作品タイトル不明
二人の女神
「う……嘘でしょ……」
金髪の女神が、その相貌を驚愕の表情一色に塗り、震える指を王都の空に向ける。
一方その隣にいる銀の髪を持つ女神は、慌てふためくその姿を見て実に愉しげに笑っていた。
「アーッハッハッハ! やったわね!」
「やったわね! じゃないよお!? えっ? ほら、ほらさあ! 覆面被って影の英雄! とか、無詠唱で闇魔法とかあるでしょ!? あんなに堂々とする!?」
「こんなに狼狽えるシャーロットを見られるんだから、やっぱあいつは最高だわ!」
「うわーんシビラの変なところが移ったー!」
シャーロットはそれまで纏っていた女神としての静かさをかなぐり捨て、頭を抱えて悲鳴を上げた。
その姿にシビラはひとしきり笑った後、目を細めて隣のシャーロットを流し見る。
「でもさ——期待以上だったんじゃない?」
「!」
『宵闇の女神』の未だ愉しげな指摘に、『太陽の女神』は目を見開く。
「ずっと、願ってたじゃない。信仰が頑固な油汚れみたいになっちゃった人々から、それに迎合せずとも前向きな人間の台頭」
その言葉に頷き、再び闇魔法が走った宵闇の空を見る。
「……うん。自分が求めた結果に、自分が想像していたより過剰になりすぎちゃって。他のみんなと私に、本来そこまで大きな差はなかったはずなのにさ」
贅沢だよね、と金の髪を風になびかせながら女神は天を仰ぐ。
「その結果、プリシラにもシビラにも、肩身の狭い思いをさせてしまって」
「だから、それはもう言わないっていったでしょ。このやり取り何度目よ、姉もさすがに呆れるわよ。だから——」
シビラは、もう一度確認するようにシャーロットへ一歩踏み込む。
「—— ラ(あ) セ(い) ル(つ) の行動、ちゃんと肯定して、尽力してくれるわよね」
シャーロットは自分の言った言葉を思い出し、それを自分の中で吟味するように目を閉じて数度頷き、満足気に口角を上げる。
「うん。あれだけの覚悟を示されちゃったんだもん、私も本気で前に出るよ」
『太陽の女神』は、青年からのバトンを受け取ったように手を握りしめる。
その意思を大切に、手放さないように。
自分が【聖者】に選んだ人間。彼女にとっては青年どころか、少年とすら呼んでもいいほど年若い人間。
——自分が、絶望に落としたと言ってもいい人間。
その絶望と再起、更に仲間達をも立ち上がらせる影の英雄譚の、行く末を示す力になれたのなら。
「さーて、それはそれとして」
シャーロットの内面を知ってか知らずか、シビラはまだ話があるとばかりに言葉を畳みかける。
それは、この場に残った理由だった。
「あんたがこのタイミングで出てきた理由、あるんでしょ。他の連中に任せられない上、人に見せられないやつ」
「相変わらずだねー。……うん、あるよ。シビラから報告を聞いたときは、心からチャンスだと思ったし」
「予想はしてたけど、ホントにそれが理由なのね。第八の出口にいたのはアタシ達を待ってたから、というのは理由の半分。もう半分は、ここが第七と第九の間だから、でしょ?」
シャーロットは言葉で答えず、代わりに手の中から光る弓を出現させた。
来た、と呟き走り出した金色の残滓を、銀の光が追従した。
◇
「何故……何故だああああああああ!」
シャーロットの足の下で、異形の怪物が悲鳴を上げる。
それは、王都を何度も襲った魔王であった。
「太陽、太陽さえ沈めば『太陽の女神』はその力を出せないはず……!」
「ええ、確かに太陽の光が届かないダンジョンには、私の力が及ばない。それは正しいです。太陽の力を使えなければ、私は弱い」
「日が沈みきっていなかったからか……! なら、ならば夜に出ていれば……!」
歯ぎしりする魔王の言葉に対し、隣でその会話を聞いていたシビラは鼻で笑う。
「夜になれば太陽の力がない。いやー、その程度の認識なんだからうけるわね」
「な……何、だと……!」
銀髪の女神は、その髪を自らの色に染め上げる宵闇の空を仰ぎ見て両手を広げる。
夜の始まり。
月の光が、誰にも視認できる時刻となった。
「月の女神ってのもいるけどさ。——あんた、月がどうやって光っているか、分かってんの?」
「——!」
「あらら、分かってて出てきちゃったんだ。そこまで知識があっても考えが及ばなかったのは、功を焦り過ぎちゃったからなのかしら。気になるわね〜?」
震える魔王に、人類の守護神は残酷に告げる。
圧倒的なる、力の差を。
「月の光は太陽の光を反射したもの。つまり——新月だろうと、曇天だろうと、地面が僅かにでも見える光があれば私は太陽の力を使えるのです」
太陽の存在は、地上の全てと比較しても圧倒的に大きい。
それは、決して夜であっても変わらない。
人々の絶大なる信仰を得たシャーロットにとって、その光はどんなに小さなものであっても自らの力を十全に発揮するに足るものであった。
「あなたたちが私に勝てる条件は、ダンジョンの中だけ。ダンジョン内部が光っているのは、太陽の光——神域の力——を遮るのも目的なのです。だから他のダンジョンメーカーは出て来なかったというのに」
一旦言葉を止め、シャーロットとシビラはアイコンタクトを取る。
何事かと思う魔王を余所に、シャーロットは魔王の顔へ自らのそれを近づけた。
「セイリスの報告は、本当に嬉しかったのです。魔王が わ(・) ざ(・) わ(・) ざ(・) 私の手の届く所にまで出てきてくれたのですから。さあ、セントゴダートの魔王さん。今の魔界の話、魔神顕現の話。全部聞かせてもらいますからね」