軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百三十六章 片思いな指輪

真っ二つになったゴールデンはぐれノライムが消えていく。

俺やサザーンはもちろん、いつも表情を変えないリンゴも目を見開いてゴールデンノライムのいた場所を凝視しているし、何より自分でやったはずのイーナが一番驚いた様子でおろおろしている。

予想外の光景に固まっていた俺たちだが、ミツキだけがいち早く立ち直り、厳かに口を開いた。

「……やはり、おかしいと思いました。

今朝からの彼女の動きは、明らかに昨日までとは違っています」

「気付いてたのか?」

俺の問いに、ミツキは何を今更とうなずいた。

「朝から違和感はありましたが、確信したのは彼女が屋敷から出て転んだ時です。

転び方が不自然でしたし、今日の彼女はずっと早歩きだったでしょう?」

「ああ、そういえば……」

イーナが転んだ時にミツキが気にしていたのは、そのことだったのか。

俺が納得してうなずいていると、ミツキがこちらを鋭い目でにらみつけてくる。

「そういえば、ではありません。

怒りはしませんので、正直に白状して下さい。

今度は一体、何をしたのですか?」

「え? ……俺?」

「当然です。普通ではありえない事が起こったのですから、原因は貴方に決まっています」

凄い論理で断言された。

流石は「俺に振り回された人ランキング」で圧倒的一位に君臨するミツキ。

説得力が違う。

その態度からはもはや、俺に対するある種絶対的な信頼すら感じる。

でも、全く嬉しくないのは何でだろう。

「いや、本当に心当たりないって……」

と弁解するが、ミツキの視線は揺るがない。

頭の上では猫耳ちゃんが、「もぉ、正直に話してよぅ!」とぴくぴく動いている。

しかしそこで、イーナが飛び出してきて俺をかばった。

「ま、待ってください!

もしソーマさんが勝手にわたしに何かをしていたとしても、それはきっとわたしのためにやってくれたことです!

ソーマさんを責めないでください!!」

……うん。

それ、俺をかばってるように見せかけて、実はミツキの言うこと全然否定してないよね。

無駄にピリピリする空気に俺がもう一度割って入ろうかと思った時、くい、くい、と袖が引かれた。

そして、

「…コイン、あったよ」

嬉しそうにノライム金貨を見せてくるリンゴを見て、俺はあらためてこのパーティのまとまりのなさを嘆いたのだった。

その後、いくつか検証をして、イーナの能力の上昇を確認した。

まずイーナがどのくらいの強さになったのか、試しにミツキと決闘システムを使って模擬戦をやってもらったが、結果だけ言えば瞬殺された。

イーナのスキルを使った速度はミツキを凌ぐほど、威力の高さもゴールデンで証明されていたのだが、ミツキはそれをあっさりさばいてしまった。

そして、技後硬直で動かなくなったところを返す刀でざっくり斬られて、決闘終了。

呆然とするイーナにかけたミツキの第一声が、

「この手応え。レベルにすると130程でしょうか。

やはり強化されているようですね」

だったのだから、達人さんは本当に恐ろしい。

どうしてレベル130のキャラクターの斬り心地を知っていたのかについては、一生訊かないことにしたい。

時間がなかったこともあって充分な検証は出来なかったが、攻撃力や速さ、それに防御力は確定として、スタミナと魔法関連の能力も含め、どうも全般的にパラメーターが上昇しているようだった。

「なら後は、原因だけですね」

そう言って、ちらっとミツキがこちらを見る。

一応俺の弁明に耳を貸してはくれて、俺が故意にやったことではないと理解してくれたようだが、いまだに間接的に俺が関与しているのではと疑っているらしい。

しかし、ミツキの言葉を借りる訳ではないが、もちろんこれは全てが適当な『猫耳猫』世界にあっても異常な事態と言える。

いくらファンタジー世界とはいえ、何の理由もなく急に大幅な成長などするはずもなく、少なくとも本人にその自覚はない。

そして、俺の記憶する限りのバグを思い返してみたが、どれもこの事態を起こしそうなものはない。

つまりこれは、俺のゲーム知識の外で起こった出来事だというのは間違いなさそうだ。

ただ、思い返すとヒントになりそうな出来事はいくつもあった。

まず、イーナに能力強化が起こったタイミングだが、これはかなり絞り込める。

ミツキの証言もあるし、俺は昨日、イーナがアサシンレイジのスキルを使うのを見ている。

あの時のアサシンレイジはまだ普通の速度だったはずだ。

つまり、昨日の昼の時点ではイーナはまだ今の状態ではなかったと考えられる。

「イーナ。いつ身体がおかしくなったのか、自分で覚えてるか?」

俺の質問に、イーナはちょっと考えて答えた。

「……あんまり、詳しくは。たぶんミツキさんの言う通り、今朝起きた時にはもうなっていたと思いますけど」

「そうか」

今思えば、イーナが頻繁に転んだりまな板を切ってしまったりしたのは、能力強化がされていたからなのだろう。

そう考えると、昨日の夕食の時はそんな事故を起こしていなかったので、強化前だったと考えるべきだろうか。

となると、怪しいのは……。

「イーナ。もう一度、そこで飛び込み斬りのスキルを使ってみてくれ」

「え? あ、はい」

イーナがきょとんとしながらもふたたび脇差を構える。

そして、短剣スキル『飛び込み斬り』が発動するその直前、俺は自分の左手の薬指にはまっていた指輪を抜いた。

「あ、あれっ?!」

イーナが不思議そうな声を上げる。

今回発動したスキルにさきほどまでの勢いはなく、心なしかヘロヘロとした軌道で空を切っただけだ。

「え? あれ? どういうことなんですか?」

驚いて振り返るイーナに、俺は指から抜いた指輪を見せ、自らの疑いを払うように力強く言った。

「やっぱりな。今回のことは俺のせいじゃない。

イーナが持ってきた、この指輪が原因なんだ!」

それから、イーナの能力強化の話の前に「どうして俺たちがそろいの指輪をはめているのか」について、女性陣から長い質問攻めにあったりしたのだが、それはともかく……。

イーナのおかしな行動が能力強化のせいだったとすると、一番初めにそれが起こったのはミツキの言う通り、昨日の夜だ。

指輪をはめた直後、くまの出現で動揺したイーナは、俺の部屋から 凄い速度(・・・・) で途中で 転びながら(・・・・・) 、鍵のかかった ドアを壊して(・・・・・・) 、逃げ出した。

タイミング的にも、俺が効果を知らない装備ということを考えても、絶対にこの指輪が怪しい。

指輪を外したことでイーナの動きが元にもどったことから考えても、今回の一件の原因はこの指輪にあることは間違いないだろう。

そして、俺の方が指輪を外しただけでイーナに影響があったことを考えると、セットでつけた場合にのみ、効果を発揮する類の装備だと考えるべきか。

だとすると不思議なのは、イーナが自分の能力の向上に気付いてびっくりしていたこと。

この指輪の効果を知らなかったのか、あるいはそんな大きな効果があると知らなかったのか。

それに、もしこの指輪にそんな絶大な効果があったなら、ゲーム中でのイーナの評価がもっと上がっていてもよさそうなものだ。

イーナにその辺りのことを尋ねると、こんな返答が返ってきた。

「この指輪にそこまでの力があるなんて思ってませんでしたし、二人で同じ指輪をすることの方がわたしにとって大事だったので、効果はあまり気にしてなかったんです。

ただ、母からこの指輪の名前と効果は聞いています」

そこでイーナは自分の薬指にはまった指輪を大切そうになでると、高らかに言った。

「――この指輪の名前は、『相思相愛の指輪』!

相手への愛を力に変えるという、世界に一組しかないすごい指輪なんです!!」

「……ふぅん」

俺の反応の薄さにイーナはあれっという顔をしたが、自分で愛とか言っちゃうとうさんくさいというか、相思相愛という響きに地雷的な何かを感じてしまうのは俺が病んでいるせいだろうか。

イーナはしばらく肩すかしを喰らったような顔をしていたが、すぐに気を取り直して元気よく語り始めた。

「あの、いきなりすごい変化があって戸惑っちゃいましたけど、全てがこの指輪の力だったと考えれば、おかしくないと思うんです」

「へぇ、どうして?」

イーナの熱弁を適当に聞き流しながら、俺は不知火をぶんぶんと振るう。

「さっきも言いましたけど、この指輪は相手への想いの強さで効果が変わる装備です。

そ、それで、わ、わたしはソーマさんのこと、だ、大好き、なので、えっと……」

その後試しに横薙ぎなんかを使ってみて、

「つまり、わたしのこの力はソーマさんへのあふれる……」

「あのさ、イーナ」

照れてしきりに身をくねらせるイーナの言葉をさえぎった。

そして、

「この指輪、相手への愛を力に変えるんだよな」

「は、はい。もう、さっきからそう言ってるじゃ……」

申し訳ないなーと心の端で思いつつ、笑顔のイーナに告げる。

「――これをつけても、俺、全然、全く、これっぽっちも強くなってないんだけど」

「えっ? …………えっ?」

――そして、数分後。

魂のない抜け殻と化したイーナを街のベンチに置いて、勲章をもらいに大聖堂に向かう俺たちの姿があったのだった。