軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百八十五章 Gスピードキング

俺がメダルを見せてからしばらく、サザーンはやたらと取り乱した様子で俺に馬の餌をぶち当てていたのだが、

「ソーマ。取り込み中に悪いが、我は早く報酬を受け取りたいのだが……」

俺の隣にいたGスピードキングが口を開くと、ぎょっとした様子で固まった。

「う、馬がしゃべった!?」

このハチャメチャな『猫耳猫』世界にあっても、やっぱりしゃべる馬はめずらしいらしい。

いや、そりゃあそうか。

「な、なんなんだソーマ! こいつは一体……」

「あー、はいはい。今から紹介してやるから」

狼狽するサザーンからかばうようにGスピードキングの前に立ち、俺の元相棒を紹介する。

「――サザーン、こいつは神馬Gスピードキング。俺の、古い知り合いだよ」

神馬Gスピードキングは、俺がリヒテルにやってきて間もない頃、リンゴと一緒に泊まった馬小屋の向かいの小屋にいた馬だ。

餌を買いに行ったサザーンと別れた俺が、すぐにこいつをスカウトしに行ったのには、もちろん理由がある。

この馬と最初に会った時、ヒサメ家の訪問イベントフラグによって街の人たちがヒサメ道場の話しかしなくなっている状態だったため、こいつも「ヒヒヒサメの家は街の西にあるぞーン!」といなないて俺をうんざりとさせてくれた。

当時は色々とあってあまり不思議に思わなかったのだが、実はあの馬がヒサメイベントの影響を受けていたのは少しおかしいと考えていたのだ。

少なくともゲームにおいて、ヒサメイベントの影響を受けるのはギリで赤ん坊、つまりは人間用のAIが設定されているキャラクターまでだった。

いくら『猫耳猫』でも、普通のモンスターや動物がいきなりヒサメ道場の場所を話し出したりはしない。

ゲームが現実化して仕様が変わった可能性も考えられたが、それ以外の可能性、つまり、あの馬がもともと しゃべる馬(・・・・・) だったのではないか、と当たりをつけたのだ。

結果は大当たり。

試しにあの馬小屋にいた白い馬に話しかけてみると、確かにそいつはこの世界において唯一のしゃべる馬、神馬ランクの馬だった、という訳だ。

「……つまり、僕の買ってきた餌が無駄になったのも、お前がそうやってメダルを持ってドヤ顔しているのも、全部こいつのせいだということか」

説明を聞いたサザーンは、Gスピードキングを苦々しげににらみつけた。

いや、どうしてそうなる。

やはり中二と中二の組み合わせは、相性が悪いということなのか。

呆れかえる俺の隣で、サザーンににらまれたGスピードキングは鼻息を荒くした。

「ふんっ! 貴様ごときに『こいつ』呼ばわりされる筋合いはない。

よいか? 我は神の馬、ゴッドスピードキング!

生きとし生けるもの全てを置き去りにする神速を持ちし、選ばれし……」

「何だよ、ゴッドスピードとか。だっさい名前」

「な、なぁっ!」

まさかの中二ネーム全否定に、言葉を失うGスピードキング。

ちなみにだが、馬の名前はプレイヤーが馬を引き取った時に自由に決められることになっている。

要するに競走馬でもなければ名前なんてないはずなので、おそらくこいつの正式名はエントリーに書いたGスピードキングになっている。

下手すれば一生モノの名前を馬鹿にされただけあって、Gスピードキングの怒りもすさまじかった。

ぶるるると馬特有のいななきを漏らし、今にもサザーンに突撃しそうに前脚で地面をかく。

「お、愚かな、人間め! 我が、神速を、知らないと見える。

我を、我が、神速を……見よぉおおお!!」

「あっ、ちょっ、おい!?」

何を血迷ったのか、街中でいきなり全力ダッシュを始めるGスピードキング。

こいつ、煽り耐性なさすぎる!

流石生まれてからずっと、馬小屋に引きこもってただけのことはあった。

「おい! 待てってGスピードキング! Gスピードキング!

止まれって、Gスピードキ……ええい、止まれG王!」

叫ぶが、この馬鹿馬、G王は止まる様子を見せない。

人々の悲鳴をかきわけるようにして、尋常じゃない速度で全力疾走を続けていた。

俺も走って追いかけるが、とても追いつかない。

「くっそ! 仕方ない!」

街中で剣を振り回したくはなかったのだが、そうも言っていられない。

俺は素早く剣を手にして、神速キャンセル移動でG王を追う。

「こん、のぉっ!」

横薙ぎだと失敗した時に危ないので、スラッシュとステップで小刻みに移動。

幸い道はG王のおかげで開けている。

俺は数秒でG王に追いつくと、その前方に回り込む。

「な、なぁぁあ!!」

いざとなれば身体を張ってでもG王を止めようと考えていたのだが、その必要もなく、G王はたたらを踏むようにして俺の前で立ち止まった。

そうして、俺を何か信じられないものでも見るような目で見る。

「え、あ、いや、貴様……あ、いや、おぬし、は……」

「何だよ?」

「い、今のは、なんだ? さ、先ほどの動きは、それに、あの速度は……」

「ん? あー、神速キャンセル移動のことか」

人一倍走ることにこだわるこの馬のことだ。

俺の変わった走り方に興味を覚えたのだろう。

一瞬だけ説明に困ったが、正直に話すことにした。

「今のは、俺の故郷の人間が編み出した移動法だよ」

「おぬしの、故郷……」

「ああ。ここに来るような戦士なら、大体ほとんどの人が使えるぞ」

「そ、そう、なのか。すごい……ところだな」

俺がちょっと盛った感じの事実を伝えると、神馬は何を想像したのか、ぶるるっと震えた。

「ほら、馬鹿なことをしてないで、もどるぞ」

「そ、そうだな。うむ、そう、しよう」

どうやら、今のやりとりで興奮が冷めたらしい。

さっきまでの暴れようが嘘のようなしおらしさで、俺の言うことにうなずいてくれた。

やはりばつが悪いのか、俺から距離を取ろうとするような様子すら見える。

そして、その時だった。

「……G、スピードキング」

「あの、動きは、確かに……」

「Gだ。まちがいなく、Gだ……」

街の人々のさざめくような声が、耳に入ってきたのは。

「あっちゃー。やっちまったな……」

その声に何が起こってしまったのか気付いて、手のひらを額に当てた。

俺がG王の名前を連呼しすぎたせいで、街の人にG王の名前を覚えられてしまったらしい。

それもたぶん、名前の通りの神速の馬、などではなく、やたらと速い暴走馬として。

「ねーねーおかあさーん。Gってゴキブリだよね。あの人……」

「しぃっ! 指さしちゃいけません! 失礼でしょ!」

「さすが英雄様だ。まさか、あんな……」

それに、何だかG王のとばっちりで俺まで注目されている気がする。

このままでは、街の人に『水没王子』兼『Gスピードキングの飼い主』として認知されるの日も近い気がした。

「す、すまん。我のせいで、おぬしがあんな呼ばれ方を……」

「……はぁ。ま、次からは気を付けてくれよ」

恐縮しているG王を前に、手を振ってみせる。

もう水没王子なんて訳の分からないあだ名がついているのだ。

別に今さら変な馬を飼っていると噂されたって、大したことはない。

でも、今度からはこいつが外に出る時は離れて歩こうかな、と内心で思いながら二人でとぼとぼと歩いていると、肩を怒らせたサザーンが向こうから近寄ってきた。

サザーンは俺たちの様子を見て、周りの様子を眺めただけでその場の状況を把握したようだった。

馬のお株を奪うように、ふんっとG王を鼻で笑うと、言い放った。

「ほらな。ゴッドスピードキングなんて訳の分からない名を名乗るから、こういうことになるんだ」

「ぐ、ぐぅぅ」

G王が馬のくせに歯ぎしりをする。

名前を馬鹿にされて悔しいようだが、今の一件の引け目から反論出来ないようだ。

しかし、サザーンの話はそこで終わりではなかった。

「だから、特別に僕が貴様に新しい名前を与えてやる。

神馬の称号にふさわしい、貴様の真の名を、な」

「な、に……?」

戸惑うG王に、サザーンは両手を広げ、黒マントをはためかせ、叫んだ。

「今、この瞬間から、貴様はゴッドスピードキングではない!

闇を切り裂き、悪を引き裂く、聖なる雷神!

――神馬、セイクリッドライトニングだ」

その熱の入った言葉に、G王は驚いたように口を開き……。

「――何だ、それは。センスの欠片もない名前だな」

……当然、大喧嘩になった。

「大体だな! お前は闇だの影だの、陰気くさいのだ!

我を見習え! ゴッドスピードキング! これほど我の神性をあますところなく表す名は……」

「バカなことを言うな! そんな下品な名前にセンスなんてあってたまるか!

あえて闇にその身を委ね、禁断の力に身を染める、その背徳感が……」

なんとなく分かったことだが、この二人はどっちも中二っぽいが、その軸が微妙にずれているらしい。

そして、だからこそその小さな違いが許せず、こうして衝突してしまうのだ。

あるいは同族嫌悪だか近親憎悪だかなのかもしれないが、どちらにせよ巻き込まれる方としてはたまったものじゃない。

しゃべる馬と、馬と本気で口喧嘩する黒尽くめの魔術師を連れての散歩とか、ほんと勘弁してほしい。

「なぁ。そろそろ次に行くぞ」

見かねた俺がそう声をかけると二人は、いや、一人と一頭はどちらも嫌そうな顔をした。

いや、馬と仮面でどっちも表情が分からなかったのだが、それでもそんな態度だったのだ。

まずG王が前に出て、俺に不満をぶちまける。

「これからどこに行くというのだ。我はさっさと約束された報酬を受け取りたいのだが」

「ああ、そういや、人参をあげるって約束だったな」

このG王に協力してもらう対価として俺が約束したのが、大量の人参だった。

もちろん、そう言うからには人参の当てはある。

確か、めずらしい紫の色をした人参が屋敷の冷蔵庫にたくさん入っていた。

レイラは人参はあんまり好きではないようで、料理には使っていなかったから、冷蔵庫の中にまだまだたくさん残っているはずだ。

「じゃあ、G王には先に屋敷に行ってもらって、レイラに人参を……」

「さっきから気になっていたのだが、そのG王というのは我のことか?」

G王の不服そうな目から顔を逸らすと、今度はちょうど反対側に立っていたサザーンと目があった。

奇妙に落ち着いた声で、サザーンが尋ねる。

「次っていうのは、スターダストフレアとかいう魔法を手に入れるってこと、だな?」

「あ、ああ。もうメダルもそろったし、ゲームの通りならそんなに時間もかからない。

だから今からちゃっちゃと行って……」

問いかける、サザーンらしからぬ冷えた声に、俺はとりつくろうように明るく言って……。

「――嫌だ」

その言葉に、俺は思わず動きを止めた。

そんな俺の様子に何かを感じた様子もなく、サザーンは淡々と、今度ははっきりと言った。

「嫌だ。僕は、行かない」

「行かないって、だってお前がいないと……」

スターダストフレアは、絶対に手に入らない。

それは分かっているはずなのに。

だが、俺の言葉をまるでなかったもののように、サザーンは言葉を紡ぐ。

「ソーマ。僕はここまでお前に協力してきた。

約束通り、今度はお前が、僕に力を貸す番だ」

「サ、ザーン?」

もう呼び慣れたその名前を呼んで、仮面の奥の目を覗き込む。

冷え冷えとした光をたたえた目がこちらを見返していた。

「今夜、お前の部屋に行く。そこで、約束を果たしてもらうぞ」

そして、間違いなく。

この言葉を始まりに、それが始まったのだ。

――俺たちの、俺たちだけの、映画鑑賞会が!!