軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

情報の断片から一つずつ状況を紐解く

「現段階で分かっていることをまとめるわ」

「といっても手がかりはない上、相手の能力が分からないということだけ分かるな」

「いやー、その通りなのよね。あっ、ビールおかわり!」

討伐隊参加の後、俺達は街の様子を調べつつ聞き込みも行ったが、結局めぼしい情報は得られなかった。

相手の隠れる能力は【アサシン】の隠密スキルより上で、十中八九パーティーメンバー全員に適用できるのだろう。

「ある意味その能力の高さを再確認できたということが収穫かしら……んぐっ、ぷはぁ〜っ!」

「嬉しくない情報だな……」

内容とは裏腹に気分良さそうにビールを飲むシビラの姿に今日何度目か分からない溜息を吐きつつ、俺も食事に手をつける。

今日は肉のブロックとサラダが一つのプレートに載ったもので、エミーは相も変わらず山盛りである。

「ヴィクトリアは特に振り回してしまってすまないな」

「いいのよ〜。久々だから私も変わっている場所とか確認できたもの」

ヴィクトリアには、街の中の案内を担当してもらった。

大きな店などは変わっていなかったが、一部潰れた店や空き地になった場所などもあると聞く。

「みんなどこへ行ったのかしらね。新しいお店の従業員になっているのならいいけど」

そう呟きながら、帝国出身の【剣士】はナイフを器用に使いながら優雅に食べる。

一方、港町出身の【アサシン】であるイヴは、フォークで刺した肉塊にそのままかぶりつきながら、疑問を呈する。

「それにしても、あたしの隠密ってある程度から上の相手にはすんなりバレちゃうんすね。先に知っといて良かったっす」

「すんなり、というわけではないわよ。『隠密』なしで街の人に溶け込む状態で発動すると、本当に分かりにくくなるもの。普通の格好と行動で視線が怪しくなければ、捜し出すのは困難ね」

「おおー、なるほど……」

シビラの説明に、イヴは感嘆の声を漏らす。

こういう辺りはさすが冒険者の先輩らしさがあるな。

「【アサシン】やってるあたしがこういう質問するのもアレなんスけど、仮にあたしがシビラさんを狙ったとしたら、シビラさんはどういう対応しますかね?」

「いい質問ね、そういうのはじゃんじゃん聞いていいわよ」

確かに、いざその状況になるとイヴは圧倒的に有利だ。

「女神教の教え以前に、殺人ってのが 職業(ジョブ) ごと剥奪されかねないぐらいの重罪であることなどを全部置いておくとして、【アサシン】が誰かを狙うとする。【魔道士】とかは一番やりやすいわね」

シビラは分かりやすいように、自分の 職業(ジョブ) の名前を挙げた。

その上で、ビールジョッキ片手に解答の一例を示す。

「狙われていると知らなければ防げないけど、狙われていると分かれば少しは対処できるわ」

「マジっすか」

「ええ。『隠密』でない相手は、強く意識することができる。逆を言うと?」

「『隠密』のスキルが発動していたら、意識しようと思っても薄く見えるのが逆に不自然になる?」

「そういうこと。ま、人混みだったらあんま意味ないけど」

なるほどな、目立たないことが却って目立つ、ということか。

「……ん? あれ?」

ふと、ここでずっと黙って食事を食べていた人物が急に首を傾げ始めた。

緑の髪を横に揺らし、浮かんだ疑問を見つめるように虚空に視線を向けている上級天使。

「どうした、マーデリン」

「あっ、すみません。……私は同業に近いので、セカンドのことを考えていたのですが」

ギルドマスターであり『水の女神』エマの斥候であるセカンドは、マーデリンと同じ上級天使。

確かに近い出身の者となると、そいつの心配をするのは当然か。

「ふと疑問に思ったのです。私はイヴさんの隠密も、見えはするものの効くぐらいだったので、特別目がいいわけではないのです」

「ああ」

「では何故、誰も見ることができなかったケイティを、セカンドは撮影できたのでしょうか」

その言葉に、俺達全員が目を見張った。

そうだ、確かに今考えると、あの姿を留められたのはあまりに不自然だ。

「なるほどねー……やってくれるわ。視線も合ってないし、写ってたのは遠くから。だけどそれら含めて、ケイティは完全にセカンドに気付いている」

「そう考えるのが自然だな」

「良い情報ではないけど、知らないよりはマシ。つまりセカンドは、相手の手に落ちている確率が高いわね」

確かに今の話の流れからすると、文字通り知らないよりはマシな情報ではあったな。

マーデリンが頭を下げてセカンドのことを頼んできたので、頼まれずともやるつもりだと返しておいた。

急にケイティに連れ去られた上級天使という意味では、今の自分と同じ立場であるセカンドの内面を一番憂慮しているのだろう。

ならば、早めに救出してやらないとな。

一つの結論が出たところで、皆の食事も終わった。

「やっぱ人数集まると気が楽でいいわね。ジャネットちゃんも食べてるー?」

「ええ。どれも珍しい美味しさですね、帝国の料理は。料理ほど知識が増えると一番経験したくなるものもないと思います」

ジャネットはそう言いつつ、空のプレートを見せた。

なるほど確かに名前と説明だけ知識にあっても、食べなければほとんど意味がないのが料理だよな。

「エミーちゃんはどう? 満足した?」

「全種行きました! 先日のケバブと味も近くて、やっぱり帝国の味って感じですね。私好きです」

いや全部食べたのかよ、確かにバリエーション豊富だとは思ったが。

ちなみにイヴはまだ見慣れないらしく、見る度「本当に入ってる……? あの体のどこに……?」と呟いていた。

うん、まあそれに関しては俺も不思議に思っている。

多分胃袋の中がマジックバッグとかになってて、別腹が自動的に作られる仕組みなのだろう。

「さて、満足したところで」

さすがに今日はもう一旦宿に戻る時間だな。

いきなり昼間に金を賭けて叫び始めたのは驚いたし、ああいうことはなるべく控えてほしいところだ。

ただでさえ国外から来た上に捜索活動で怪しいのだ、皆目立つことは避けたいだろう。

——などという甘い見通しが、この 駄女神(シビラ) に通用しないことを俺はもっと認識しておくべきだった。

「夜はカジノに行くわよ! ちなみに予約はもう取ってるわ」

まさかのギャンブル二連戦が決定した。