軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

俺は二人を助けに行く。何よりも、俺自身のために

きっちり閉まった門を見て、この先に魔物がいるのだろうなと明確に意識をする。

門番の姿を見ながら、家を出る前のことを思い出す——。

「行くのね」

孤児院で準備をし、ポケットに魔道具を忍ばせた俺が一階に降りると、子供達の頭を撫でていたフレデリカから声がかかった。

その目は、何でもお見通しというような年長者の目……であるのと同時に、どこか寂しそうな目をしていた。

「ああ、少しアシュリーに関して気になることがあってな」

「そうなのね。アシュリーとも出会ったばかりなのに、大切に考えてくれる。やっぱりラセルちゃんは正義の味方だね」

「そんなんじゃないさ。ただ……そうだな、今動かないと後悔すると思っただけだ」

そう、後悔だ。

力がないうちは、まだ仕方ないと言い訳できたかもしれない。

だが【宵闇の魔卿】として力を得た今、俺がここで待っているうちに事態が悪化してしまったとしたら、きっと後悔する。

あくまでも自分のため。そんな大層な理由じゃない。

何かをやって、失敗するのは悔しいだろう。だが、それはあくまで自分の行動によって起こった結果だ。

その結果に対してどうこう後から言うつもりはないし、恐らくシビラなら『そんな暇あるなら次を考えなさい』って言うだろう。

だが……挑戦すらしないまま、敗北の結果だけを知らされるようなことになれば、俺は自分が許せるだろうか。

無論、否だ。

「俺はあくまで、俺のために動く。結果的にアシュリーもマイラも助ける、それだけだ」

「……マイラ?」

あ、しまったな。

あまり深く考えずに、喋ってしまった。

「あー……黙っていてすまない。俺が話していいのか分からないが、隠す方がかえって気になるだろうな。マイラというのは『赤い救済の会』に奪われたアシュリーの娘のことだ」

やはり知らなかったのか、フレデリカはかなり驚いていた。

「アシュリーに、娘がいたなんて。その娘が……近くに?」

「ああ。司祭とかいう変な役目を押しつけられて、人形のように朗読するだけの奴だ」

「そんな……。ずっと一緒に住んでいて、私はそんなことも知らなかったなんて……」

「いや、普通は気がつかないし、アシュリーもフレデリカに心配をかけさせるつもりはなかっただろう」

秘密にしたい気持ちは分かる。

アシュリーが責任感や使命感もあり、同時に自分の中で溜め込んでしまう性格なのも短い付き合いで分かる。

思い詰めると、少し判断力が鈍るところなんかもな。

俺とフレデリカが会話をしていると、それを聞いていたベニーが声をかけた。

「アシュリー、娘いるの?」

「これだぞ。『プレイ』」

「あっ、それ……!」

俺は魔道具を取り出し、その球体から声を出させた。

音留めの魔道具はやはり珍しいのか、フレデリカも含めて驚きながらその声を聞く。

澄んだ声で、『女神の書』の第一節を朗読する球体の魔道具。

「……綺麗な、声」

「そうだな。『ストップ』」

一節が終わったところで、俺は声を止める。

既に声は止まったように聞こえていただろうが、この合図は必須だった。

——あの男達の声を聞かせるわけにはいかない。

ベニーにちらと視線を送ると、小さく彼は頷いた。……聡明だ、ここの孤児院の子も逞しい。セイリスのイヴを思い出すな。

……この子たちを育てたのが、アシュリーか。

やはり、しっかり愛情を持って育てているじゃないか。何が『本当の子供じゃない』だよ。

アシュリー、お前は十二分にこの子達の母親だと思うぞ。

ならば……俺がやるのは一つ。

「ベニー。この声の子と会いたいか?」

「えっ……うん、会いたい。すごく、綺麗……」

ベニーは少し視線を彷徨わせて、照れたように頬を掻いている。

さすがの、司祭の役目になるほどの声。

声だけでここまで相手に興味を示させるなんてな。見た目も声で想像するのと同じぐらい可憐だから期待していろよ。

そんな反応を見せたベニーの頭を笑って撫でながら、フレデリカは俺の手の中にある、今は沈黙した球体を見る。

「その声が、マイラっていう子?」

「ああ。ベニーよりも年下なぐらいだ」

「……」

フレデリカは、少し目を閉じると頷き、目を開いた。

俺がどこに向かうか、理解したのだろう。

昼に見せたような、真剣な顔だ。

「無理、しないでね」

「お互いに、な」

フレデリカは一瞬呆気にとられたように瞠目すると、すぐにくすりと笑った。

「分かった。ラセルちゃんのお願いとあらば、ちゃんと守るわ。だけどそれでも必要に迫られて疲れちゃった時は、報告優先。そうなったら、たっぷり褒めて癒やしてね」

「任せろ。俺の魔力は無尽蔵、最後にはこの街一つを聖女伝説の力で回復させるつもりだ。フレデリカ一人なら、いくらでもやってやるさ」

「ふふっ、さすがに強がりすぎよ。そういうところはちょっと可愛いわね。でも、期待してるわ」

別に強がりでもないというか、むしろ余裕な部類なんだがな……。

「本当にラセルちゃんがずっと一緒だったら、私ももーっと頑張れるわね」

「だから頑張るなっつってんだろ。やれやれ……それじゃ、行ってくる」

話が長くなりそうだったので、俺は最後にベニーの頭を少し乱暴に撫でておく。

俺がこの可能性に賭ける気になったのは、こいつのお陰だ。

今回の勝利の鍵を提供したのは、ベニーだ。

まさかうちの女神も、孤児院の子供に先を行かれるとは思わなかっただろう。

あいつなら、それすらも喜びそうだが。

扉を開け、外に一歩踏み出す。

最後に、背中へと声がかかった。

「行ってらっしゃい、ラセル。私達の……私の、聖者様——」

自分のタグに触れて、軽く魔力を流す。

アドリア――【宵闇の魔卿】レベル13。

そこに表示されるのは、当然のように宵闇の職業。

これを赤会みたいな新興宗教がいるところで表示するのはまずい。

女神教では太陽の女神によって授与されるとされる 職業(ジョブ) 。

それなのに太陽の女神が宵闇という闇魔法専門の 職業(ジョブ) を渡したように見られるものを見せびらかしたら、赤会が好き勝手に利用するだろう。

俺は、門番の方を見る。

どうしたものか……。

しかし、シビラとエミーがいないって事は必ず出たはずだよな。

ならばそのことを話せば、出ることはできるのかもしれない。

俺は、思い切って声をかける。

「出たいのだが、構わないか?」

「あん? なんだ女子供ばかり。お前も早く帰れ、今外は」

「魔物だらけ、だろ?」

男が驚いたように目を開く。

……よく見ると、この男に見覚えがある。

「俺と一緒に来ていたパーティーが先に出ていたはずだ。職業は見せたか?」

「あ、ああ……まさか、あんたも……」

「一応な。聖騎士のエミーと合流する予定の者だ。先日ここの門からこの街に入った。覚えているか?」

乗り合いではなく、結構いい馬車を使ってやってきた。それなりに目立つはずだから、覚えていれば……。

「ああ、あの時の……!」

「そうだ。仲間の救援に向かわせてもらいたい。恐らく既に外の魔物は減っている、後から俺が回復させる手はずとなっていてな、合流した方が街も安全になると思うのだが……どうだ?」

門番は俺のローブ姿を見て、頷く。

そもそも街の外に今出たところで、別に得をすることなどないと分かったのだろう。

俺の言葉が信用に足るものだと思ったようだ。

「分かりました、聖騎士様のお名前も一致しましたし、許可します」

「感謝する。ところで、俺とエミーとシビラ以外に門から出た奴はいるか?」

「いえ、聖騎士様の二人組のみです」

よし、懸念事項の一つは潰せたな。

開く門を見ながら、俺は腰の剣を確認するように触れた。

門の外。目の前に広がる光景と、後ろで門が閉まる音を聞いて、ひとつ溜息を吐く。

当たり前のように、エミーと合流するためと伝えて出てきたな。

もちろん、俺にそのような予定などない。

「やれやれ……うちの女神様の影響かな」

あいつが効率化のためならどんどん嘘を吐くものだから、俺も似てしまったのかもしれない。

誇り高い女神に似ると思えば悪くないはずなのだが、先ほどの言動は完全に悪戯女神のノリに悪い影響を受けた感じだな……。

それにしても、だ。

視界に広がる圧倒的な光景に嘆息する。

そこら中に、あの緑の魔物の死体が転がっているのだ。

ちょっと多いとか、そんなものじゃない。近くはもちろん、遠くの先まで死体が広がっていて斑模様の如しである。

そういえば、こいつらは女の顔をじろじろ見て、下卑た笑みをしながら近づく魔物だったな。

……まあエミーはあれで間違いなく素手でもオークより強いから、負けるということは有り得ないだろう。

少し精神的には心配な部分もあるが、あいつもあいつで強くなろうとしている。心が、だ。

今のエミーなら、大丈夫だろう。

シビラの方だが、あいつも自分の後ろに居る魔物も観測できる魔法があるし、なんといってもシビラがこんな雑魚に手こずるとは思えない。

出来ないことは出来ないとハッキリ言うタイプだからな。

「心配する方が失礼ってものか。ならば、俺も俺のやるべきことをやらせてもらおう」

町の東、シビラと何度も向かった赤い建物へと足を進める。

今は赤いローブを着ていないが、こうなった以上そんなことを気にする必要もあるまい。

懸念事項の一つが、赤会の人間が出向いているということだ。

そうなってくると、当然人間との戦いになってくる。

俺を尾行していた赤会の奴の時にシビラの指示で動いたが……やはり、人間を相手にするというのは慣れない。

あの時はシビラが近くにいて指示を出してくれたから、うまくいったようなものだ。俺一人で全員を殺さないように手加減して、上手くまとめあげられるだろうか。

もしも、殺さなければどうにもならない場面に出くわしたら、俺は相手を手にかけるのか。

そういうことを考えていたが、先ほど他に出ている人がいないことを聞いた。

ならば、あの場所にいるのはそれ相応に上位の者のみ。

恐らくマイラは街に帰っていないはず。

帰っていたら、アシュリーが頻繁にマイラを見に出ていると考える方が自然であるし、マイラを近くで見ることが報酬にならない。

結果、マイラが街に帰っていないと考える。

そうなってくると、当然マイラの世話をする人間も常駐しているだろう。

監禁して鍵をかけている可能性もあるが、あの建物でそれは考えにくい。

何より、今の状況であの大司教が赤会の建物に出向かないなど有り得ないだろう。

特に、赤会が魔物を野に放っている以上はな。

だが門番は、俺達三人しか出ていないと話していた。

ならば、やはりあの大司教連中は聖堂の辺りにでもいるだろう。

恐らくアシュリーも、それを理解した上で向かったはずだ。

俺は考えつつも、外壁沿いに進んで行っていた。

魔物の死体は外壁よりも平野方面に多い。

恐らくこの辺りを、エミーかシビラが移動しながら魔物を倒したのだろう。

燃やされていることから、シビラと考える。

マジックポーションは……心配するのは余計だな。あいつがその準備を怠って出向いたとはとても考えられない。

近くにいたら合流したいところだが、見つからなければ構わない。

まずはアシュリーが心配だ。

ふと、思った。

他の赤会の連中ならともかく、少なくともあの大司教と、アシュリーの元旦那だけには、たとえ俺の素性がバレようとも容赦なく闇魔法を使うだろうなと。

——結局シビラは見つからず、俺は外壁を離れることとなった。

今まではオークの死体を見つつ、左側を常に街の外壁に置くことで不意打ちを気にかけずに歩いていた。

だが、ここから先は、後ろに気をつけなければなるまい。

「《ウィンドバリア》」

二重詠唱で魔法を張る。恐らく後ろからの不意打ちでもかなり防げるはずだ。

後は、俺が油断しなければいいだけだ。

俺達三人しか街の外に出ていないのなら、人の目を気にする必要もあるまい。

「《エンチャント・ダーク》」

抜き放った剣が、命を刈り取る黒へと染まる。

その切っ先を、正面に向ける。

「……無事でいてくれよ」

俺は小さく呟くと、未だ生きたオークが蔓延る赤会本部方面へと走り出した。