軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

②⑧ シャルルside

なんとか表情を取り繕うものの、クスクスとシャルルを馬鹿にするような笑い声が聞こえてくる。

(どうしてわたくしがこんな目に遭わないといけないのよっ!)

アリーリエは令嬢の友人がたくさんいてシャルルには一人もいない。

アリーリエは公爵家の生まれで権力を持っていてシャルルは持っていない。

アリーリエはオリバーにエスコートを受けていたのにシャルルはオリバーに振り向いてもらえない。

シャルルがアリーリエに負けてしまうということは許されないのに……。

シャルルの頭の中にカトリーナの顔が思い浮かぶ。

惨めで汚くて可哀想なカトリーナ。

その姿を思い出して、左右に瞳が揺れ動く。

(わたくしも……?)

カトリーナと同じ状況ではないかと恐怖を感じた瞬間、シャルルはテーブルにあったグラスを手に取ってアリーリエへと思いきり投げつけた。

──ゴンッ!

シャルルが投げたグラスがアリーリエの額に当たって重たい音を立てた。

グラスが床に落ちて砕け散ってしまう。

グラスの中に入っていた中身の液体が濃い紫色だったため、アリーリエの薄ピンク色のドレスが汚れてしまう。

グラスがぶつかったせいで額が痛むのか、アリーリエが手を頭に当てながらフラリとよろめいた。

つい感情に任せてやってしまった。シャルルは小さく声を漏らす。

「ぁ……」

「キャアアアッ!アリーリエ様ぁ」

「アリーリエ様っ!大丈夫ですかっ」

「……っ!」

令嬢達の悲鳴が会場に響く。

騒ぎを聞きつけてかオリバーがアリーリエの元に駆けつけてくる。

その姿を見てシャルルは瞬時に身を守らなければと思い、困惑した表情を作り、口元に手を当ててから瞳を潤ませた。

「アリーリエ!?これは一体、どういうことだ!」

「シャルル様が、アリーリエ様にっ」

「わ、わたくし……アリーリエ様に飲み物を渡そうとしただけなんですぅ!オリバー殿下、信じてくださいませ」

「嘘よ!シャルル様が投げたのを見たわ!」

「わたくし達が証人です!間違いなくシャルル様がアリーリエ様にグラスを投げたのよ」

「皆様、ひどいですわっ!わたくし、わざとじゃないのに!」

「……話は後で聞く。今はアリーリエが心配だ。立てるかい?アリーリエ」

「オリバー殿下のお手を煩わせるわけには……!」

「アリー、今はそんなことを言っている場合ではないだろう!?」

オリバーはアリーリエをお姫様のように抱え上げると会場を颯爽と去っていった。

アリーリエの取り巻きの令嬢達の怒りのこもった視線がシャルルの背に突き刺さる。

シャルルは肩を揺らして泣いているフリをする。

自分がやったわけではないと周囲にアピールしながらも唇を噛んでいた。

この後のことを考えると憂鬱で仕方ない。

何人かの令息達がシャルルを心配してくれたが、シャルルを利用してサシャバル伯爵家の後継になろうと目論んでいる悪どい奴らばかりだ。

しかしコイツらを利用して周囲の同情を引いて、なんとかこの場を乗り切った。

サシャバル伯爵邸に帰っても、母に今日のことは言えなかった。

けれどベル公爵からの手紙で、シャルルの行いがバレてしまう。

そして王家から手紙がきて、ナルティスナ領に行儀見習いに行けと言われたのだ。

(あのクソ女共が……やりやがったわね!)

どうにかしてそれだけは避けたいと思っていた。

カトリーナのように侍女として働くなんて信じられない。

この生活を手放すなんて絶対に考えられない。

こんな屈辱は生まれてはじめてだった。

しかし、すぐそばに突破口はあったのだ。

カトリーナを身代わりにすれば簡単に解決できる。

(これでわたくしは今まで通り、サシャバル伯爵邸で暮らせるのね……!)

惨めなカトリーナはシャルルの身代わりとなり、ナルティスナ領に向かった。

呪われた王子が住む、極寒の地。

そんな場所で出来損ないのカトリーナが生きていけるわけがない。

呪われて死ぬか凍えて死ぬか、役立たずと捨てられて死ぬか……どちらにせよ生き残る道などない。

(ふふっ、いい気味……役立たずだって思っていたけどこんな使い道があったなんて)

そう言って喜んでいられたのは最初だけだった。

カトリーナがいなくなってから、侍女達は次々とやめていき、シャルルの思い通りにいかなくなっていく。

時間が経つにつれて苛立ちが募る。

サシャバル伯爵邸の内部は、この件をきっかけに崩壊していく。

母も夫人会で大恥をかいたそうだ。

優しかった母は、今は血走った目でシャルルを睨みつけている。

「次に失敗したら許さないわよ?」

「お母、様……?」

「あなたはあの女のようになりたくないわよねぇ?」

「……っ」

「期待しているわ。シャルル」

あの女とはカトリーナのことだろう。

シャルルは圧迫感に息ができなくなりそうだった。

あれから数ヶ月経ってもサシャバル伯爵邸からでることができない。

父はずっと書斎にこもって酒を飲んでいる。

けれどこんな惨めな生活は耐えられない。

華やかな生活に戻りたくて仕方がなかった。

「ねぇ、お母様。わたくし今まで言うことを聞いて頑張ったでしょう?ちゃんと我慢したわ!たまには王都で気分転換しましょうよ!久しぶりにお買い物に行きたいの」

「そうね。久しぶりに買い物に行きましょう」

シャルルは母の腕に手を回して喜んでいた。

我慢した甲斐があって母の機嫌も直ったようだ。

久しぶりに王都での買い物に心が踊った。

(フフッ、わたくしはあの女のようにならない……今から這い上がってみせるんだから)