軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

襲来の意図も、能力も未だ朧

俺達が帝都まで捜しに来た女は、今まで見つからなかったことが嘘のように突然現れた。

まるで、意識の外から突然現れてきたようだ。

「……何の用だ」

目の前に現れた存在に、警戒しながら腰に手を当てる。

帯剣はしている。

何か動きがあれば、シャドウステップで回避するつもりだ。

無論、別働隊のことも考える必要があるだろう。

「ふふっ、愛らしい……。でも安心して? 今日はあなたに何かするつもりはないわ」

「それを信じるとでも?」

「信じなくても結果は変わらないわぁ」

金の相貌を細め、値踏みするように俺の全身に遠慮の無い視線を這わせる。

いい気分ではない……だがそれ以上に気になるのは、周りの人間が誰もケイティの方を向いていないことだ。

何なのだ、この状況は。

現段階で分かることは、ジャネットの予想通り姿を変えたり隠密状態で隠れているのではなさそうということだけだ。

「シャーロットに会ってきたのね、僅かに天界の残り香を感じるわ。あの子も人の愛に心のどこかで飢えていたのね」

「勝手に人のことを断定で喋るんじゃない、何でも愛に変換しないと気が済まない病気か?」

「まあ! あ(・) ん(・) な(・) こ(・) と(・) があって尚ロットのことを気に掛けるなんて、愛に溢れているのね」

……嫌な煽り方をしてくれるな。

太陽の女神(シャーロット) と俺の関係は、一言で言い表せるようなものではない。

かつて勇者パーティーから追放された原因の【聖者】を俺に与えたのが太陽の女神だ。

同時にああなることを知りながらも、最悪の結果――俺が【勇者】として道半ばで死ぬこと――を避けるために、恨まれてでも今の結果を選んだ存在でもある。

恨んでいる、と言い切れるほど単純でもない。

ただ、間違いなく愛してはいない。

「随分と『愛の女神』の愛は安売りだな、みじん切りにして春の猫にでも食わせておけ。……あんたの用事はそれだけか?」

「まあ、私のことにも意識を割いてくれるのね。愛だわ、愛だわ……」

仮に愛が酒精なら、会話の半分で酔い潰れそうな勢いだな。

最早まともな会話など、あちら自身が常に酩酊状態で不可能と考える方がいいだろう。

それこそ――魔王のようにな。

「……」

「ふふ、睨む目も素敵。長話していたいけど、無視されては愛がないのよねぇ」

この場に似合わぬ優雅な微笑みで緊張感なく笑うと、ケイティは今まで湛えていた微笑みを消した。

纏う雰囲気の変化に、否応がなく警戒心が高まる。

「すぐに、王国へ帰りなさい」

「断る。理由も言わずに相手が言いなりになるとでも?」

「この 帝国(くに) には、愛が足りない。あなたはそれを理解させられてしまう」

また、愛か。

対象範囲が広すぎる上に、判断基準も曖昧。

「そろそろ『愛』以外の単語を使って具体的に言えよ」

「ふふ、難しいわね」

何でだよ。

と突っ込む前に、ケイティは俺に背を向けて話を続けた。

「あなたは、ロットの作った常識によって成り立っている。だけど、ここにはその常識が通用しない。再び曇ったあなたを手に入れても、満ち足りないもの」

結局抽象的な言葉だけで、明確な答えは得られなかった。

言うことは言ったとばかりに歩き始めたが、こちらにも用事はある。

「待て。セカンドを連れ去ったのは、お前だな?」

「セカンド……セカンド、ああ、あの愛のない名前の子ね。可哀想に」

「勝手にお前の基準で哀れむな。同時にその反応、肯定と捉えさせてもらう」

名前を知っているということは、既に接触済みということ。

その上でセカンドからの連絡が途絶えているということは、かつてのマーデリンと同じ状況にセカンドがいるのだろう。

俺の言葉に、肩越しに振り向き口角を上げるケイティ。

「マーデリンが取られちゃったんだもの、その代わりよ」

「まだ聞きたいことがある。ヴィンスはどうした?」

「ふふ……あの子は可愛い、とってもいい子よ……。ああ、勿体ない……食べ応えがあって、包んでいても気持ち良くて……」

会話になってねえ。

ここに関しては、答える気はないってことか。

それとも、頭の変な部分でも刺激されるのか?

「……ああ、いけないわ、止まらなくなっちゃう。そうねぇ……帝国から出て行かないのなら、せめてこの時間をあなたが帝国の愛を知って成長するための試練にしてもいいかもね?」

また随分と勝手な提案をされたものだ。

俺が愛の試練を受ける?

何の必要があるんだ。それで成長するというのもよく分からねえ。

第一、何故敵である俺の成長を望むんだよ。

……いや、そういう部分も含めて既にケイティ自身が自分の考えの整合性を取れなくなっているのかもしれないな。

魔神に洗脳されつつも、内側の部分では『愛の女神キャスリーン』が何かしらの抵抗を続けつつ、俺との会話を観測している可能性は高い。

マーデリンのようにな。

「この帝都での欲望に巻き込まれた、愛の悲劇。それでも尚終わらない愛の炎。怒りの蝶は、秘められた瞳の奥に――」

言うだけ言うと、ケイティは王国の反対側である東門へと歩いていく。

何故か門番連中は一切反応せず、通行人も避けて通るのみ。

まさか俺から見えるまま堂々と素通りするとは思わず、動くのが遅れてしまった。

「待て! 逃がすと思うか」

「ふふっ――――あなたが逃がされてるのよ?」

ぞわり、と総毛立つ声が耳元から聞こえ、振り返りながら剣の柄を握る。

が、後ろには誰もいない。

「……ん? 何だ?」

それと同時に、さっきまで俺が叫んでも何一つ反応しなかった周りの帝国民が、警戒心露わに周りを振り返る俺に声をかける。

一人、また一人と俺の方に顔を向ける帝国民。

私服姿の女性や、帯剣した冒険者。それらが突然俺が現れてきたように振り向いた。

何だ、どうして今の瞬間から突然俺が見えるようになった?

いや……そもそも今の現象を 見(・) え(・) る(・) よ(・) う(・) に(・) な(・) っ(・) た(・) と表現するのは正しいのか?

周りの人も何か虫でも飛んでいるのかと、俺の周りを軽く見回し、すぐに興味なさそうに足を進め出す。

多少浮いているが、それだけ。今の俺はそんな感じだろうか。

門の方を振り返るもケイティの姿は既にそこにはなく、門の上には薄青い宵闇の空に朧月が静かに佇むのみであった。