軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

どんなに人にも、その人を形作る過去がある

「まあまあ、こんなおばさんを指名してくれるなんてね。もっといい子がいるんじゃないの?」

ヴィクトリアは、フレデリカとそう変わらないであろう若々しい姿で俺に疑問を投げかける。

彼女は用事であった豆の提供をしに来てくれたようだ。ジェマ婆さんにその袋を預けて、約束通りに戻って来た。

俺が先ほど伝えた『模擬戦を見てほしい』という要望を、時間を作って聞いてくれた形となる。

ちなみにブレンダは、シビラの姿を見てそちらに行ったとのこと。

「すまないな。村の連中とは付き合いが少なく、男を含めても戦えそうなヤツが思い当たらないんだ」

「そういうことなら……」

俺の言葉を受けて頷くと、先ほどまでジャネットが座っていた切り株へ、ヴィクトリアが座る。

その様子を見て首を傾げたのは、エミーだ。

「戦えそうな? えっ、ラセル、私ちょっと呆気にとられちゃってたけど、えーっとこの、お母様? って、強いの?」

……ああ、そうか。エミーは当然ヴィクトリアとのやり取りや、そもそもブレンダとの出会いの時すらいなかったものな。

「以前世話をしたというか、世話になったことがある人だ。俺が見た限り、実力は信用していい」

「ふえー……そうなんだ?」

まだ少し納得のいかない様子で首を傾げるエミー。ま、人は見た目によらないということだ。

俺が再び剣を構えると、エミーもやる気になったのか剣を構える。

俺の準備ができたと見るや否や、エミーが動いた。

今度は深く踏み込んでの、大振りでの胴狙いの攻撃。なるほど、こう来たか……ならば。

その動きを見て、俺はここから更に一歩、エミーの方に踏み込んだ。

「えっ!?」

バックステップでは避けられない。飛び越えたり屈んだりするにも、少し半端な高さだ。

ならばどうするか。剣の間合いよりも内側に入ればいい。

「あたっ」

大振りになったエミーの手を打ち据えて、エミーの身体と衝突するような形でぶつかる。

手から木剣を放したエミーは、そのまま俺に両腕で抱きつくような形となる。

俺の胸の中で、エミーが唸る。

「うう、今のはいけると思ったんだけどなあ」

「見た目は恐ろしいし、鋭い一撃だが、当たらなければ意味はないからな。あとそろそろ離してくれ」

「えー、もうちょっと……あっ!」

エミーが飛び跳ねると、視線を俺の後ろに彷徨わせた。……ああ、そうか。今はヴィクトリアが見ているからな。

「あらあら、うふふ」

何とも形容しがたい微笑みを湛えて、ゆらゆらと左右に揺れながらこちらを見る女性。

笑い方も雰囲気もどこか上品で、あまり農家をやっているイメージがない。ただ、レベルの高さと身体能力の高さはよく知っている。

……見れば見るほど、普通の人だ。だから余計に、思ってしまう。

何故【剣士】なのか。なぜ今は、農家なのか。

そして……ブレンダの父親は、どこにいるのか。

分からないことは多いが……以前避けてほしいような様子だったことから、無理に聞き出す必要はないだろう。

それから俺とエミーは、一進一退の攻防を続けた。

動きが鋭い分、エミーの攻撃は初手で避けられなかった場合、二手か三手で俺が負ける場合もある。

勝ち越してはいるが、実力的にはなかなか厳しいものがあるな。

何かに気付いたのか、ヴィクトリアは立ち上がって俺達の方に来る。

「えーっと、ラセル君が【聖者】で、見たところエミーちゃんが何か戦士系の 職業(ジョブ) なのよね?」

「あっ、はい。私はよい……よー、よいかんじのあれです、【聖騎士】です」

思いっきり【宵闇の騎士】って言いかけたなおい。

いや、寧ろエミーのことを考えると、よくあそこで踏みとどまれたと思う。

偉いぞ。

「【聖騎士】! 強いとは思っていたけど、身体能力が高いわけだわ。……ああでも、そうなるとラセル君と拮抗してるのって、ちょっと前衛としては頼りないわね〜」

「ふぁい……」

最上位職として当然のことを指摘され、沈み込むエミー。

ヴィクトリアはその姿を見て少し考えるような格好をした後、手を叩いてエミーへと笑顔を向ける。

「大丈夫! それじゃあラセル君に勝てるように、今から私のとっておきを教えてあげるわ」

彼女はそう明るく宣言すると、孤児院の方へ走っていった。

俺とエミーはその姿を見送った後、お互いに顔を見合わせる。

少し待つと、そこには片手に何かを持ったヴィクトリアがいた。

あれはどこかで見たことが……。

……は? まさか、鍋の蓋か?

「エミーちゃんって、聖騎士なら盾持ちよね」

「は、はい。大盾です」

「それはいいわね!」

ヴィクトリアはエミーから木剣を受け取ると、右手に剣、左手に鍋蓋という独特の構えとなった。

木剣の先で鍋蓋の裏を何度か叩き、満足そうに頷く。

「それじゃ、ラセル君。ここからは私が相手をするわね」

俺の心配を余所に、左手の鍋蓋を胸の高さまで持ち上げるヴィクトリア。

その表情は、自信に満ちあふれている。

……冗談のようだが、本気のようだ。

その文字通りおざなり過ぎる武具代わりのものに、少し心配してしまう。

いくらヴィクトリアのレベルが高いとはいえ、現役を暫く離れていた上に先程までエミーと戦っていたのだ。どうしても比較すると、一段落ちたように感じてしまう。

俺が治療した人だし、怪我させないようにしないとな。

何より慕ってくれているブレンダにも悪いし、無茶させるわけにはいかない。

だが……彼女からは不思議と、俺に負けることなど全く考えていないようだった。それだけ自分の戦い方に自信があるということか。

俺自ら指導者として選んだ、謎の剣士ヴィクトリア。その実力を見るのは初めてとなる。

それではエミーに必勝の一手のように教える『とっておき』がどれほどのものか、見させてもらおうか。