軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百八十二章 試練の始まり

次の日。

俺たちはめずらしくバラバラに分かれて行動することになった。

「今の内に身辺の整理をしておきたいので」

と物騒なことを言って、ミツキは朝も早くから道場へ。

次に真希が、

「んー。このまま帰ったらお父さんに怒られちゃうし……そうだ!」

そんな独り言を言ったかと思うと、なぜかリンゴを捕獲。

「…だ、だめ。わたしはソーマに――」

「じゃ、気合入れて帰ろう!」

そのままリンゴを持ち帰りして城へと帰っていった。

ドナドナされていくリンゴを見送っていると、サザーンが不思議そうに声をかけてきた。

「あれ、放っておいていいのか?」

「いいんだよ。……リンゴも、俺と関係ないところで知り合いくらい作った方がいい」

――だって俺は、もうすぐいなくなるんだから。

内心のつぶやきをぐっと飲み込み、それでもついじっと、リンゴが連れられていった道を見ていると、サザーンが後ろでぼそっと何かをつぶやいた。

「そんな顔するくらいなら、ずっと、こっちに……」

「サザーン?」

俺が不審に思って振り返ると、サザーンは不機嫌そうに首を振った。

「何でもない。……あとまだ出ていないのは僕たちだけだな」

残る二人、レイラとイーナは留守番で、イーナはレイラの手伝いをしながら料理を学ぶらしい。

実はイーナは俺たちについていきたそうにしていたが、試練の内容を聞くと、「うぅぅ。わたし、賭けごとだけはやっちゃいけないってお母さんに言われてますから」と泣く泣く参加を辞退。

こちらもついてきたがっていた、というか、放っておくとこっそりついてきそうだったレイラの助手をしたらどうかと俺が提案して、今のような形になったという訳だ。

その二人も、今は俺たちを見送るために屋敷の入り口まで出てきている。

俺たちが出発する気配を感じたのか、イーナが寄ってきて送り出してくれた。

「あ、二人とも行くんですか? がんばってくださいね!」

その屈託のない元気な声に、俺も自然と明るい気持ちになる。

さらにその明るさが奇跡を呼び込んだのか、ありえないことが起こった。

「……お前も、がんばれよ」

なんとあのサザーンが、イーナに激励の言葉を返したのだ。

面と向かって言うのは恥ずかしかったのか、少しだけ視線を下に逸らせて、ではあるが、これは大きな成長ではないだろうか。

「さ、サザーン、さん?」

イーナもまさかサザーンがそんな言葉を返してくるとは思わなかったのだろう。

ぽかんとするイーナに向かって、サザーンは照れているのか、ぶっきらぼうな態度で口を開いた。

「勘違いするなよ。僕は馴れ合いは好きじゃないし、貴様を仲間だと思っている訳でもない。

ただ、少しだけ、今の僕には持たざる者の気持ちも分かるというだけだ」

「は、はぁ。ありがとう、ございます?」

ナチュラルに上から目線な台詞だが、頑張って家事を覚えようとしているイーナに感銘を受けた、ということでいいんだろうか。

よく分からないが、ぼっち同士の二人が仲良くなるのはなんにせよいいことな気はする。

ちなみにだが、イーナに対して少し心を開いた様子のサザーンも、

「そ、ソーマ。本当に行くの? か、賭け事なんて危ないよ?」

その隣にいたレイラは完全に無視。

どころか、胸を押しつけるような勢いで俺の腕にしがみつくレイラを、忌々しそうににらんでいた。

「あ、あのね。ソーマが望むんだったら私、ソーマの分まで一生懸命稼ぐから!

だからソーマはずっと、ずうっと家に、私の傍にいてくれれば……」

まあ、レイラの方も俺以外が目に入っていないので、これはどっちもどっちと言えるかもしれない。

とりあえず、このままここにいても悪いことが起こる予感しかない。

俺は早々に切り上げて出発することにした。

「じゃあ、俺が留守にしてる間、ちゃんとこの家を守っていてくれよ。

悪いけど、レイラだけが頼りなんだ! 頼める、よな?」

「わ、私だけが、頼り……。う、うん! 頑張るね!」

胸の前でぎゅっと拳を握りしめて意欲を見せるレイラと、

「あ、あの、ソーマさん!? わたしも! わたしも留守番しますよ?!」

あんまり頼りになりそうにないイーナに背を向けて、俺たちは屋敷を出たのだった。

「まったく、どうして僕が貴様と二人で……」

歩きながらぶつぶつと文句を言うサザーンだが、ついてくる気はあるらしい。

割と素直についてくるサザーンに、昨日うやむやになってしまった試練の内容をあらためて説明する。

「試練の内容は、丁半とポーカーと競馬。

凄く簡単に言えば、その三つで大当たりを出せばメダルがもらえる」

マーリガン・スプライトの巧妙なところは、メダル入手の条件を「賭博である一定以上の賞金を獲得した時」に限定したことだと俺は思う。

この条件ならたとえ運よく少しずつ勝てたとしてもメダルを手に入れることは出来ないし、何よりどんな少額な元手でも必ずメダル獲得のチャンスがある。

これが軽い気持ちで手を出したり、もう残金が少なくなっても賭けるのをやめられない魔術師を無数に生み出したことは想像に難くない。

ゲーム時代にギルドのイベントを見ていて思ったのだが、この世界の魔術師は基本的に凝り性で負けず嫌いだ。

普段はギャンブルなんて、と見下した態度を取っていても、一度手を出したら最後、賭けごとにのめり込む資質を多く備えていると言っていい。

所詮『猫耳猫』の作中設定。

そんなに深く考えられていた訳ではないだろうが、マーリガンは本当にうまくやったものだと思う。

「そうか。って、やっぱり魔法とは関係ないじゃないか!」

その辺のシステムを解説してやると、サザーンは分かりやすく憤慨した。

でも絶対、こいつも賭け事で身を持ち崩すタイプだと思うんだよな。

引き際を知らないというか。

それでも騙そうとしたことは本当なので、仕方なく謝っておく。

「それについては、悪かった。どうしても、お前に協力して欲しかったんだ」

「……まあ、いい」

意外にもあっさりサザーンは俺の謝罪を受け入れ、

「そんなに難しい試練なら、当然時間もかかるだろうし、だったら……」

何か言いかけて、ハッとして口をつぐんだ。

それからそれを取り繕うように、焦って質問をしてくる。

「そ、それより、最初はどこに行くんだ?」

「そうだな。まずは順当に丁半から行こう。

あ、サザーン、ちょっとそこで止まってくれ」

「ん?」

足を止め、首をかしげるサザーンの身体に、俺は手早く縄を巻きつけた。

「へ?」

縛られ、間抜けな声をあげるサザーンに、俺は軽くネタばらしをしてやった。

「実はさ。丁半をやるのは あの(・・) 北の賭博場なんだ」

北の賭博場とは、貧民が行き着く最後の場所。

なぜならそこで挑戦者が賭けるのは、お金ではないからだ。

――ゲームのチップは、人間。

自分や家族、あるいは恋人の身柄。

人間そのものをチップにして、大金を得るべく賭けに興じる。

それが『北の賭博場』なのだ。

「ま、まさか……」

ブルブルと震え始めるサザーンだが、そのまさかだ。

ぶっちゃけると、メダルを手に入れるなら闇魔法の適性は必要ない。

それでもサザーンを連れてきたのは、はっきりと言えばこの時のためだった。

俺は唇を青くしたサザーンの肩にポンと手を置くと、出来るだけさわやかに見えるように笑った。

「ま、心配するなよ。丁半はおみくじと同じだ。

当たりを引き続ければ問題ないさ」

「いやだぁあああああああ!!

ぜったいにいやだぁああああああ!!」

と、盛り上がったものの、試練自体は数分で終わった。

「ば、バカな、二十連続ピンゾロだと!

ありえん! このたっぷり鉛を仕込んだ賽子で、一が出るはずがない!

ガキがぁ! テメェ、イカサマしやがったなぁぁ!!」

超ブーメラン台詞を叫びながら飛びかかってきた荒くれさんたちを、どうにかこうにか殺さないように全力で手加減して制圧。

メダルと賞金を鞄に詰め込み、縛られたままのサザーンを横抱きに抱いて、すたこらさっさと賭博場をあとにした。

終わった後で今さらではあるが、丁半というのは二個のサイコロを振ってその目の合計が偶数(丁)になるか、奇数(半)になるかを当てるゲームだ。

本来は賽の振り方とか賭け方とか細かい取り決めがあったと思うのだが、そこは『猫耳猫』。

スタッフにも知識はなかったのか、そこら辺は適当っぽかった。

ともあれ、サザーンの身柄を掛け金に、二十連続で丁に張ったら二十連続勝利。

見事にメダル獲得に必要な賞金を獲得して、今に至る、という訳だ。

ある程度離れた場所でサザーンの縄を解いてやると、サザーンがうぅぅとうなりながら俺をにらみつけてきた。

「こ、怖かったんだぞ! 怖かったんだからな!」

「あー、はいはい。でも、ちゃんと勝ったじゃないか。

心配しなくていいってちゃんと伝えてあっただろ」

「あんなんで安心できるか! というか、一体何をしたんだ、貴様は?!」

「何をしたっていうか……。あれはおみくじと同じだって言ったろ。

あのサイコロの目は、おみくじと同じ乱数で決まるんだよ」

おみくじ乱数は、おみくじなどで消費されなければ変化しない乱数だ。

現在は最凶みくじの影響で乱数が固定されているため、何をやってもサイコロの目は一しか出ない。

これなら一が二つなら必ず偶数だから、丁に張っておけば負けるはずがない。

最初から、この試練に失敗する可能性はなかったのだ。

「で、でも、何か計算違いで万が一負けたら、僕がどうなってたか……」

「いくらなんでも、流石にあの状況でお前を見捨てたりはしないって。

その時はお前をさらって逃げてたよ。

ほら、実際戦闘になったけど、ちゃんと抜け出してこられただろ」

「う、うぐっ……」

文句の言葉が尽きたのか、ふたたびうーうーうなり始めるサザーン。

安全だったか安全じゃないかを置いておいても、普通に考えて勝手にサザーンを賭けの対象にした俺が悪いのだが、興奮しているせいかそこまでは思い至らないらしい。

本題とは関係ない話だが、さっきの丁半はおみくじ乱数を使う関係上、何度やってもサイコロの目が変化しないので、セーブとロードを駆使すれば何回でも当てられる。

『猫耳猫』にしてはぬるい設定だな、と感じるところだが、実は勝ちやすいこと自体が罠だったりする。

勝ちすぎるとさっきみたいに怖いお兄さんが襲ってくるので、王都に来たばかりの時に金稼ぎと思って参加すると痛い目に遭うのだ。

本っ当に、底意地の悪いゲームである。

「くそ、分かったよ。それで、次はどこに……ハッ!」

訊きかけて、サザーンが身の危険を感じたように自分の身体をかばった。

視線が完全に誘拐犯を見る目だ。

さっきの一件で、相当に警戒されているらしい。

「別に、そんな何度もお前の身体を賭けたりしないって」

「へ、変な言い方をするな!」

手をブンブン振り回すサザーンを適当にあしらいながら、俺は表情を引き締めた。

次の戦いの舞台は、遊び半分な気持ちで行くべき場所ではない。

「いいか、サザーン。次に行くのは、カジノだ」

「カジノ……ポーカーか」

「そうだ。だが、ただのポーカーじゃない」

そのカジノは、多くの『猫耳猫』プレイヤーが挑み、そして為す術もなく散っていった魔窟。

これから挑むポーカーこそが、長年『猫耳猫』プレイヤーを苦しめ、そしていまだに必勝法が確立されていない、掟破りのギャンブル。

「――賭け金がつりあがると役が絶対に揃わなくなる、最悪のイカサマポーカーだ!!」