのままラッパ飲みしながら話す。
「それにしても、思い切ったことをしたよな。ジャネット、どうだった?」
「楽しかった」
実にシンプルな回答。そりゃ良かった。
ジャネットは、シビラとともになんと空を飛んでいた。
王都で俺が闇魔法を認めさせたことが影響してか、シビラの羽がそれなりに強い力を持つようになったのだ。
その結果、シビラはジャネットを抱えて、雨の帝国の上空へと飛び上がったのだ。
後はもう、雨に紛れて雷を落とすのみ。
「調整は難しかったけどね。でも、僕自身も腹に据えかねていたから」
「そうなのか?」
「本心からすると、純粋にカジノを遊んでみたかったのはある。不正さえなければ、あれほど知識も実力も関係ない娯楽もないから」
なんというか、わざわざ『負けるかもしれない戦い』をそこまで楽しみにするあたりがジャネットだよな。
とはいえ、何だかんだあのカジノでダブルアップに挑んでいた時は、確かに高揚感があったように思う。
シビラが嵌まったのも分かるというものだ……と言いたいところだが、やはりマジで破産するまでいくのは有り得ないな。反省しろ。
「マーデリンも、最後に随分と働かせてしまったな」
「いえ。むしろこうして協力の機会をいただけたことそのものが、私にとって何より嬉しいことですので」
生真面目すぎる上級天使は、むしろ働かされたことそのものを喜んでいた。お前はもうちょっとシビラぐらいはっちゃけてもいいぞ。
マーデリンの役目は、【賢者】でも珍しい状態異常魔法。
特にその相手を眠らせる魔法は、人間を相手にする場合において非常に強力だ。
相手を怪我させずに、穏便に済ませたいマーデリンならではの魔法だな。
その魔法のお陰で、俺達は悠々と教会の中に潜り込めた。
事前にやったことは、本当に驚いたが。
「あんなことができるなんてな」
シビラがやったのは、処刑台の改造。
なんと、あの床を回転させるように細工をしたのだ。
ちなみに力仕事部分はエミーが行った。
処刑日の雷が落ちた瞬間。
皆の注目が外れ、更に雷光が周りのものを視認できなくなった。
その時に、改造部分をぐるりと回転させる。
後は、神官になりすました俺が床に潜り込み、広場から逃げ出せばいい。
元々裏面に仕込んでいた、ダミーの死体が燃え上がって終わり。
特にディアナは元々包帯姿なのだ。ダミーの死体が包帯を巻き込んだだけのスケルトンと魔物の焼肉でも、あの場でいちいち気にする者はいなかった。
細工をした処刑台も、偽物の死体も、度重なる落雷と炎上で最早原型を留めない。調べる手段がないのだ。
「人は、案外ちょっと注意を逸らされるだけで、大胆な行動すら気付かなくなっちゃうものなのよ」
シビラはトランプを手に取り、先日と同じように軽く切る。
急に、ガタガタッ! と、扉が鳴った!
誰かに話を聞かれたか……!?
「あ、今のアタシが風魔法で揺らしただけでーす」
皆が扉の方を向いていたが、シビラの言葉にほっとすると視線を戻す。
すると、シビラは手の平をすっぽりカードの上に載せていた。
ぺこり。
カードがたわむ音がしたと同時に、手の平がこちらに向けられる。
「……あ、ああーっ!?」
エミーが驚愕に声を上げた。
右手の平の中には、親指付け根の母指球辺りで挟み込むように、思いっきりジョーカーのカードが挟まっていた。
隠していると表現するにしては大胆で、手の形も不自然だ。
「後はこう」
その手の形のまま、指先でカードをめくる。
浮かせた右手を大きく開くと、当然ひらりとジョーカーのカードが落ちる。
「だから、案外分かんないものよ」
一番上に今落ちてきたばかりのジョーカーを見せつけると、道化師よりも愛嬌のある悪戯顔で「にしし」と笑った。
カードの束を置くと、次は初日に見せた、あのボールを両手に持った。
こちらに手首を向ける形でボールを見せ、ぱっと手を離す。
「あ、あ、あ……あーっ、あーっ!」
再びエミーが、面白いぐらい驚きに声を上げる。
シビラは「いい反応ねー!」と心底嬉しそうに笑った。
手の中にあったボールは、何てことはない、手首から袖の中に入ったのだ。
腕を下に向け、軽く振ると……当然ボールが袖から手の平の中に入る。
「右手と言われたら見せる瞬間に左手に出すし、逆もできる。タネが分かれば簡単な、勝率十割の賭けね」
なんというか、感心すればいいのか、畏怖すればいいのか。
こういうのをさらっと出してくるあたり、この詐欺師女神に詐術で挑もうという気にはとてもならないな……。
全く、味方でいるうちは本当に頼もしい限りだ。
「今度はアタシが質問。エミーちゃん、ルーレットを破壊した判断って結局何だったの?」
そういえば、そこをまだ聞いていなかったな。
あれはファインプレイであると同時に、とんでもなく大胆な一手だった。
もしも勘違いなら、大問題。
それこそ弁償だけで済めばいいぐらい、信用問題に関わるからな。
「それなんですけど、ルーレットの球の動きが変だったんです」
「……変? どういう風に?」
「一瞬だけど、球が戻ったんです。黒の32に行きそうだなって思ってたのに、緑に急に戻ったところで球がびよんびよんって揺れたんですよね」
「……あの高速逆回転していたルーレット盤の上で、磁石に吸着した瞬間のブレが見えたってこと?」
「はい。だからヴィクトリアさんも、ルーレット盤見ていて酔っちゃったんじゃないかなあ。不自然なのが感じ取れちゃったというか」
エミーの説明に、シビラは椅子に深く腰掛けて「こりゃ降参」と両手を挙げた。
確かにそれは、エミーの動体視力でないと見抜けないな……。
同時に、目がいい二人だけが体調を崩していた理由もよく分かった。
一通りの話が済んだところで、皆の視線は一人の方に向く。
「堂々としていれば分からないとはいうが、本当に分からないもんだったな」
「でしょ。アタシの見立て通りだったってわけよ。……ホラ、黙って縮こまってないで、もっと堂々としなさい。明日からは胸張って、素知らぬ顔で街中を歩いてもらうんだから」
「……お、おぅ……」
シビラは笑い、ディアナの傷一つない腹を叩いた。
そんな二人の様子を肴に、紫色の剣士は微笑みながらワインの瓶を開けていた。