軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第六十九章 千客万来

もう分かっているだろうが、広場にドクロこと、『お洒落な髑髏』を並べた犯人は俺だ。

その動機はもちろん、お城の兵士だか騎士だかに俺を 捕まえて(・・・・) もらって(・・・・) 、堂々と城に乗り込むためである。

真希に会う方法は考えていたが、城の警備はなかなか厳しい。

あの『仮面家族』の動画の影響か、パッチで城に入り込んだのを見つかると一発アウトな仕様になったため、侵入は困難。

誰かに言伝を頼もうにも、城の奥にいる王女と会うキャラクターなんて、王と王妃以外に心当たりがない。

正攻法では難しいと考えた俺は、ここで考え方を変えることにした。

入ることが出来ないなら、向こうから招いてもらえばいいのだ。

そこで思いついたのが、広場に大きく文字を書いて、真希の部屋からそれを見てもらうという計画だ。

真希がシェルミアと同じ立ち位置にいるなら、その部屋はリヒト城の西の塔の最上階になるはずだ。

その西の塔からなら、街の中央広場がはっきり見える。

そこにデカデカと文字を書いてやれば、城に一歩も入らなくても真希に伝言を届けることは不可能ではないと考えた。

しかし、中央広場は人通りが多い。

ただの文字だったらすぐに消されるか、人に紛れて見えなくなってしまうだろう。

そこで思いついたのが、『お洒落な髑髏』だ。

人に拾われないこのアイテムを並べて字を作ればすぐに消されることもないし、人が寄り付かないため上からでもはっきり見えるだろう。

おあつらえ向きなことに、在庫は2000個超で、並べて文字を作るには充分な量がある。

俺は『迷子の道標』クエストの後片付けをするついでに、『お洒落な髑髏』を広場に並べてメッセージを作ることに決めた。

悩んだのがメッセージの内容だ。

重要なのは、画数が少なく、真希に俺が書いたと理解出来るような文面や記号を作ること。

あまり複雑な字を作るのは難しいし、時間もかかる。

ついでに言えば、上から見た時に間違えて読んでしまう危険性も増える。

よって、『相良操麻』なんて画数の多い字を書くのは論外。

かといって『ソーマ』では伝わるか微妙だし、他の人にも犯人が俺だとバレバレになる。

最終的に捕まって城に行くのが目的なのだが、真希にメッセージが伝わる前に逮捕されたらそれはそれで意味がない。

そこで考えたのが『オレ三上』という文面だ。

普通の人なら『オレ三上』という文字を見ても何も分からないだろうが、真希なら別だ。

真希は小さい頃、近所の家の壁に『まき 三上(さんじょう) 』と書いて家族や俺に散々からかわれたという思い出がある。

つまり、『○○三上』という言葉を使うのは、日本での真希を知っているというアピールになる。

――故に『オレ三上』という言葉は、真希にだけ通じる、『この世界に俺がいるぞ』というメッセージになりえるのだ。

ここまで来れば、後は簡単だ。

真希にメッセージが届けば、真希はこのドクロを置いた人間と会おうとするだろう。

その時のために、これをやった人間がどこにいるのか、その手がかりを残しておけばいい。

ドクロを調べれば、必ず『迷子の道標』の騒動と、俺がそれを購入したアイテムショップに行きつくだろう。

だから俺は、ケニー、アニーの兄妹と、アイテムショップの店員を含む複数人に俺の居場所を知らせておいたのである。

これで仕込みは全て完了。

真希が俺を手荒に扱うように命令するとは思えないし、早ければ今日の内にでも騎士がこの家に駆けつけ、俺は騎士様のエスコートで城に行って真希と会えるだろう。

「と、いうことで、今日は家でゆっくりしてようかなって思うんだ」

リンゴにそう言うと、彼女はめずらしく硬い表情を浮かべた。

「…わたしは?」

それは、俺が城に連行された場合、自分はどうなるのかという質問だろうか。

リンゴの懸念ももちろん分かる。

いくら真希が何とかしてくれるという目算があるとはいえ、犯罪者として連行される訳だし。

正直に言えば、ここまで大事になるとは俺も思っていなかった。

ちょっとした悪戯気分というか、俺の中では、学校の校庭にライン引きで「○○ちゃん 好きだ!!」とか「わたしはここにいる」とか書くようなノリだったのだ。

使った物が悪かったのだろうか。

ドクロとはいえ所詮偽物だし、よく見れば独特の愛嬌があるのだが。

とにかく俺は、リンゴを極力安心させるよう、穏やかな口調でさとすように言った。

「そんなに心配することないって。

あのドクロに俺しかさわれないことが分かったなら、最悪の場合でもリンゴが共犯に問われることはないはずだよ。

いざとなればギルドに預けてる賞金もあるし、リンゴはここで留守番をしてもらえれば……」

「わたしも、いく」

即答だった。

どうやら俺の想定とは逆方向の心配をされていたらしい。

「いや、でも……」

「いく」

意志は固そうだ。

(これは説得するのは難しそうだな……)

何か言おうかと思って口を開きかけたが、やめた。

今話をしても、埒が明かないだろう。

「ま、これは今考えてもしょうがない。

近々、強敵と戦う予定があるんだ。

そのためにちょっと準備をしたいから、手伝ってくれないか?」

俺が言うと、リンゴは不満そうだったが渋々とうなずいた。

気を取り直したのか、

「……きょうてきって、ヒサメってひと?」

と尋ねてくる。

「ああ、そうそう。だから念のために……」

そう答えかけて、はたと気付いた。

「あれ? 何で俺がヒサメと戦うって知ってるんだ?

馬小屋で俺たちが話をしてた時、リンゴは確か寝てたはずじゃ……」

「………おきてた。とちゅうから」

何でも、俺とヒサメの会話に目を覚ましたものの、話の邪魔にならないように声をかけたりせずに静かに待っていたそうだ。

確かリンゴが物音を立てたことでヒサメとの会話は終わったと思うが、リンゴは実際にはその前からずっと起きていて、たぶんその時、手が滑ったか何かでつい音を立ててしまったのだろう。

どうも気を遣わせてしまったようだ。

「まあそういうことだから、少しでも戦いが有利になるように、今日の内にこの屋敷の施設を使おうかと思ってるんだ」

メインで使う予定なのはアイテムショップで買った魔法のジェムだから、俺の強さはあまり関係ないはずだが、作戦が失敗する可能性もある。

プラスの要素は出来るだけ増やしておきたいという思いがあった。

「…にかい、いくの?」

リンゴが不安そうな顔をするが、その心配も分かる。

全体のたった三分の一、一階を調べただけで、あれだけの物が出て来たのだ。

工房を探して二階や三階に行ったとして、一体どんな事態が起こるか想像もつかない。

「ああ。でも、大丈夫。

今回は、秘策があるんだ」

「ひさく…?」

首を傾げるリンゴに、俺はテーブルの上の鍵を指差した。

「今日は、あれを持っていかないことにするんだよ」

「お、ここは絵画と彫刻の部屋みたいだな」

二階に来て最初に開けた部屋は、芸術系の生産をするための部屋だったようだ。

宣言通り、鍵を持ってこなかったことがうまく運んだと言える。

「思った通り、生産系の施設のある部屋は、鍵がかかってないんだな」

この屋敷での鍵は、他人に侵入されないための防壁というより、面倒な物を封印するための機能を持っている。

ゲーム的に言うなら、部屋の鍵を開けることがイベントの開始条件になっているのだ。

それは裏を返せば、鍵のかかっている部屋には厄介な物が眠っているという事実を示すことになる。

一方で、一階にあった食堂や居間、風呂場などという施設には、鍵はかかっていなかった。

これはそれらの部屋が、鍵で封印する必要のない、厄介なイベントフラグなんてない部屋だったと言うことが出来る。

要するに、生産に必要な施設を探したかったら、鍵のかかっていない部屋を回ればいいということだ。

「それにしても、絵と彫刻か。懐かしいなぁ……」

俺もこのゲームで絵を描いたり彫刻が出来ると知った時は「芸術を判定する機能もあるなんて、なんて凄いんだ、『New Communicate Online』!!」とか思って感動したものだ。

しかし、それは絵の評価方法を知った時、失望と呆れに取って替わられることになる。

『猫耳猫』には絵画のコンクールイベントなどもあるのだが、その絵の評価は描かれた絵の内容ではなく、その複雑さ、具体的には使った色の種類や、線の数と長さによって決まっていた。

要は、一筆書きしためちゃくちゃ綺麗な絵より、三色の筆で適当に引いた線の方が評価が高いことになる。

これを知った俺は絶望し、以降『猫耳猫』で絵を描くことはやめた。

とはいえ、懐かしいのは確かだ。

俺は絵画のコーナーに歩み寄って、一本の筆を手にした。

(リンゴに渡したら、喜ぶかな?)

リンゴが赤い部屋を楽しそうに落書きしていくのを思い出して、俺はそんなことを思った。

そもそも、実は絵を描くのに何もこんなに大きな工房は必要ない。

最低、絵筆が一本あれば事足りる。

「『セット』」

俺が筆を掲げてそうオーダーすると、突如として目の前に、綺麗な額にはめられた真っ白なキャンバスが現れた。

どうやらこの世界でもこのスキルは健在なようだ。

絵筆などといった芸術系の道具には、エレメントを消費してそれぞれの素材を呼び出す固有のスキルがついていて、『セット』とオーダーすることでそれは発揮される。

ちなみに大きい絵筆だと大きなキャンバスが、小さな絵筆だと小さなキャンバスがそれぞれ現れる仕組みになっている。

筆には魔法で色がついているらしく、わざわざ絵具をつけなくてもその筆の固有の色が無限に塗れるが、その代わり違う色を塗るにはその色の筆を入手するしかない。

新しい色を作り出せないので、真面目に絵を描こうという人には不便すぎる設定だろう。

(そういえば……)

彫刻の方はどうなんだろう、と思い、そこにあった鉄製のノミを手に取って『セット』と叫ぶ。

すると、

「うわ!」

目の前の空間に鉄製の立方体が落ちてきて、俺は思わず後ずさった。

これが彫刻用の素材だ。

彫刻刀やノミを持った時に『セット』のスキルを使うと、その時手に持っていた道具の大きさと材質に対応した素材が降ってくる。

今回は鉄製の大きいノミを持っていたので、大きな鉄の塊が降ってきたという具合である。

ただ、問題があるとすれば、

「やっぱりか……」

俺がノミを鉄の塊に振り下ろすと、がちんと音がしてノミが弾かれた。

彫刻の道具と素材が同じ材質になるため、素材を呼び出すのに使った道具を使ってもうまく彫れないのだ。

普通に考えて、木の道具を使って木を彫るとか無理だろう。

いや、もしかすると現実だとありなのかもしれないが、ゲーム的には不可能だということは既に証明されてしまっていた。

というかそもそも、作った彫刻はあげたり売ったり出来ないし、彫刻が役に立つ場面もイベントもないし、街の人が彫刻の話題を出すことも一切ない。

要は、彫刻のシステムはほとんど未実装なのだ。

これも、『猫耳猫』の闇の一つだと言えるだろう。

「……行こうか」

何だか、彫刻のことを思い出したらテンションが下がってしまった。

俺は後でリンゴに渡すことも考えて何本かの絵筆と彫刻刀を鞄に入れてから、部屋を出ることにした。

「次はぜひ武器カスタムの部屋か、魔法カスタムの部屋に当たりたいもんだなぁ」

生産系の機能はそれなりに便利な物はあるが、とにかく武器と魔法のカスタムの有用性は群を抜いている。

ヒサメ戦以降のことを考えても、ここで武器や魔法を調整するのは必要なことだと言えるだろう。

そんな期待から、俺は次の部屋を開けたのだが、

「……あれ?」

その部屋の中を覗くと、俺が見たこともないような光景が広がっていた。

「ここも、生産系、なんだよな?」

首を傾げながら、リンゴと一緒に中に入る。

その部屋は今まで見たどんな部屋よりも豪華な内装がされていて、壁際の至る所に武器のコレクションやら歴史がありそうな展示品やらが置かれていた。

「もしかして宝物庫……なら鍵はかかってるだろうし、展示室とかそんな辺りかな」

言いながら、俺がなんとなくその場にあった金の盃を手に取った時だった。

――バタン!!

不吉な音を立てて、開け放していたはずのドアがひとりでにしまった。

「なっ! どういうことだよ!」

急いで駆け寄るが、開かない。

「っ!? そうか!!」

その時、俺はこの部屋の正体に気付いた。

気付いてしまった。

――ここは、泥棒ホイホイだ!!

2000万Eの家に存在する泥棒避けのトラップとして、俺も名前だけは聞いていた。

わざと部屋の鍵を開けておくことで泥棒を招き入れ、泥棒が中の品物に手を触れた瞬間、扉を閉めて閉じ込める。

いかにも『猫耳猫』スタッフが好みそうな陰険な罠である。

だが、それなら家の主である俺たちには脱出出来るはずだ。

そう思って扉を調べると、鍵穴があった。

俺はほっと息をつく。

「助かった。どうやら鍵さえあれば、ここから出られ、る……」

「…カギ、テーブルの上」

そうだった。

どうせ使わないからと決めつけて、鍵は一階の居間に置きっぱなしにしてしまっている。

もしかしてこれは……。

(い、いや!!)

俺は力強く頭を振る。

この程度の危機はいくらでも乗り越えてきた。

「あ、あはは。安心しろよ、リンゴ。

スキルや魔法ってのはこういう時のためにあるんだ。

『プチプロージョン』!!」

俺は必死に自分を落ち着かせながら魔法を詠唱しようとするが、

「あ、あれ?」

いつも魔法を使う時の感覚が来ない、それどころか、

「『ステップ』! 『ジャンプ』! 『スラッシュ』!」

スキル名をオーダーしても、何の反応もない。

『呪文無効化空間』なんて不吉な単語が頭をよぎる。

「…わたしが」

それを見て業を煮やしたのか、リンゴが黄金桜をドアに向けていた。

俺はあわてて横に逃げる。

直後、黄金桜から雷撃が飛び、扉を直撃する。

そうだった。

リンゴの雷撃はスキルではなく通常攻撃、これなら……。

「無傷!?」

しかし、扉には傷一つない。

それを見て、俺は悟った。

「破壊不可能、オブジェクト……」

リンゴはそれから隣の壁にも雷撃を撃ってみたが、結果は同じだった。

システム的に、壊せない壁と扉。

そして、スキルと魔法を封じられた空間。

(なんて、こった……)

俺は思わず、その場に座り込む。

流石『猫耳猫』と言うべきなのか、あるいは自分たちの迂闊を呪うべきなのか。

とにかく、分かったことは一つ。

――どうやら俺たちは、自分の家に監禁されてしまったようだった。