作品タイトル不明
最後の疑問から新たに生まれる、自身の謎
魔法陣の描かれた場所に、足を踏み入れる。
ここから、神々の住まう『天界』へと向かうのか。
「そういえば、結局俺の用事だけで終わらせてしまったな。エミーとジャネットも、個人的にシャーロットと話があったんじゃないのか?」
先ほどの『もしもの世界』へと意識が飛ぶという衝撃的な体験が俺の要件で出てきたため、その驚きが大きすぎて事前に何を話すかという部分がふっとんでしまった。
二人とも話があったはずだよな。
「あっ。あー、そっか。でもシャーロットさん、時間あります?」
「いつでも魔法陣は起動できますし、エミーさんさえ立ち話でもよろしければ」
「はい! それじゃあえっと、好きな話は何ですか? 興味あります! ちなみに私は『愛慕』です!」
ここに来てやっぱりそれかよ。
ある意味そのぶれなさは凄いな。
「まあ! 『愛慕』はやっぱり定番ですよね。そうですねー……『祈り』も愛が激しいので憧れます」
「えっ、『女神の祈りの章』ですか? 確か婚姻は女神に捧げて、本人は未婚だったような」
「あの人、【勇者】より純潔を女神に捧げた清廉な描写ばかりありますが、本命は【剣聖】の方なんですよ」
「え……えええええええええーーーーーっ!?」
女神からもたらされる情報のあまりの衝撃にエミーが驚いている反面、ジャネットは納得したように頷いていた。
「確かに『女神の祈りの章』は、その聖女に対応した『勇者伝説』において、私生活での場面が少ないのが気になっていました。それはつまり……」
「はい。勇者主観と第三者視点で編纂された『勇者伝説』では、必然的に私生活で聖女と会う機会が少なかったため描写が少ないのです。わざわざ 太陽の女神(わたし) から隠れるように、二人は夜だけ会って秘密の恋をしていたんですよ。情熱的ですよね」
それを勇者は『婚姻を女神に捧げた』からだと思っていたが、聖女視点だと単に剣聖と関係を持っていたから勇者へわざわざ会いに行かなかったというわけか。
なるほど、さすがキュア・リンクを隠していた聖女様なだけはある。
もしかしたらこの情報に全く驚いていないのは俺だけかもしれないな。
「き、貴重なお話でした……! 書かれていない所にも、ラブロマンスはあるんですね!」
「お楽しみいただけたようで何よりです」
エミーの話が終わり、ジャネットが手を挙げた。
「僕からは二つ。シビラさんは【魔道士】だけど、シャーロットさんもそういう能力があるのですか?」
「私ですか? なら、見てもらった方が早いですね」
そう告げると、手元にタグを出してさらりと自らの情報をあっさりと出した。
『セントゴダート』――シャーロット【弓術士】レベル100。
唐突に現れた情報の圧倒的な数字に俺とエミーが驚いていると、ジャネットは違う場所を見て驚いていた。
「……弓の 職業(ジョブ) ですか。なるほど、これは特別ですね」
「この 職業(ジョブ) が、か?」
俺の疑問に、ジャネットは一つの問いで答えまでの道を示した。
「ラセル、僕達は何のために、女神の 職業(ジョブ) を得ている?」
「……そういうことか」
俺達は通常、ダンジョン攻略のためにこの力を使っている。
弓というものは、狩りをする時以外に使う場合は……過去に遠い国の戦場で使われた記録がある。
盾を持った重戦士の後ろで、前衛に当たらないように敵の陣地目がけて空に射かける。
それが弓矢の基本的な使い方だろう。
攻撃魔法と弓矢の違いは何か。
それは、重力に引かれて遠距離攻撃が地面に落ちていくことだ。
壁や細い鍾乳石など障害物に当たったときも、魔法ならある程度問題なく到達する。
反面、矢がそういった場面で使えるとは考えにくい。
天井の低いダンジョンにおいて、この【弓術士】という 職業(ジョブ) は役に立つのか。
恐らく、かなり向いていないはずだ。
だが、それが太陽の下なら。
「つまりレベル100であることよりも、ダンジョンで使えない弓矢を専門とする 職業(ジョブ) を有していることが、シャーロットが『ダンジョン探索を専門としない存在』であることの証明になるということか」
「ん」
ジャネットが早々に出した結論に、シャーロットは実に嬉しそうに答えた。
「理解が早いです! さすが未来の政務を担う存在!」
「僕にそんな能力はありませんよ」
「またまた、謙遜してますね。——さて、そろそろ魔法陣を起動させる時間です。皆様は真ん中の方に寄って下さいね」
シャーロットに促されるまま、俺達は魔法陣の中心に立つ。
すると、地面の複雑な紋様が淡く光り出した。
ふと、ジャネットが思い出したように声を発した。
「起動まで時間がかかりそうですね。ああ、そういえばもう一つ聞き忘れていました」
「そうですね、時間はありませんが、手短でしたら」
「はい。歴代の【勇者】は、主に貴族階級の者がなっていました。何故今回は、ここにいない僕達の友人なのでしょうか」
ジャネットの質問は尤もだ。
俺自身、ジャネットから 職業(ジョブ) の傾向の話を聞いたときには思ったものだし、当然の疑問だったからな。
だが。
「あれ?」
シャーロットの反応は、意外なものだった。
「ですから、そうですよね。今回は、バート帝国の中枢、その中でも有力者の血筋から選んだはずです」
突然変なことを言われて、思わず突っ込んだ。
「おい、俺達はアドリアの孤児だぞ。帝国は行ったこともない」
俺の言葉に、シャーロットは驚愕を露わにしながら呟いた。
「あれ……? もしかして、人違い……?」
その本気の独り言がはっきり聞き取れたところで、俺達の体が一気に浮き上がった。
今、俺達は空に浮かんでいる。
足元にはフロアボスと会うと再々見ることになっている魔力壁、それだけが俺達を支えている。
凄まじい光景だ。
巨大な王都が、足元に小さく見える。
だが、エミーですら今の状況ではしゃいだりはしなかった。
つい先ほどの会話を受け、皆の視線がシビラに集まっている。
「……なあ、シビラ」
「ええ」
「シャーロットは最後、確かに『人違い』って言ったよな」
「そうね」
「何だあれ、マジなのか?」
シビラは腕を組みながら、「う〜ん……」と唸った。
「正直ここにいる三人が、三人それ相応の 職業(ジョブ) を得るだけの意志の強さみたいなものを持っていると思うのよ。【聖者】、【聖騎士】、そして【賢者】ね。十分に値するわ」
「じゃあ、ヴィンスはどうなんだよ」
俺の言葉に、シビラは視線を王都から違う方へと向けた。
王都の東、人が通れないほど険しい渓谷を隔てた、その先へと。
あの先は、帝国だ。
「本当に皇子であるか、マジでただの人違いか」
「【勇者】に人違いってあっていいのか?」
「あっていいわけないけど……シャーロットって基本的に全ての人間を平等に見ちゃうのよ。だから、本気で間違えたかもしれないわね」
やっぱり『太陽の女神』、駄目じゃねーか。
ぽんこつ第三号か?
さすがに思わぬ展開に、エミーとジャネットとも顔を見合わせた。
「でも、正確な答えを出すには決定的に足りない情報がある」
呆れる俺達に、シビラは一つ、根源的な問いをした。
「それは——貴方たち、とりわけヴィンスの生みの親が、今となっては何者なのか分からないという部分よ」