軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

①⑦ クラレンスside

温かいパン粥を食べただけで喜んだかと思いきや、ベッドで眠ることに許可を取ろうとする。

何をするにもクラレンスの言葉を待っている。

(まるで何も知らない子供ではないか……!)

カトリーナの言葉を身近で聞いているニナやゴーンは「おいたわしい」と言って、何かあるたびに常に涙を流しては鼻をかんでいる。

いつの間にかトーマスもカトリーナを可愛がっているようだ。

「仕事をしたいというのならまずは体調を整えろ。いいな?」

カトリーナは「はい、わかりました」と抑揚のない返事をした。

カトリーナが仕事をしていなければ落ち着かないと言う。

恐らくクラレンスの予想ではあるが、許可を出した途端、朝から晩まで休まず働き通しになるのではないかと思うとなかなか許可が出せなかった。

一ヶ月後───

再び雪が降り始めた朝のことだ。

クレランスの元には大量の資料と手紙が届けられる。

ベル公爵、父とオリバーの手紙に目を通した後に分厚い資料を手に取ると、その資料にはカトリーナのことについて詳しく書かれていた。

クラレンスはその資料を読み込みながら怒りで震えが止まらなかった。

自分の想像よりもずっと過酷で劣悪な環境でカトリーナは暮らしてきたようだ。

(なんてことを……!)

全て嘘だと思いたかった。

そう思わなければ、頭が怒りでどうにかなってしまいそうだ。

母親と共に虐げられる生活を送っていたこと。

六歳まで屋根裏から出たことがなく、音を出さないように言われていたこと。

六歳からは母と同じように働き、そうしなければ食べ物をもらえなかったこと。

一番の驚きはカトリーナがサシャバル伯爵と侍女との間に生まれた子供だということだ。

クラレンスもカトリーナにサシャバル伯爵の面影を感じたのはそのせいだろう。

夫人に疎まれて育っただろうことも安易に想像できる。

(サシャバル伯爵家の娘……なるほどな。確かに王命に背いておらず、間違っていない)

サシャバル伯爵はシャルルがここにいなくとも、そのように言い訳ができるだろう。

サシャバル伯爵家には一人しか娘がいないとそう思い込んでいたことが仇になったのだ。

そしてサシャバル伯爵夫人はシャルルと共に執拗にカトリーナを虐げていたらしい。

カトリーナの母親は幼いカトリーナを残して目の前で病で息絶え、葬式にも出ていないと書かれている。

(惨い……いくらなんでもこれは)

クラレンスは言葉を失っていた。

今までのカトリーナの言葉や態度、行動の理由がよくわかったような気がした。

こんな生活をして耐えられるはずがない。

ベル公爵の手紙からはサシャバル伯爵邸で働いていた古株の元侍女の話で確かな情報だと書いてある。

サシャバル伯爵邸で働いていた侍女はカトリーナのことを聞くと眉を顰めてこう言ったそうだ。

『可哀想な子』

それほどにカトリーナはひどい目にあっていたのだろう。

グシャリと紙が潰れる音がした。

それから部屋いっぱいに冷気が満たされて凍っていく。

クラレンスはその強すぎる力ゆえに、感情が荒だった時に周囲に影響をもたらしてしまう。

ローブを被り、感情を制御できるようにしてきたつもりだった。

しかしこんな風に己の力がコントロールできなくなるのはいつぶりだろうか。

久しぶりに感情が溢れ出す感覚に己の手首に爪を立てながら怒りを抑えていた。

フッと自らを落ち着かせるように息を吐いてから冷気を逃すために窓を開ける。

温かい日差しを浴びながら最後まで資料を読み込んだクラレンスはベル公爵やオリバーにお礼の手紙を書くためにペンを握ったものの、すぐに凍ってしまう。

少し息抜きをするかと外に向かった。

己の力を発散させながら今後のことを考えていた。

そしてカトリーナが昼食を食べ終えて、日課になっている繕い物をしている頃合いを見計らい、ニナやゴーン、トーマスを呼び出した。

送られてきた資料を見ながら全員が絶句しており、ニナは途中で手を離して号泣している。

「こんなっ、ひどすぎます……!」

「クラレンス殿下、これは事実なのでしょうか?」

「ああ、確かな情報だそうだ」

「あんまりです!カトリーナ様には罪はないのにっ」

クラレンスは窓の外を見ながら頷いた。

カトリーナに罪はない。

全てはサシャバル伯爵の不貞と夫人とシャルルの執拗なカトリーナに対する態度。

クラレンスは大きなため息を吐いて感情を抑えていた。

「わたしはカトリーナ様を守ってあげたいです!こんな思いをしてきたんですもの!」

「ああ……」

ニナの言葉にゴーンとトーマスも頷いている。

クラレンスもそのつもりでいた。

カトリーナをナルティスナ邸でこのまま受け入れよう、そう思っている。

「それにここに書いてありますけど、カトリーナ様がいなくなってから侍女が次々にやめていくなんて、サシャバル伯爵夫人やシャルル様は相当キツく当たっているのかもしれませんね」

「カトリーナ様がいなくなった分、過酷な労働を要求されて耐えられなくなったのではありませんか?それに伯爵夫人の怒りの矛先がずっとカトリーナ様だったとするならば……」

「こうなるのも当然ですよ……!こんな悪い噂ばかりの令嬢がオリバー殿下に嫁ごうとしているなんて信じられません」

「今、シャルル・サシャバルは大人しくしているだろうが、また落ち着けば表舞台に出るだろう。今回はベル公爵も甘かったと反省しているようだ」

「ですが、そのおかげでカトリーナ様を救えたのなら本当によかったです」

ニナはそう言って涙を拭う。

ベル公爵にはもうシャルルではなくカトリーナがここにいることは伝わっている。

サシャバル伯爵は準備期間として与えられた一ヶ月の間にカトリーナを娘として登録したようだ。

カトリーナとシャルルは年も同じで生まれはシャルルの方が少し早いだけ。

(カトリーナ・サシャバル……)

クラレンスは窓を閉めてから手紙の続きを書くために羽根ペンと紙を手に取った。