軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【4巻発売記念SS】弱気MAXな妹が辣腕少年と婚約してしまった(後)

しかし、我が家の予想に反して、なぜかスタン侯爵家は婚約解消に応じなかった。

そして、その機を境に、なぜかルーファス様がピアにどう見ても本気になってしまった。

以前は当たり障りのない会話を当たり障りなくする一時間であった、月1の婚約者親睦タイムが、ピアの一言一句聞き漏らすまじ! と気迫に満ちた前のめりの週一丸一日デートになった。

そして、アカデミーに入る少し前から……という話だった、侯爵家での花嫁修行もあれよあれよという間にスタートし、ピアの頭の上に特大の疑問符が浮かんでいるのが見える。

そしてなんと、スタン侯爵領での避暑にまで誘われるピア。

侯爵家の総意で完全に囲い込むらしい。訳がわからない。

「ピア、スタン邸での教育は厳しくない? 大丈夫?」

家族揃っての夕食中、ピアに尋ねる。

「いえ、厳しい指導の時も理由を教えてくれるので納得できます。でも厳しいのははじめの一時間ほどで、あとは犬の散歩をしたり美味しくお茶をいただくばかりで。ルーファス様もお義母様も、私の最近の研究をニコニコ聞いてくださって……ちゃんと理解したいから、論文にまとめてくれる? などと、化石や地形の話にとっても積極的で……」

「待て、いろいろツッコミどころ満載だが、もう侯爵夫人を「お義母様」って呼んでるの?」

「はい、じゃないと圧がすごいんです……」

慌てて常にピアに付き添うサラを見ると、静かに頷いた。

「どうして、私に似てこんな地味なピアが、そこまで気に入られちゃってるの?」

母がスプーンを握ったまま、呆然と呟く。

「……まあ、大事にされているのなら、大変ありがたいこと……だ?」

父も頭をひねりながらそう言った。

そして私は次期筆頭侯爵様に、親密に、義兄上、と呼ばれるようになった。

「義兄上、お邪魔しています」

「ひゃっ!? ルーファス様? いらっしゃい?」

庭で壊れた音響装置を分解していると、後ろから声をかけられた。

ここは庭と言いつつも……半分は父の実験場である畑である。恐る恐る彼の足下を見れば……一流品の靴が泥だらけ。詰んだ……なぜだ、ルーファス様……。

「御用がおありでしたら私から参りましたのに」

私は慌てて手を腰にさしたタオルで拭いながら駆け寄った。

「いえ、ああ、気にしないでください。私が自分の判断で入ってきたのです。……と言っても義兄上に気を遣わせては失敗ですね」

賢いこの少年は、私の視線から私の思考を全て読んで頭を下げた。

「いやいやいやいや、体を起こしてください! ところでいかような?」

「いえ、ただ、ピアの家族は私の家族。少しでも私を受け入れていただきたくて、義兄上のことを教えてもらおうとやってきました」

「家族!?」

それから私は、五つも違う少年に尋問され、私のこと……家での様子やアカデミーや今取り組んでいる研究についていつのまにか語り尽くしていた。もはや私は丸裸だ。

まあどっちみち侯爵家相手に嘘などつけないのだ。

しかし、ルーファス様が尋ねたのは私のことだけで、うちの家族や使用人……経済状況などには全く触れなかった。……思慮深いことだ。おそらく全て婚約段階で調査済みだろうし、調査されて見つかる目ぼしいことなど何もない。

「音か……ピアといいお義父上といい、斬新な……。義兄上のことが少し理解できました。次期伯爵である義兄上とは、長い付き合いになりますので親しくしていきたいのです」

ニッコリ笑いながら首を傾げるルーファス様は、天使のようだ。中身は多分大きく違うけれど……。

「……聞いてくださればなんでもお応えします。私どもは現状に不満はなく、分不相応な望みもありません。穏やかに領民たちとともに生きていければそれで。……ロックウェルは決してスタン侯爵家を裏切りません。ピアさえ……ピアさえ大事にしていただけるなら」

そしてピアも私もほどほどに研究が続けられるなら……なおのこといい。

我がロックウェルはルーファス様との婚約話が出た時からとっくに覚悟ができていることを、私の口から伝えておく。何か気分を害されたとしても、まだ当主でない私の発言など捨て置かれるだろう。

するとルーファス様は珍しく表情を崩し、数秒瞠目された。

「縁故となるスタンに何も期待しないのか……本当にロックウェルは無欲な……ピアさえ安らかならば、か……しかし人生行き着くところそれが全てか……ピアが暗い顔をしていれば、何もかもが色褪せる……それにしても、この私に含むところなく率直に意見してくれるなんて……」

「ルーファス様?」

「ああ、すいません。義兄上、ピアを必ず幸せにすると、ルーファス・スタンの名に賭けて、誓います」

なぜか、とっても重い宣言を引き出してしまった。

「ええと……妹を宜しくお願いします」

「はい、ふふっ」

「ん? どうされました?」

「嬉しいのです。私には兄弟がおりません。信頼できる義兄ができて……よかった」

「うおっ!」

眩しい! 先ほどのニッコリとちょっと違う? ルーファス様の輝かんばかりの微笑みは、日頃アカデミーの薄暗い研究室にこもりっきりの私に、かなりのダメージを与えた! これは一体どういうことだ……?

◇◇◇

それからは……、

「義兄上、ピアを決して一人で外出させないようにしてください! 防犯上の問題です」

「義兄上、義兄上のアカデミーの研究室に、新しいストーブを入れておきました。併せて鍵も最新のものに付け替えました!」

「義兄上、義兄上の研究を阻害した、ネブルズ子爵家、王都から引かせましたのでご安心を」

私の何がルーファス様の琴線に触れたのか? なんとなく、距離を一気に詰められた。

まあ、両家親密であることは……いいことだ……?

ルーファス様は結局常識的なお方だし?

ロックウェルは、これからも、研究を通じて細々と国に貢献していくだけ。そして、ピアを大事にしてくれるスタン侯爵家に敬意を払って生きていくだけだ。

「あ、そういえばルーファス様、よろしければ私の結婚相手を推薦していただけないでしょうか?」

やはり父も私もあてはなく、どんな令嬢ならばスタン家にGOサインをもらえるのか見当もつかない。いっそお任せしてしまおう。

「あ、義兄上? ご自分の結婚相手ですよ?」

ルーファス様が珍しく焦った表情で言い募る。

「ええ。それが一番間違いないかと」

貴族の婚姻とはそんなもの。相手を親が見つけるか? ルーファス様が見つけるかの違いなど大したことではない。選ばれた相手が私との結婚を了承してくれたなら、誠実に向き合うだけ。両親やピアと仲良くしてくれればさらによし。

「そこまで信頼していただけるとは……全く、 ロックウェル(ここ) は調子が狂う。しかし……決して嫌ではない。照れ臭いだけだ。ロックウェル伯爵家の家風を尊重し、我らを裏切らず、義兄上を尊敬する令嬢……慎重に探さねば……。わかりました!素晴らしい女性を見つけて参ります!」

私の最も大きな懸案事項が消えた(丸投げした)瞬間だった。

そしてあれからずいぶん経つが、私の花嫁候補は未だ一人も現れない。

「義兄上、申し訳ありません。なかなか 私(・) の目にかなうものがおりません」

「いえ、全く気にしておりません。ルーファス様もお忙しいでしょうから、私のことなど後回しにしていただいて構わない……」

「そう言われると、逆に燃えますね」

「えー!」

私は軍務と領政の傍ら好きな研究ができればそれでいい。ロックウェル伯爵家の跡継ぎは、ピアとルーファス様の子どもにお願いしたいんだけどな〜と思っているのだが、真剣な顔のルーファス様にそう言うのは憚られた。

私はラルフ・ロックウェル。空気の読める地味な伯爵令息だ。