軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

俺とジャネットにしかない思い出もある

フレデリカの作る料理は、やはり他の料理とはひと味違う。

食材を切るだけならどうにでもなるが、やはりあの味付けのセンスだけは及ばない部分があるな。

塩一粒の味の強さと、それに対する鍋のスープの量。入れる塩の量を間違うだけで、全てが台無しになる。

その上でフレデリカは、いくつものハーブを使い分けている。なかなかあれを使いこなすのは一筋縄ではいかないだろう。

元気が取り柄のガキ共が、フレデリカの料理に対して元気にはしゃぐ。子供は味の差にも結構敏感なところがあるからな。

恐らくジェマ婆さんがずっと作っていたのだろう。ジェマ婆さんも皆の喜ぶ顔に何度も頷く。

しかし、俺は今そちらに集中できるほどの余裕がない。

ジャネットの部屋に呼ばれた。

明らかに俺にしか聞こえないぐらいの、小さな声だった。

事実として、賑やかだった分エミーもシビラも気付いていない。

ジャネットの相談事は、きっと俺とジャネットの個人的なことではない。恐らく、今回の旅に関することだ。

だが、それ故に思うのだ。

何故俺だけに聞こえるように呼んだのか。

エミーや、シビラには聞かれたくない話なのだろうか。

分からない……分からないが、結論はすぐに出るだろう。

フレデリカの料理を味わう精神的余裕もなく、俺は頭の中で何度もジャネットの言葉を反芻しながら目の前の料理を胃の中に入れていった。

満腹になったガキ共が、安心しきった顔で寝静まる。

まだまだ女の子もお淑やかさのない年齢。毛布を男の子から引っ張った女の子と、寒そうにする男の子。

相も変わらず子供好きなシビラが、苦笑しながら他の毛布を男の子にかけてやる。

「元気いっぱい。……立派なレディに育たなくても、元気な剣士にでもなってくれたら可愛いわね」

小さく声をかけて眠った子供の頭を撫でると、部屋を出た。

「アタシ達も寝ましょ」

「そうだな」

俺はエミーやジャネットと一緒に、シビラの言葉に頷き合う。

——ほんの一瞬、ジャネットと視線を交わした。

一旦皆が解散して、フレデリカもジェマ婆さんへの報告を終えて、俺も就寝部屋のベッドに潜り込む。

エミーとシビラとジャネットは、当然別の部屋だ。

……。しばらく待っていると、コトリという音。

その次に、床を踏む音が聞こえてきた。

俺はその音を確認して、ベッドから降りる。

気になることが頭を巡っていたせいで、まだまだ目は冴えているな。

部屋を出ると、恐らくそこで合っているだろうという目的地へと向かう。

俺が来たのは……孤児院の奥にある、地下室への階段だ。

床の板を持ち上げると、そこからうっすらと灯りが漏れる。間違いない、中に人がいる証拠だ。

自分の予想が正解だったことに安堵すると、階段を降りて扉を閉めた。

ここ、孤児院の地下室はとても広い。

そして、ここには不思議なことに、とても沢山の本が備わっている。

どこの王都の図書館かと思うような量は、今から考えるとあまりにも異常だ。何か特別な理由があるのかもしれない。

ただ、今はそのことを考えるのはよそう。

「やはり、ここにいたか」

俺の呟きに、青い髪が揺れる。

ジャネットは、本をよく読んでいた。

ベッドの隣に置いて朝起きたらもう読んでいたし、日中も直射日光を避けるように日陰で読んでいた。晩も読んでいたし、夜中にも時々こうして読んでいた。

いつもいつも、ジャネットは本と共にあった。

——僕の部屋は、ここだから。

ある日、ジャネットはこう言ったのだ。

その言葉通り、ジャネットはすっかり自分の部屋のように、この地下室に入り浸るようになっていた。

その言葉を聞いたのは、俺もジャネットの次によく本を読んでいたからだろう。

エミーもヴィンスも、あまり本を読まない。外で身体を動かす方が好きだったからな。

俺も好きだったが、夜になると本にも興味が湧いていた。

こうして書物に囲まれるジャネットの姿は、恐らく俺が一番見慣れた彼女の姿だろう。

ジャネットが、表情の見えない顔で——しかし、どこか俺と同じように安堵した顔で——こちらを見返した。

「よく覚えていたね」

「俺が覚えていない可能性も考えていたのか。なあ、俺が覚えていなかったらどうするつもりだった?」

「戻って寝るつもりだった」

……マジかよ、ちゃんと覚えていてよかったな俺。

危うくジャネットからの話を聞き逃すところだったぞ。

「横、いいか?」

「ん」

肯定、と捉えていいだろう。

俺はジャネットの隣に座ると、その手元に一冊の本があることに気付いた。

そのタイトルは——『聖女伝説』。

「ラセル」

「何だ」

ジャネットはその表紙を大切そうに撫でながら、階段の方をぼんやりと見つめている。

「教会は、言えない罪を言うことで、心にある重りを軽くすることもある」

「懺悔、だな」

「そう」

ジャネットは、それから少し黙っていたが……やがて意を決したように口を開いた。

「聞いてほしい。僕の、懺悔を」