軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

①⑤

(食べることが仕事……?でもクラレンス殿下の言うことを聞かないと)

カトリーナはクラレンスの指示通りに皿を持って食べ物を口に運んだ。

ここにテーブルはないので、覚えたてのマナーを披露する必要はないだろう。

冷めてはいたけれど、甘くて柔らかい味にカトリーナは感動を覚えて目を見開いていた。

「どうした?」

「甘いです」

「…………は?」

「こんな美味しいものを、食べたのが初めてで……。本当にすべて私が食べていいのですか?」

優しい味にカトリーナはキラキラとした瞳でクラレンスを見た。

いつもは固かったり、味がなかったりと食べ物が美味しいと感じたことはほとんどない。

しかし果物以外の甘みのある味に感動を覚えた。

こんな幸せな仕事がこの世界にあることをはじめて知ったのだ。

クラレンスとゴーンとニナが信じられないと言いたげに目を合わせていたがそれすらも気にならなかった。

カトリーナの問いかけにクラレンスが頷いたのを見て、再びスプーンを口元に運ぶ。

マナー違反になってしまうからと音を立てずにゆっくりと食べていた。

あっという間に空っぽになった。

「ニナ、何か他のものを持ってきてくれ」

「はい!」

ニナは頷いて、早足で部屋から出て行ってしまった。

カトリーナはニナの後ろ姿を視線で追いかけていたが、クラレンスはニナが先程まで座っていた椅子に腰掛ける。

「カトリーナ」

「はい」

「ここは伯爵邸ではない。ここにはお前を罰するものはいない。安心しろ」

「……?」

クラレンスが何故カトリーナにそう告げたのかはわからない。

けれどここにいる人達はサシャバル伯爵夫人やシャルルのように叩いたり、怒鳴ったりしないというのは確かだった。

クラレンスの言う通り、ここはサシャバル伯爵邸ではない。

埃だらけの屋根裏部屋ではなく、明るくてとても綺麗な部屋とベッド。

先程まで食べることに夢中で気づかなかったが、カトリーナの腕や頬には包帯が巻かれて手当ての跡があった。

(これは……)

カトリーナがじっと自分の手首を眺めているとクラレンスが声をかける。

「先程、医師に診てもらった。ひどい栄養失調だそうだ。一体、今までどんな生活をしてきた?何を食べていた」

「……っ」

「もう一度言う。ここにはお前を傷つける者はいない」

カトリーナは今までの生活を思い出していた。

そしてサシャバル伯爵夫人とシャルルの笑い声が聞こえた気がして、カトリーナは俯いた。

ガクガクと震えながら息が荒くなるカトリーナを見たクラレンスは言葉を止めた。

「はっ……は……っ」

「急ぎすぎたようだ。今日はゆっくり休んでくれ……すまなかった」

クラレンスはそう言ってカトリーナの頭を優しく撫でた。

そしてゆっくりと立ち上がり、扉の前にいたニナと何か話している。

そのまま部屋から出ていってしまった。

(何も、答えられなかった……こんなによくしてくれるのに)

クラレンスはカトリーナの身を案じてくれていた。

しかし何も言葉を返せなかった自分が情けなくて、申し訳なさでいっぱいだった。

後ろ手で扉を閉めたニナが俯くカトリーナに声をかける。

「カトリーナ様、クラレンス殿下のこと誤解しないであげてくださいね」

「…………?」

「冷たく見えますが、本当はカトリーナ様のことをとても心配していたのですよ」

「心配……私を、ですか?」

「はい」

ニナはそう言ってカトリーナに

「おかわりはいかがですか?」

「…………!」

「クラレンス殿下の言う通り、カトリーナ様の今のお仕事はたくさん食べることです!」

「本当に、いいのですか……?」

ニナは笑顔で頷いた。

なんだかくすぐったいような感覚にカトリーナはペコリと頭を下げた。

「…………お願い、します」

「はい。では、こちらをどうぞ!少し熱いので気をつけてくださいね」

何故、会ったばかりのカトリーナにこんなにも優しくしてくれるのか戸惑いはあったものの、美味しいものをお腹いっぱい食べれるのかもしれないと思うと、生まれて初めてワクワクした気持ちになった。

カトリーナはニナに渡された皿を持って驚きに肩を揺らした。

(温かいご飯……はじめて)

カトリーナがボーっとご飯を見つめていると、ニナが「熱すぎましたか?」と言って、一度お皿を渡すように手を伸ばしている。

冷ますようにスプーンで器を回してから再びカトリーナに渡す。

未知の感覚に申し訳ないような、胸がじんわりと温かくなるような……そんな不思議な感覚を感じながらも、クラレンスの言う通りにたくさん食べた。

「ゆっくり休んでくださいね」

「…………はい」

カトリーナはドキドキする心臓を押さえながらもベッドに横になる。

綺麗なベッドに寝転んでいると、何故か涙が溢れ出しそうになった。

皿を片付けていたニナがそっとカトリーナの目元を布で拭ってくれたのだが、それを皮切りにカトリーナの瞳から涙が止まらなくなってしまう。

声も上げずに静かに涙を流すカトリーナを見て、ニナが感極まった様子で思わずカトリーナの手を握った。

その温もりにツンと鼻の奥が痛くなって、喉が締め付けられるような気がした。