軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

下層のフロアボスとの戦い

扉を開けた先にいたフロアボス。

それは、狼……という括りにしていいのか分からないほど規格外の大きさをした、四足歩行の獣。

身体の表面は青の体毛で覆われており、異様な雰囲気を醸し出している。

無論、あの魔物もこちらを視認している。あまりに大きすぎて、片方の足だけで俺の身の丈より大きいほどだ。

ただ、不思議と相手は動いてこなかった。

こちらを見て、じっと動かずにいる。

何なんだ、強者ならではの余裕のつもりか?

「そっちが来るつもりがないのなら、こちらから——」

俺が青い狼に左手を挙げて闇魔法の狙いを定める。

まだ動くつもりがないのか、それとも威嚇のみなのか。

狼は俺に向けて、大きく口を開けた。

瞬間、シビラは突然叫んだ。

「《ストーンウォール》ッ!」

突如、シビラが横から叫ぶ。魔法を撃とうと思っていた俺は、フロアボスと自分の間に現れた壁に驚く。

何だよ突然、これじゃ攻撃できないだろ!

「おい、シビラ!」

俺が文句を言おうとした瞬間、目の前の壁が壊れた。

轟音とともに石の壁が砕かれる。俺は文句を一旦保留して、恐らく突っ込んできたであろうフロアボスのいる土煙の場所に魔法を放つ。

「《ダークスフィア》!」

そして、闇魔法の弾は狼のいた場所で炸裂——しなかった。

割れた石壁の向こうには、何故か体当たりどころか先ほどより壁の隅まで逃げていた狼。

先ほどと同様に口を開けた姿。先ほどと同様に聞こえない鳴き声。

そして……先ほどは見えなかった、口の中から光る青白い魔力の塊。

ここまで来れば、俺も一体あいつが何をやったのか、すぐに理解できた。

右に飛んで回避した直後、俺のすぐ横を青い閃光が走る。

ダンジョン下層の壁を削り取るような威力の攻撃は、あの狼の口から出てきたもの。

「魔法攻撃タイプか……!」

思い出されるのは、ギガントのフロアボス。

巨大な体軀をしていながら、接近せずに遠距離攻撃ばかりしてくる魔物。

シビラは最初の段階で、この攻撃を予想したのだ。

「色の共通と不自然な動きで予想したけど、それにしてもえっぐいわね。回避しながら遠距離攻撃とは」

「全くだな、戦い方がまるで違う。だが、そういうことなら……!」

俺は剣を地面に突き立てようとしたところで、シビラから鋭い叱責が飛んでくる

「駄目! 剣は離さないで」

その声を聞き、はっとして剣を構え直す。

巨大な狼は、獲物を狙うように姿勢を低くして、俺を見ていた。

……なるほど、近接武器がなければ近づいて戦うつもりか。戦略を練ってくるあたり、以前の鎧のフロアボスを思い出すな。

あれほどの巨体なら、当然上の階の似た魔物よりも強いのだろう。

厄介なボスだ。

だが——倒し甲斐はある!

「援護を頼む」

「ふふん、言われなくともッ!」

俺の意思を感じ取って、シビラはフロアボスの退路を防ぐように左側から火の魔法を撃ち出した。

恐らく止めを任せるつもりでいてくれるのだろう、直接当てるよりも相手の動きを制限するように魔法を撃っている。

俺はその火を嫌って反対方向に跳んだ狼に、攻撃魔法を叩き込んでいく。

中層と下層は、道中の敵も全く違うものだった。

何かこう、上層と中層は常識的な範囲の強さであるのに対して、下層から先は最上位職以外が入るには些か厳しいのではないかと思うほど。

そしてそれは、フロアボスも同じだった。

中層までのフロアボスと、下層のそれはまるで違う。

体力に関しても、以前のシビラの強力な魔法を叩き込んでなお、スピード特化個体が動くほど。

ならば、遠距離攻撃を備えたこいつに、どれほどの体力が残っているかは分からない。

「《ダークスプラッシュ》!」

幾度となく闇の飛沫を、その大きな身体に当てる。直撃はできないが、少しずつ削れていっているはずだ。相手もただ受けるだけなはずもなく、攻撃の度に俺目がけて魔力の弾が飛んできて、俺の身体を掠める。

攻撃が速い。いくつかは避けきれずやむなく剣で受けることになったが、その光が破裂する度に俺の腕や顔に痛みを伝えてきた。

回復魔法なしでは挑めない、持久戦など普通は考えようとも思わないヤツだ。

シビラはマジックポーションを飲みながら、相手の動きを抑えるように火の魔法で牽制している。

動きは絶妙で、その度に魔物は行動範囲を制限されている。直接当たっていないため注意も向けられていないし、上手いものだ。

が、恐らくそのうち気付くだろう。シビラの調整が俺の攻撃の要であることに。

ある程度攻撃を当てて、身体から血の雫が落ちている。

俺はここまで来たら短期決戦の方がいいと見て、一気に接近しながら魔法を放った。

「《ダークスフィア》!」

まだ距離がある。ここは直撃での攻撃の威力を上げるため、飛沫ではなく弾を撃ち出すことにした。

だが勿論、当たらなければ意味はない。狼は再びステップをして口を大きく開ける。

瞬間、狼の顔が顎からかち上げられ、攻撃は俺の頭上高くを越えて後方へと飛んだ。

シビラが石の壁で狼の首に当てたのだ。

一旦首を壁の向こうに引いた狼は、怒り任せに石壁を頭で破壊し、その青い頭部が俺の目の前に出る!

「ここだ!」

狼が目を見開いた瞬間、その剣が相手の片眼を一閃する!

「ぐッ……!」

しかし相手も、さすがの反射神経。俺と目を合わせた瞬間、壁が邪魔で前足での攻撃が間に合わないと察すると、口からの魔法で俺を吹き飛ばした。

直撃を受け、身体がダンジョンの壁に叩き付けられて軋む。いくら防御魔法で軽減しているとはいえ、やはり喰らって気持ちいいものではないな。

『ヴォオオオオ!』

大きな狼の野太い声が、ここにきて初めてフロアを揺らす。

身体の中まで響く。フロア全体が揺さぶられているような感覚だ。

弱らせた俺に狙いを定めて、狼の口が開く!

「——残念だったな」

だが、俺は無論壁に叩き付けられた瞬間に回復済みだ。すぐに立ち上がると、横に回避して接近する。

どうやら俺が短期決戦を選んだと判断して、シビラも当てる方向にしたのだろう。

俺が攻撃する直前にシビラが火の槍を相手の巨体に突き立てており、火の魔法を嫌う狼がシビラに狙いを定めていたため、俺への警戒が外れていた。

魔物は俺を吹き飛ばした時点で思っただろうな。

攻撃魔法を使う術士をあの威力で壁に叩き付けて、無事ではないと。止めを避けられはしないと。

そして、シビラの方に意識の全てを割いてしまった。

完全なる油断。

シビラはというと、妙に生意気さの染み出した顔で「ヘイヘーイ!」なんて言いながら手を叩いて、狼の後ろに回っている。

いや何だその緊張感のない声色は、そういう度胸、ほんとお前は凄いよな!

フロアボスは完全におちょくりに来ているシビラに対して、怒りの唸り声を上げながら首を向ける。

だが——俺の相棒を、そう簡単にやらせるかよ!

「《ダークスプラッシュ》!」

俺は叫びながら飛びかかり、至近距離からの飛沫を全てその巨体に命中させる。

肉体のぶつかり合いにおいては強そうではあるが、的がデカいのは完全に弱点だな!

「終わりだ——!」

そして魔法を撃ち終えた左手をすぐに剣の柄へと持っていき、両手持ちで首を両断する!

着地と同時に、狼の頭部がズルリと滑り落ち、時間差で身体がフロアを揺らした。

俺の勝ちだ。