軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

意外な協力者とともに、救出へと向かう

「朝一番に来てもらってすまないが、早速本題に移らせてくれ」

暁の空が未だ夜明けに満たぬことを告げる早朝、エマは明かりの付いた部屋で机の上にある板を操作する。

あれは……最初にセントゴダートに入ってきた時に、門番が操作していたものか。

「未帰還者は『獅子の牙』、【剣聖】レベル18カイル、【魔卿】レベル21イーディス、【剣士】レベル13ラナ、【神官】レベル10ジョーイの四名だ」

真っ先に提示されたのは、四人の情報。なんと、顔までしっかりと見える。

一応簡単に紹介をもらったことはあったが、ここまで詳細に全員の情報をもらうとは思わなかった。

「登録者の情報を無断開示するのは禁止なんだけど、事態が事態だ。どっちみち職員は知っている情報だし、君らには信頼もある。何より命より重いものなんて、ほとんどないからな」

エマはそう言葉にしながら、机の引き出しを空けて何かを取り出す。

手に持っているものは——。

「短剣か?」

「そうそう。シビラも持ってるだろ? あれと同じだよ」

シビラは【魔道士】だが、ナイフを使って戦うこともある。

そのシビラと同じ武器を持ち出したということは。

「ま、今回ばかりはロットも怒らないだろう。私も出る」

エマは腰のベルトにナイフを挿すと、俺達への同行を申し出た。

今俺達がいる場所が、第八ダンジョン。

最初に潜ったのが第九で、昨日最下層まで攻略したのが第七ダンジョンとなるため、これで新規ダンジョンには一旦全て潜ったことになる。

「第九の方も気になるけど、少し多めに職員を割いている。それに一人、頼りになる子が増えたからね」

ギルドでエマとシビラが話し合いをし、空がある程度明るくなった頃に方向はまとまった。

さすがに朝食もまだだったので、一旦孤児院に戻ったところ、玄関先でマーデリンが待っていたのだ。

『私も、何かお役に立てないでしょうか』

話を聞くと、ダンジョンが現れたその日からずっと考えていたらしい。

こうして何の罰も受けることなく、【賢者】の 職業(ジョブ) をもらった自分が、こんなところで燻っていていいのかと。

マーデリンに対して、真っ先に指示を与えたのはジャネットだった。

シビラとエマにも確認を取り、現在第九ダンジョン上層で手練れの職員達を支えている。

「未だに僕のことを気にしているようだったからね」

マーデリンは、かつてジャネットに夜以降すぐに眠るように魔法を使っていた時期がある。

その行動はケイティの洗脳によるもので、マーデリンの意思とは全く関係の無い行動だったのだが。

「真面目すぎるんだろうね」

「つまり、マーデリンの罪悪感を軽減するために指示を出したというわけか」

「便利に使っただけかもしれないよ?」

お前に限ってそれはねーよ。

恐らく、マーデリンにとってはジャネットから命令されることが、何よりも救われた気持ちになっているはずだ。

何といっても、指示を出した後に『それでチャラ、あまりしつこいと怒るよ』なんて付け加えていたからな。

第九ダンジョンに関しては、十分だろう。

職員達も手練れだし、あまり心配しすぎるのも失礼に当たるだろうな。

それよりも、だ。

「んー、こんな状況だけど久々だから、楽しみになってきているね」

「不謹慎発言で炎上したあんたも見てみたいわね」

「おいおい冗談きついよ、ギルドマスターは人気商売なんだからさあ。いくら『水の女神』でも、そっちの炎は消せないんだよ」

やや意図の分かりにくい発言をしながらも、二人の女神は仲よさそうに会話している。

この二人、女神らしさみたいなのはなくて、いかにも気の合う性格って感じだもんな。

「おっと、第八の最初のお客さんがいらっしゃったね」

先日ダンジョンから溢れたバットの影が見えたと同時に、エマが二本のナイフを抜く。

「《アイスニードル》」

直後、ナイフの先端を両方ともバットに向けて魔法を放つ。

氷の槍がバットに襲いかかり、片翼を貫いた。

動きが鈍ったところで接近し、左手のナイフをバットの口に突き入れ、右のナイフで額の急所を深く抉る。

「うんうん、いい感触! たまには身体も動かしてみるもんだね」

絶命したバットを蹴り飛ばしながら、こちらに向かって振り返りながら笑う。

シビラ以外の女神というのを見てみたが、面白いことに戦い方はシビラと近いものがある。

魔法を攻撃や牽制に使いながらも、むしろ動き自体はイヴの方が近いんじゃないだろうか。

「そういえば、エマの 職業(ジョブ) などは聞いていなかったな。『獅子の牙』の情報を開示したんだ、自分の話ぐらい話しておくべきじゃないか?」

「おっ、痛いところを突いてくれるねー。なんて言いつつ、言い忘れたなってだけで痛くはないんだけどさ」

気楽そうに言葉を返し、タグに触れる。

『セントゴダート』——エマ【魔道士】レベル52。

「比較的ナメられないような実力でありつつ、元々上位職ってわけじゃないぐらいが丁度いいかと思ってね」

なるほど、冒険者メンバーとしては相当強いな。

同時に魔法だけではなく、ナイフ捌きも見事なものだ。

……しかし、それにしても女神というのは、こんなにも人間に近い能力なのだろうか。

元々姉のプリシラに比べて能力が劣るというのなら分かるシビラに次いで、ギルドマスターであるエマまでも。

これでは、まるで——。

「魔神と戦ったとは思えないレベルだろ?」

「——まあ、な」

俺の思っていたことを、先回りして言われたが……俺が魔神と戦ったことをエマは知っているのだ、そりゃ予測もつくか。

……そうなんだよな。マデーラに現れた魔神に比べると、シビラもエマもあまりにも非力だ。

その上あの魔神は、完全体ではなかったと自己申告している。

それが見栄を張っただけの大嘘だったとしても、今のエマとは比ぶべくもない。

神々と魔神が争い、人間を庇護する神々が勝って、魔神は魔界へと追いやられる。

そして、地上から神々が去り、人間が地上に住むようになった。

『女神の書』が本当のことを書いているのは、女神達本人がこうして目の前にいる時点で保証されている。

「かつての人間は、 職業(ジョブ) とかなくてね。上層の魔物相手でも、簡単にやられてしまっていた。だから代わりに私みたいなのが魔王と戦ってたのさ。魔神との戦いの担当は『太陽の女神』シャーロット。ロットはもう圧倒的でね」

エマ曰く、かつては神々にも魔神と戦うだけの力があったと。

実際に対等にやりあっていたことを考えると、今はその力を失ってしまったということになる。

「失った、というのはちょっと違ってね。んー……これ、ロットに相談なく喋ってもいいと思う?」

「アタシはいいと思うわよ。どっちにしろ、この子らはいずれ知るわ」

「そっか」

シビラの言葉に、エマが頷いて自分のタグに触れる。

「全ての魔神を地の底に沈めた頃には、あまりにも人間は減り過ぎていた。増えるダンジョンに、場当たり的に対策することはあまりにも難しい。だから——」

「女神が人々に 職業(ジョブ) を与えたんだな?」

俺が、続く言葉を答える。

ここまで聞けば、話も予測できるというものだ。

「神々の力を、人間に分け与える。それが現在の 職業(ジョブ) というものなのだろう。エマも分け与えた一人なんだな」

エマは目を大きく開き、次いで大きく口を開けて笑った。

「ははは! いい予測だけど、ちょっと違うのさ。私の役目はこのタグに情報を自動管理するようにしただけ。それでもかなり、能力を使っているんだけどね」

冒険者タグは、取り替えても他人のフリができないように、その人の情報しか出さないようになっている。

不思議な仕組みだが、それは目の前の人物が人類全員の情報を表示できるように女神の力を使っていたからなのか。

「もしかして」

と、ここでジャネットが口を開く。

そういえばジャネットは、職業選定の儀式を研究していたことがあったな。

「今の僕達の職業は、まさか『女神の書』に書かれているとおり『太陽の女神』一人が全員分選んで与えているのか?」

ジャネットの問いに、エマとシビラは同時に頷いた。

……そうか、俺の【聖者】は本当に『太陽の女神』が直接自らの手で選んだのか。

後日会うことを考えると、明確に理由を問いただせるよう確信を持てたのは大きい。

「さて、楽しいおしゃべりの続きは行方不明者を見つけた後にしよう」

エマが言葉を切ると、ダンジョンの奥から再びバットの群れが出口を求めて現れてきていた。

一部、羽のない黒ゴブリンが混ざっている。

……羽がない黒ゴブリンか。普通なんだが、ここ最近では標準個体というだけで異様に感じるな。

「分かった。カイルを助けた後は、まだ喋ってもらうぞ」

「いいね! 豪胆で堂々としている男は格好いいよ!」

エマの軽口を流しつつ、俺達は下を目指した。

それにしても、カイルは何故戻って来られなかったのだろうか。

……【剣聖】という 職業(ジョブ) でありながら。

カイルは、こんなところでやられるヤツじゃないはずだ。

あいつは最初に会った時点で、既に熟練者と分かる雰囲気を出していたからな。

中層だろうと下層だろうと、簡単に魔物にやられるなど考えられない。

——何とも形容しがたい、もやもやとした気持ちが脚にまとわりつく。

これで、貸し三だ。

一方的に貸している分は、きっちり返してもらう。

だから、それまで絶対に死ぬんじゃないぞ。