軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

最終話

「……っ!?」

その瞬間、体が宙に浮いた。

サシャバル伯爵夫人の大きな笑い声と共にカトリーナの体が下に落ちていく。

声も出せずに空に向かって手を伸ばして助けを求めるように名前を呼んだ。

「クラレンス、殿下……っ!」

次の瞬間、ふんわりと体が浮くような感覚に驚いてカトリーナは目を見開いた。

雪のようなふわふわな白いクッションに包まれたかと思いきや、そのまま体を抱きしめる逞しい腕。

カトリーナが顔を上げると、そこにはクラレンスの姿があった。

カトリーナが声も出せずにクラレンスを見つめていると、クラレンスは「……無事でよかった」と言ってカトリーナを抱きしめた。

その瞬間、カトリーナはクラレンスに縋るようにしてしがみつく。

「……カトリーナ、大丈夫か?」

「どう、して……クラレンス殿下が?」

カトリーナが攫われてから、まだ時間は経っていない。

どうやって居場所を特定したのか……不思議でクラレンスに問いかけると、どうやらカトリーナが攫われてすぐにニナ達は協力して地下の扉を蹴破ったそうだ。

そしてクラレンスを追いかけるようにゴーンが馬を走らせて、クラレンスが知らせを受けてすぐに邸に戻った。

そしてニナに怪しい荷馬車が止まっていたことを聞き、ナルティスナ領にいた荷馬車を捕まえて大金を持っていた男達を締め上げて情報を吐かせる。

犯人がサシャバル伯爵夫人とシャルルだということがわかり、その場をトーマスに任せてクラレンスはサシャバル伯爵邸まで馬を走らせたそうだ。

そしてサシャバル伯爵邸に押し入ろうとした際に、カトリーナの声が聞こえてその場所へと向かうと、カトリーナが上から降ってきたそうだ。

「本当に、無事でよかった」

「……助けてくださって、ありがとうございます」

「あのままカトリーナが落ちたかと思うと……俺はっ!」

クラレンスはカトリーナを強く強く抱きしめた。

地面に足をつけたカトリーナの足は震えていた。

そして少し離れた場所、カトリーナは足元に落ちていた母の日記を拾い上げて抱きしめた。

「カトリーナ……?」

「屋根裏部屋に閉じ込められた時に母の日記を見つけたんです」

「アイツら……許さない」

クラレンスが上を見上げると、凄まじい冷気が体から漏れ出ている。

カトリーナの肩を抱いてから足元に氷の柱を作り出して上に上がると、屋根裏部屋で身を乗り出していたサシャバル伯爵夫人とシャルルを氷の球体のようなもので包み込んであっという間に拘束してしまった。

ドンドンと内側から叩く重たい音が聞こえたが、氷はびくともしない。

ナイフがカランと音を立てて床に落ちた。

氷の球体の中でサシャバル伯爵夫人とシャルルは寒さに震えながら泣き叫んで氷を叩いている。

クラレンスは恐ろしい表情で「騎士達がつくまで罰を受けろ」と吐き捨てるように言った。

どうやら凍てつくような寒さの中で、指先や足先が冷えていき、酸欠と共に死の恐怖が襲ってくるそうだ。

クラレンスはカトリーナの腫れた頬を手のひらで冷やしてくれた。

頬の腫れも引いて、クラレンスが来てから一時間後にトーマスがカトリーナを攫った男達を全て連れて現れる。

その数時間後には城から派遣された騎士団が現れてサシャバル伯爵夫人とシャルルは捕らえられた。

サシャバル伯爵夫人は口の端から涎を垂らしながら真っ青な顔で気絶しており、シャルルは意識はあったものの、ブツブツと何かを呟きつつ頭を抱えて震えていた。

酒で意識が朦朧としているサシャバル伯爵は困惑した様子で騎士達に連れて行かれた。

サシャバル伯爵夫人に金で雇われた男達も騎士達に引き渡されて悪態をつきながらも連れられて行く。

空っぽになった邸を見ているとカトリーナの心がスッと晴れていくような気がした。

もう彼らと二度と顔を合わせることはないだろうとクラレンスは語った。

カトリーナはクラレンスに心から感謝していた。

すぐに動いてくれたクラレンスがいなければ、カトリーナは地面に体を打ちつけて命を落としていたに違いない。

今になって恐怖が襲ってくる。

クラレンスはカトリーナの震える体をそっと抱きしめた。

「……カトリーナ、帰ろう」

「はい、クラレンス殿下」

カトリーナはクラレンスに抱え上げられながら、トーマスが乗ってきた馬車に戻る。

クラレンスはずっとカトリーナに寄り添ってくれた。

カトリーナは母の日記を抱きしめて涙を流していた。

ナルティスナ邸に戻り、ニナやゴーン達と無事を確かめていた。

クラレンスは「警備体制を強化しなければ」と、すぐに護衛を何人か雇い入れたそうだ。

あの後、カトリーナは聴取を受けた。

そして男達やサシャバル伯爵邸で働いていた従者や侍女達の話からカトリーナを殺そうとしたことやナルティスナ邸に無断に押し入った男達を雇ったこと。

サシャバル伯爵夫人やシャルルに被害を受けた人達の証言が山のように集まった。

「ただ殺すだけは済まされない」

クラレンスのこの言葉により、すぐに処刑されることなく罪人として拷問を受けた後、晒し台に晒された後に絞首刑に処されるそうだ。

カトリーナが見ていないところで、死ぬよりも辛い目に遭うのだろう。

サシャバル伯爵夫人の生家である侯爵家も責任を問われることになった。

サシャバル伯爵は娘と妻の暴走から逃げるようにかなり強い酒を飲み続けたせいか、体を壊してしまい診療所で治療を受けているが、正気じゃないようで、このままではサシャバル領は管理できないということで爵位を返上することになった。

カトリーナはそれを聞いても何も思わなかった。

ただ、今まで心の中で燻っていた真っ黒な何かが消えてなくなったような気がした。

カトリーナは今日もクラレンスと一緒にナルティスナ領で過ごしている。

クラレンスと婚約したタイミングで彼は正式にナルティスナ辺境伯として爵位を賜った。

オリバーはアリーリエと婚約を発表して、王太子として頑張っている。

よくアリーリエとナルティスナ領に息抜きとして遊びにやってくる。

アリーリエは優しく、カトリーナとはいい友人になった。

ナルティスナ邸は広く改築して、呪われた王子の噂はなくなった。

何故ならばローブを取ったクラレンスが積極的に表舞台に出るようになったからだ。

クラレンスはカトリーナを愛するようになってから、感情コントロールが上手くできるようになったらしく、カトリーナと共に進んで社交の場に出るようになった。

ただカトリーナの悪口やカトリーナに手を出そうとすると凄まじい氷魔法の力で叩き潰されてしまうため、カトリーナは社交界からある意味、要注意人物として警戒されている。

彼の溺愛は日に日に増していき、氷が溶けてしまうくらいに熱烈でカトリーナの心はいつも満たされている。

昔からクラレンスを知るニナやトーマス、アリーリエやオリバーもその変貌ぶりに毎回、驚いていた。

「わたくしとても心配していたのに、今は別人みたいね」と言って、ナルティスナ邸に遊びにきた王妃が何度も言っていた。

その度にクラレンスは苦い顔をする。

今日もナルティスナ領には白くて綺麗な雪が降っている。

カトリーナはクラレンスと共に外に出て、その景色を眺めていた。

クラレンスの手にはカトリーナがプレゼントした手袋がある。

「カトリーナとはじめて出会った頃を思い出すな」

「クラレンス様は最初は冷たかったけど、今はとても温かいです」

「……あの時はすまない。だが、もうカトリーナがいない世界など考えられない」

「ふふっ、私もです」

笑うと白い息が空気に溶けていった。

クラレンスの真っ赤になった頬を撫でていると、静かに唇が重なった。

end

完結となります!

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