軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

少しずつ積み重ねていったものが、やがて大きな力となる

それから、どれぐらい経過したか。

ジャネットの様子もかなり落ち着いてきた様子で、フレデリカに呼ばれたジャネットが一緒に夕食を準備し、数刻経てば料理が並ぶ。

以前はシビラも手伝っていたが、今はシビラがキッチンに入ろうものなら、元気が取り柄の悪ガキ共が懐いたあいつを追ってキッチンに入ってしまう。そのため、今のシビラの仕事は専らガキ共と遊ぶことだ。

気易いのはいいが、多分お前あいつらと同レベルの存在ぐらいに思われてるぞ。いや、精神年齢は同じぐらいの可能性も高いな。

「あら、今日はどんな理由でシビラちゃんに熱い視線を送ってるのかしら?」

「ガキ共と精神年齢が同じだから懐かれてるんだろうなと思っていた」

「いつまでも若いシビラちゃんは、ラセルみたいな精神年齢お爺ちゃんとは違っていつもピチピチなのよ」

「ピチピチって言葉久しぶりに聞いたぞ……」

いつもどおりの会話をしながら、夕食は賑やかに進む。

エミーが会話に混ざり、フレデリカやジェマ婆さんが混ざり、ジャネットは聞きに徹する。

視線を向けながらも時々頷いていることから、話は聞いていることが分かる。

……見た限り、もう大丈夫そうだな。

食器の中が全て空になったところで、シビラが唐突に話を始めた。

「ところでラセル。こっちの準備はできたわ」

「……主語を言え。何の準備だ、分からんぞ」

「何って、ハモンドに行くのよ」

あっけらかんと言葉にされたが……それはつまり、シビラは例のケイティという女のいる街に行こうと言っているのだ。

というか、準備と言ったか? ここ数日子守ばかりしていた印象だったが、それなりに準備もしていたのか?

「あんたはどうなのよ、エミーちゃんと毎日仲良くやってるけど、手応えとかあんの?」

「ああ、まあな。エミーも相当強くなった、最近は負けることも増えたな」

エミーはヴィクトリアからのアドバイスで、模擬戦でも盾を使うようになった。そうだな、本番でもずっと盾を使っているのだから、練習中も盾を使う戦い方をした方が自然だ。

ギガントのフロアボスを倒した時にも思ったが、エミーの身体能力は本当に途轍もなく高い。

大盾だろうとバックラーのように素早く動かすこともできるし、盾を持ったままの高速移動もできる。

無論俺に対して練習中にぶつけてくることはないが、ヴィクトリアの教え通りに盾を使いつつ、文字通り縦横無尽に飛び回る戦い方は圧巻だ。

「そんなこと言っておいて、私が上を飛んでも当たり前のように目で追って対処してくるよねラセルって……」

「何度も戦っているうちに、動体視力と反射神経が鍛えられたな。俺も強くなっているということさ」

俺の返事に対して、エミーは何故か首を傾げた。

「どうたい……?」

「ああ、動体視力は、そうだな……動いている物を素早く目で追う能力のこと、というところか?」

「へー」

首を傾げた理由は、俺が言った内容を把握していなかったからだった。

そうか、この辺りはエミーに教えていなかったか。エミーの返事からすると、明日には忘れてそうな気もするが。

「……ラセル、あんたそういう言葉も、ジャネットちゃんから教わったわけ?」

「そうだな。動体視力、反射神経、集中力……後は何を教わったかな」

「五感とか、その辺りのことかな。受容感覚らあたりは省略しているけど」

シビラの言葉に頷き、ジャネットが俺の疑問を受けて答えた。

知識の共有ができていないと、どうしても会話がひっかかってしまうんだよな。

エミーとはシンプルに、そしてジャネットとは深いところまで会話しているような気がする。

そんなジャネットに、シビラは驚きつつ質問を投げる。

「ジャネットちゃん、前庭感覚って分かる?」

「……重力や速度にまつわる肉体感覚ですよね。感覚統合は幻覚魔法などの時に理解して治療魔法を使えると理解できるので、勉強しました。受容感覚の話が活きるのは混乱魔法でしょうけど、恐らく脳の方の精神汚染の方が早いと思うので、自分で治療できるかどうかは分からないです」

「はぁ〜……ほんっと逸材ね。こんな凄い子がいるなんて……」

やはりジャネットの知識量は、シビラでも驚くほどのものらしい。

同時にジャネットへとその質問を投げたということは、シビラの知識もその域にあるのだろう。

ジャネットを褒められてエミーが嬉しそうな顔をしているが、かくいう俺も同じ感覚だ。こいつの【賢者】としての本質的な凄さは、もっと評価されていい部分だと感じている。

それにしても……幻覚魔法で狂わされた場合は、突然足場がなくなり落ちている感覚に恐怖する前に、冷静に治療魔法をすぐに使えば対処できるのか。このことを理解しているだけで、ギリギリの攻防では生死を分けるだろう。

また一つ勉強になったな……これだからジャネットの話は聞き甲斐がある。

今のように、ジャネットは難しい知識をかみ砕きつつ、有効な場面も添えて説明してくれるわけだ。

一つ一つは小さなものでも、その知識を積み重ねればどんな問題でも対処できる存在となる。

同時にその知識を惜しげもなく披露できるのも、彼女の人の良さが出ている部分だ。

俺は両方の意味で、ジャネットに尊敬の念を感じている。

「で、話は逸れちゃったけど……ラセルはどうする? もうちょっとエミーちゃんと模擬戦していく?」

「いや、もういいだろう。できることはやったつもりだ」

もう大分慣れてきたし、大きな変化を感じるほどではなくなった。

エミーとの戦いは有意義なものだった。ヴィンスと一勝一敗を連日重ねてきて強くなった時の感覚が、今のエミーとの戦いにはある。

ジャネットとヴィクトリアの指導もあって、動きも格段に良くなり、攻撃パターンも複雑になった。

そして連日戦ってみて思ったことだが、恐らく技術的にはここら辺りで打ち止めだ。

俺自身も、結局ヴィンスがどうなっているのか、今どんなパーティーを組んでいるのか気になるところでもある。

いつまでもここで待ちに徹するわけにはいかない。

「ハモンドに行く準備なら、俺も十分だ。いつでもいいぞ」

「さて。それじゃ、エミーちゃんはどうする?」

シビラが次に聞いたのは、エミーの方針。

そうか、ハモンドに行くということは、当然……。

エミーはやはり、予想していた答えを出した。

「はい。ずっと前から悩んでいましたけど……やっぱり私、ここに残ることにします」