軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

知らないうちに組まれていた、シビラの大胆な策

俺は、自分で言うのも何だがそれなりに頭の回る方だと思う。

が、正直今この二人がどういう思惑でやり取りしているのか、皆目見当も付かない。

それでも、俺の目から二人の様子を見ればはっきりと分かることがある。

——シビラが、勝った。

まるで信じられないものを見るような目をしながら、ケイティがシビラの言葉を反芻する。

「策に、溺れた……? 私が?」

「相手が自分の策に嵌まったと思う瞬間って、すごく気持ちいいのよね。どれぐらいいいかと言うと、大抵その瞬間が『油断』と呼んで差し支えない感じになるの」

「油断……いつから……」

「カフェでコーヒー飲んでた時から」

あまりに意外な答えが返ってきて、ケイティは無論のこと、俺も驚く。

カフェって、最初に鉢合わせた時じゃないか……!

今日ダンジョンに潜る時ではなく、既にその段階から今の展開を仕組んでいたというのか?

俺の疑問に答えるように、シビラが朗々と今までの解説をする。

「まず、大前提として。アタシがあんたの顔を見たんだから、あんたもアタシの顔を見た。その時点でアタシがシビラだって気付いていたはず」

「帽子を被って、机に伏せていた。ばれていないと思い込んで顔を隠していた……」

「でしょーね。あんたらの目立つ容姿じゃ男も女も見る、不自然なほど頑なに見ないなんて有り得ない。だから『ばれていないと思わせるために顔を隠した』のよ」

シビラはなんと、あの日既に自分の姿がばれていたことを理解していたのか。その上で、ケイティがそう思っていたことを利用したと。

実際にケイティはシビラのことをあの時に認識していたようだが……何故、そんなことを。

「ラセルをどういう目的で連れ回したいのかは分からないけど、人目に付かないところで接触したがってるのはそっちも同じ。ならダンジョンでの接触を狙うはず。アドリア周囲のダンジョンでは竜鱗の鎧用の資金稼ぎで出会うかなと思ったけど、すれ違っちゃったから今日が本命」

「山のダンジョン?」

「……あら、これは外した? ならその話はナシで」

すらすらと喋っているようで、シビラにも認識の違いはあるんだな。

だとすると、ヴィンスが金を得た手段は別か。

「ま、とにかくわざわざダンジョンに行くことを喧伝してるのなら、今回は誘ってるなって思ったわけ。だから確実に会うと思って先に向かわせてもらったわ」

「意味がわからない。疲労するはず。消耗するはず」

「でもレベルが上がるわ」

「魔力を消耗してまで、レベリングに走る理由がない。魔法を使わずに攻略してきた? 天秤にかけられない。安定的でない、賭けでしかない、第一宵魔が剣だけなんて……有り得ない」

「有り得ないわね、もちろんラセルは闇魔法でフロアボスを倒してレベル上げたわよ」

「回復しない。この世界はレベルアップで回復しない。割に合わない」

「そうね」

「……有り得ない、判断が理解できない。私がシビラの判断を理解できないなんて、有り得ない」

二人の会話を聞きながら、一体何がケイティにとって想定外なのか、さすがに俺でも分かった。

無尽蔵の魔力。

俺だけの特徴であり、ケイティにとっても恐らく経験したこともないほど特殊な能力。

それがジャネットに教えてもらった、この魔力の呼吸によるもの。

まだまだ俺の魔力は有り余っているのだが、そもそもそれ自体が異常なのだ。

消耗の激しい闇魔法を先に使わせることがケイティにとって一番の作戦だったのだろう。

そして、俺はシビラが上層の方で言っていた言葉を理解した。

俺が理解したことを、シビラも理解したようだ。

「余計なことは言わなくていいわ。だけど、アタシの言ったとおりだったでしょ。『どっちに転んでも有利』ってね」

こちらを振り向いて、実に楽しげなウィンクを一つ。

俺が先に進めば、無尽蔵の魔力による消耗なしのレベルアップ。

ヴィンスが先に進めば、フロアボス戦で消耗している中での連戦。

どちらであろうと、俺が有利になるのは変わらなかった。

敵を騙すには味方から。

俺と一緒に探りを入れていたことを、相手に察知させていたこと。それを俺が気付かなかったことも含めて、ケイティをおびき出す罠だったというわけか。

完全にしてやられた。実に気持ちのいい種明かしだ。

やれやれ、やっぱりお前は頼りになる相棒だよ!

「……ッ! ヴィンス、剣を! 術士に後れを取るはずはないわ!」

「分かった!」

ヴィンスがケイティの指示に前に出て、アリアが状況から焦りに声を上げる。

「ちょっ、入った方がいいんじゃ!?」

「アリアは、まだ。ここで術士相手に近接職が二対一なんて、勝っても尾を引くわ。マーデリンは闇魔法が来たら魔法。大丈夫、私の勇者が負けるはずが……私の愛が負けるはずがない……愛が、愛、が……愛?」

ケイティとアリアが揉めているが、今は無視だ。

ヴィンスが剣を構えて、見るからに苛つきながら俺に近づく。

「何なんだよ……お前は一体……! くそっ、負けねえ! オレは負けねえ!」

そして、最初と同じように上段の大振りで襲いかかってきた。

俺はこの時、ふと違和感を覚えた。

それを確認するためにも、俺は攻撃を避けて闇魔法を選ばずに剣を両手で持つ。

互いに 職業(ジョブ) の力を得た最上位魔法による拮抗ではなく、俺とお前の積み重ねてきた剣での戦い。それで勝ってこそ、エミーと剣を打ち合わせてきた日々が輝く。

それにどうやら、魔法に頼ればマーデリンと同時に相手しなければならないからな。

「よそ見とはいい度胸だなおい!」

「心配するな、お前が倒れるまではお前だけ相手にするつもりだ」

「減らず口をォ!」

怒り任せの剣を、剣で受け流すことで答える。

俺とヴィンスの真剣勝負、仕切り直しだ。