軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

赤い救済の会、大司教達との戦い

ぞろぞろと、いやらしい顔をした集団が建物の中に入ってきた。

どいつもこいつも、全身真っ赤なローブ姿をしている。

大司教が赤いローブ、左右の人間が赤いローブに……杖か。戦士タイプはいなさそうだ。

大司教。表面上は笑顔を取り繕っているが、あの自分に酔った粛正の罵言を聞いた後だと鼻で笑うしかないな。

「それにしても、いやはや……まさかあなたが裏切るとは思っていませんでしたよ、アシュリー。こちらとしても、あなた以外に動かせる駒がなかったので参りましたね」

大司教がぺらぺら喋りつつ、周りの連中は俺達を取り囲むように左右に広がっている。

完全に処分する気満々だな。

「裏切るも何も、この魔道具に声を入れたのは大司教様でしょう?」

「誤算でした、魔道具の録音機能を停止し忘れていたとは。大分前から気付いていましたね」

「いいえ、孤児院の子供が見つけてくれたみたいです。私も気付かなかった声を」

「……おのれ薄汚れたガキどもが」

大司教が小さく悪態をつく。

一瞬の変化であり、小さな声。だが広く静かな大聖堂では、その声はよく聞こえた。

隣の、息を呑む音も。

やはり、所詮偽物の大司教などその程度か。

人の地位を金で買う人間に孤児への労りなどあろうはずもなく、その目は金欲にまみれた泥の色のみ。

こいつは、人の上に立つ器ではない。

「大司教様は、本来がそっち側なのですね。じゃあ、やっぱりジェイクは」

「赤き神へ一つとなりましたよ。実に光栄なことだと思いませんか?」

「そんなに光栄なら、ご自分も一体化なさってはいかがですか?」

「いえ、私はまだまだやらなければならないことがあるため、とてもとても……」

ああ言えばこう言う、と言わんばかりにのらりくらりと躱しながらも、まだ大司教としての体裁を保とうとしている。

その男が、ふと表情を消してこちらを向く。

「ところで……そちらの方はどなたですかな?」

そうだろうなとは思っていたが、どうやらあいつは俺のことを全く覚えていないらしい。

ここまで全身真っ黒だと、覚えていそうなものだと思ったが……まあ遠くで見ているだけだったし、こいつにとって馬車は俺や御者よりフレデリカの方に目が行くよな。

さて、こういう時はどう返してやればいいか。

こいつから見たら……そうだな。

「『邪神の信徒』ってのはどうだ?」

「……面白いことを言う人ですね」

口では穏やかなつもりだが、苛立っているのがよく分かる。

赤会のことを言っているのか、赤会から見た太陽の女神のことを言っているのか判断に迷うところだろう。

魔道具からの声を聞いた限りだと、堪え性がないように感じるしな。

ま、正解はそのどちらでもないわけだが。

「大切そうにしていた魔道具を忘れていたので、孤児院の先生に届けに来たというわけだ。実に親切だろ? 忘れ物を届けるのは昔から俺の仕事でな」

「ええ、そうですね。……外がこんな状況でなければ、忘れ物を届けることを不自然には思いませんでしたよ」

ま、そりゃそうだよな。

こんな状況じゃ、門番も迂闊に誰かを外に出したりはできないだろう。

その時点で、俺が普通ではないことぐらいは予測がつくか。

「外のあれは、あなたがやったのですか?」

「まあ、そうだな。回復術士になったが、剣で斬った」

「剣士でありながら【神官】をもらった人ですか」

俺はその問いに黙って鼻で笑い、肩をすくめる。

「自身の努力を否定されるような職業を授与されて、あなたは太陽の女神が間違っていると思ったことはありませんか?」

「そうだな。一度や二度じゃない」

大司教の目が、値踏みするように薄く開く。

「ならば、『赤い救済の会』はいかがですか? 太陽の女神より上位の存在として、我々は赤き神の復活を願っています。あなたは優秀そうだ。是非幹部に——」

「断る」

俺は声を被せるように、ばっさり拒否。

片眉を上げて黙る大司教に、その理由を答えてやろう。

「お前等が信仰してるのは、赤き神じゃなくて魔王か何かだろ? だから、魔物の数なんてものをコントロールしている」

「……」

「救援が他の街から来たら都合が悪いんだよな? そりゃあこういうこともさせるわけだ」

俺はポケットから、破れた紙切れを取り出してひらひらと見せる。

紙切れ……というにはあまりにもボロボロのものだ。指でつまんだ瞬間、黒い灰が大聖堂の床に僅かに落ちたしな。

そんな文字も確認できない燃えカスを見た瞬間、大司教の細い目が大きく開く。

周りに広がっている連中も目を開き、慌てて大司教の方を見る。

……ふん、俺のカマかけでそんなに分かりやすい反応をしてるようじゃ、この紙を見つけ出した奴と話しているだけで丸裸になりそうだな。

野郎の裸には興味はないが、こいつの 臓腑(はらわた) の汚さなら興味はあるな。

「……やれやれ。あなたは実に興味深い。ですが、早死にすると言われたりしませんか?」

「いいや? あまり言われないな。あんたからはそう見えるってわけか」

からかい気味に答えてやると、大司教は左右に目配せする。

……そろそろ来るか。

「一応聞いておきましょう。あなたはその魔道具の話を、全て聞きましたね」

「もちろんだ」

「アシュリー。音留めの魔道具には途中再生できる機能は備わっていない。つまり、あなたも全て聞きましたね」

「はい」

「ならば、『解放』の意味も分かりましたね」

「生贄、もしくは『処分』ですかね」

「それを知っていてなお、正直に答えるとは実に結構」

正直に喋るアシュリーに対して、肩を揺らして余裕そうに笑う大司教。

「ふふふ……よくもまあ正直に喋ってくれるものです。もう諦めましたか?」

アシュリーは、その問いにはっきりと答える。

「私は、知りたいだけです。結局私の人生に意味はあったのか」

「意味はありましたよ。髪が赤い。そして、髪の赤い娘を産んだ。それだけで、あなたの価値は他の信徒よりも十二分にあります」

「……それ以外は? 生まれ持ったのなら顔は? かつて手入れをしていた肌は? 家事や、能力、性格や職業は……」

大司教は、つまらなさそうに溜息をついて、ばっさり切り捨てた。

「そんなの、髪が赤いことに比べてほとんど代用の利く意味のないものでしょう。司祭様を産んだ。それ以上に価値のあるものなどありません」

アシュリーは絶句し、顔を伏せて押し黙る。

震えながら拳を握りしめ、そして怒りの形相で叫んだ。

「あの子は、マイラだ! 司祭じゃない!」

「ふむ」

何の関心もなさそうに、大司教はアシュリーの心の叫びを聞き流すと、懐から杖を取り出してこちらへと向ける。

「やはりガキと同じ場所に行ってもらうか」

「……ッ!? マイラをどこへやったの!?」

「あなたたちも、赤き神への贄として捧げさせてもらいましょう。光栄に思いなさい」

そろそろ限界、といったところか。

もう少しお喋りしてもよかったんだがな。

「《ファイアアロー》!」

左右の部下が、魔法を放ってくる。

そういうところまで徹底して赤い火魔法とか、律儀すぎて笑えてくるな。

「《ウィンドバリア》」

俺は隣のアシュリーが踏み出しそうになっていたのを捕まえると、防御魔法を使った。もちろん二重詠唱だ。

交互詠唱か別魔法でなければ、二重詠唱で使うのも癖になってきたな。

当然、火の矢など俺に届くはずもない。

「動くなよ、アシュリー」

「ふむ、なかなかレベルが高いようですね。さすがは今の状況でこの建物に来た者。ですが、こんなものではありませんよ」

大司教の後ろから、新たに二つの影。

……他にもアサシンらしきものを仕込んでいたか。

ならば、次は。

「——グッ、これは……!?」

突然身体の自由がきかなくなり、動きを鈍らせた大司教と二人の男が唸る。

俺が使ったのは『ハデスハンド』だ。ああいう『速度』を武器にした奴らには一番厄介な攻撃だろう。

「マデーラの魔王も、そうだった。速度の出ないローグなど足手まといでしかない。それでも後ろのクソジジイが怖いならかかってこいよ。術士が相手にしてやる」

アサシンの男達は、大司教に振り返る。

その顔は恐怖。対して大司教は眉間に皺を寄せていた。

「……あなたたち、何をしているのです。二人とも『解放』されたいですか?」

その単語にびくりと反応すると、男達はこちらを向いてナイフを構えた。

「おーおー、随分な恐怖政治じゃないか。やっぱり赤いだけの神ってやつは上も下も駄目だな」

太陽の女神みたいな放任主義の方がよっぽどマシだし、俺の女神はリフレッシュのために海やレストランや高級宿に連れて行ってくれるからな。

比ぶべくもないってやつだ。

「赤き神を冒涜するなど……!」

俺はノロノロと走ってきているつもりのアサシンを見ながら剣を抜く。

左右から挟み込むつもりなのか、中央の道から外郭側に移動するように、大聖堂の椅子に手をかけたアサシン達を確認して、その前に両方の脚を切った。

これは魔王との能力差ってやつだろうか。遅い遅い。

くぐもった声をあげて倒れ込むアサシン達の手首を切って、ナイフを拾い上げる。

途中、左右から魔法使い達が攻撃魔法を連射してきていたが、俺のウィンドバリアの前には熱風みたいなもんだな。

ま、この魔法はファイアドラゴンの炎も防いだから今更か。

「グレートオークがやられていた時点でもしやと思いましたが……ただの術士ではありませんね」

「これでも剣には自信があるんだ。なかなかやるもんだろ?」

「……マデーラの魔王、と言いましたか。まさか、あなたが?」

「まあな」

二人の協力で倒したが、誰が止めを刺してもおかしくなかっただろう。

魔王には経験値がないらしいからな。

お喋りをしているうちに、アサシンがいなくなったのを確認して俺が止める前にアシュリーが動く。

左右の術士を片付けるつもりだ。

術士達は元々ヤケになって魔法を撃ちまくっていたが、俺に魔法が届かないのを見て諦め気味だったのか、肩で息をしながら油断していた。

アシュリーのナイフが光ったと同時に、手首から杖が落ちる。

反対側の術士が慌ててアシュリーの方に魔法を撃とうとするも、アシュリーは術士を盾にした。

相手が怯んだ隙に、大聖堂の対称上にいた術士にナイフを投げる。

そのナイフは相手の手首を貫通し、悲鳴と共に男は杖を取り落とす。

アシュリーはすぐに、自分の足元の杖を回収して戻ってきた。

アサシンが持っていたナイフを一つ、俺の手から回収する。

「上手いじゃないか。なぜシビラにはやらなかった?」

「考えてはいたんですが……今のウィンドバリアのような魔法を使われていると、ラセル様に気付かれるだけになるので却って危険と判断しました」

……本当に優秀なアサシンだったんだな。

闇魔法の直撃を受けてなお、その激痛と体力減衰に負けずバックステップで離れるという技をやってのけたわけだ。

まあ、そこまで熟練した上で、その思考をシビラに読まれていたということか。

話を聞くだけで、俺もまだまだ実践が足りないと思い知らされるな……。

「さて、一人になったな」

「……」

大司教は、憎々しげに俺を睨み付ける。

……この顔をしていながら、案外まだ隠し球があるかもしれない。油断するな。

「このオークが溢れた現状、お前が指示を出してやったことだろ?」

「……何のことですかね。あなたが、マデーラのダンジョンを攻略した影響では?」

「その話をするところから察するに、あの赤いゴブリンの集団を育てていたのはお前で、オークもお前達が溜め込んでいたってわけか。今の話の流れで、マデーラの下層のことは話してなかったものな」

「……!」

目を見開いて一歩後ずさる。

墓穴を掘ったな、馬鹿が。

その判断ができないあたり、こいつは小物だな。

下手な弁解と、下手な非難は自分に刺さる。

多少の謙虚さでも備わっていれば、そういう迂闊なことはしないものだが……それだけ周りを盲信者で囲っていたというわけか。

こういう時は沈黙あるのみだ。

表情も変えてはいけない。

そこまでやって、ようやく手強い相手になる。

少なくとも、俺に出し抜かれるようじゃ三下もいいところだな。

「どういうことですか、ラセル様」

「赤ゴブリンは街に氾濫させるために育てていた。知らなければ、ダンジョンの影響で魔物が氾濫するなんて言わない。つまりこいつは、溜めた魔物が溢れること、すなわち『オークを溜めている』ことを知っている。後は……魔道具で言ってただろ?『野に放たれた緑』と」

緑は間違いなく、オークのことだろう。

旗色が悪くなったと理解したな。

大司教はこの展開で……逃げに入った。

「《ストーンウォール》!」

……! こいつ、部下は赤色で揃えておいて自分は逃げるための地属性かよ!

どこまでも保身的で、自己中心的な奴だな!

俺が奴を追うため石の壁に向かって走ると……途端にその壁が崩れた。

崩れたその先で何が起こったのかというと。

「無茶しすぎよ、でもいい判断だわ。さすがリーダーね」

大司教を取り押さえるエミーと、シビラがいた。