軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

信頼されること、そして信頼するということ

昼食後の雑談、のつもりが随分と重い話だった。胃もたれしそうだな。

試しに治療魔法を使ってみたが、当然心は全く軽くならない。

ジャネットとエミーの関係を見て改めて理解したが……聖者の魔法というものが肉体的な部分のみにしか影響しないという当たり前のことを、もう少し深く考える必要があるな。

やれやれ、かつては回復術士というものに対して悪感情しかなかったような俺が、再びこうして誰かを気に掛けるようになるとは。

……『再び』か。そうだな、パーティーを追い出される以前は、元々皆のことを気に掛けていたのだ。

人はそう簡単には変わらない、ってことか。

窓の外を見ると、やや日が傾いているのが確認できる。随分と長い間、話し込んでいたようだ。

「それじゃ、俺は少し外に出てくる。シビラはどうする?」

「……」

「シビラ?」

俺が再び話しかけると、はっとしたようにこちらを振り向いた。

「どうした、聞き疲れたか?」

「……まあね、そんなところ。いろいろ話ありがとうね、ジャネットちゃん」

「いえ、僕もお話しして、溜まっていたものを 漸(ようや) く消化できた気分です。僕達身内の重い話に付き合わせてしまって申し訳ありません」

「構わないわ。身内の話とは限らないし、何よりジャネットちゃんがラセルやエミーちゃんの仲間なら、アタシも当事者みたいなものよ。それに、アタシはジャネットちゃんに興味湧いちゃったから、もうちょっとお喋りしたいわ。いいかしら?」

「僕とですか?」

ふと何かひっかかりを覚えたが、それよりもシビラがジャネットに興味を持ったことの方に意識が向いた。

シビラもジャネットも頭の回転の速いヤツだし、二人はどんな会話をするのだろうな。

「一緒にお喋りできる場所があればいいわ。できれば二人っきりで」

「ああ、それなら……」

ジャネットが、ちらと俺の方を見る。

なるほど、秘密の会話をするならあの場所か。

俺はジャネットに小さく頷くと、ジャネットはすぐに肯定の意思を捉えて頷き、視線を外した。

「エミーはどうする?」

「外だよね。ラセルと一緒に行ってもいい?」

「構わないぞ」

「やった!」

ジャネットの隣にいたエミーが立ち上がり、俺の隣に来る。

反対に俺の隣にいたシビラが、ジャネットの方へと歩いて行った。

「フレデリカの手伝いも俺からジャネットになったし、帰りは急がなくても良さそうだな」

「ん」

小さく返事をして、ジャネットはシビラの手を引く。

二人の身長差が大きいから、少し親子っぽくもあるな……言ったら怒られそうだが。

「むぅ〜……」

あとエミー、そんなに恨めしそうに二人を見ながら胸を触るんじゃない。

どう反応していいか分からんし、その悩みはきっとジャネットでもシビラでも解消できそうにない……。

-

まだ明るい天候の中、少し涼しい風に当たりながら村の空気を大きく吸い込む。

孤児院は決して閉塞感がある建物ではないが、やはり外に出るとまた違った開放感があるな。

隣を見ると、エミーも大きく腕を上げて伸びをしている。

眉根を寄せ「ん〜〜〜っ……!」と声を上げて口角を上げる姿は、実に気持ちよさそうだ。

「ジャネットはああ言っていたが、もう大丈夫そうだな」

ああ言った、というのは無論『俺達を本物だと完全には思っていない』ということだ。

エミーもすぐに、そのことに思い当たったのだろう。笑顔で大きく頷いた。

「うんっ! 私達のこと、本物じゃない可能性で信頼がどうとか言ってて、私あんまりわかんなかったんだけど……あれって、ジャネットなりの考えとか、気遣い? みたいなもの? なんだよね」

「気遣いというか、覚悟だな。エミーに上手く教えることができるかは分からないが、ジャネットは何があっても俺達を助けるという意思を示したということだ。それこそ、再び絶望してもな」

「……凄いなあ」

エミーは少し先を歩き、空を見上げる。

青空は高く、手を伸ばしても届きそうにない。

「私ね、ジャネットにはやっぱり、ちょーっと劣等感あるんだよね」

くるりと振り向いたエミーは、陰などなさそうに笑う。

「持ってないものがありすぎて、羨ましくて。でも、全部ジャネットの頑張りだからさ。なんか、一時期見てると、すっごく負けてるって気になっちゃってさ……」

「エミーも思うか。俺もな、ずっと一緒に本を読んでいたつもりだったが、思い返せばいつも教えてもらう側だったように思う」

「ラセルでもそうだったんだ。凄いよねー、ジャネット」

ジャネットのいないところで、エミーと一緒に彼女のことを肯定する言葉を交わす。

自分より優れたヤツには、どうしても嫉妬をしてしまうものだ。それは人ならば仕方ない部分ではあると思う。

だが、ジャネットに至ってはあまりに遠く、同時にそれを鼻に掛けない上に俺達をずっと助けてくれたから、嫉妬する気が全く起きないんだよな。

同時に思うのだ。

ジャネットは寡黙で謙虚だが、決して臆病だったり甘いヤツじゃない。

俺の【聖者】としての本質がその内面にあるというのなら、ただの魔道士ではなく、攻撃属性の【賢者】を授与された本質は、ジャネットの内面にあるのだということ。

自分自身すら信じていないが故に、何度も俺達を助けるために心折れたまま立ち上がる意思。

ある意味、俺やヴィンスよりよっぽどの熱い血が流れている。

俺達の中の……いや、世界中の賢者を対象にしようとも、ジャネットぐらいしかあの状況で情報を持ち帰り、話をするまでに至れなかったのではないかと思う。

本当に、あいつが味方で良かった。

俺だって、こうして新しい一歩を踏み出せたのだ。

俺の尊敬するあいつは、きっと再び立ち上がるだろう。

何の保証もないが、ジャネットなら確信を持ってそう思える。

青空を眺めながらそのことを意識すると、自然と先ほどジャネットが俺達に向けた言葉の意味を、深く理解できた。

そうか——これが、相手の内面に対する『信頼』なのだなと。

ジャネットが信頼してくれた俺が、ジャネットを信頼する。

その結果は、きっと最良のものになるだろう。