軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

①① クラレンスside

シャルルに関してはベル公爵やオリバーのためにもと今回だけはと受け入れたが、王都付近の温暖な気候でぬくぬくと育った令嬢にここでの暮らしは耐え難いものだろう。

(この環境に耐えられるはずもない。すぐに問題を起こして追い出すことになるだろう。今まで来た令嬢達も一日と持ったことはない)

しかし約束の時間になっても現れずにゴーンが気づくまでずっと外で待っていたそうだ。

そして濡れた体でその場に蹲るシャルルと布を持って困惑しているニナの様子を見て、クラレンスはあることが頭を過ぎる。

二人を責めてこちらの非を追求して逃げようとしているのではないか、と。

令嬢達の相手を蹴落とすためならば手段を選ばないやり方は、クラレンスも十二になるまで間近で見てきた。

それに加えてオリバーから聞いていたシャルルのことやアリーリエを傷つけたこと。

シャルルの悪い噂ばかり耳にしていたこともあり、悪なのだと無意識に決めつけていたのかもしれない。

姑息な手を使い逃げ出そうとするシャルルの小賢しさを目の当たりにしたクラレンスは怒りが込み上げてきた。

この邸で働くものはクラレンスにとっては家族同然だった。

ニナは母の代から勤める侍女長の娘の一人で、まだ若いがこの過酷な環境の中、文句も言わずに働いている。

ゴーンもベル公爵と同じように、クラレンスのよき理解者だった。

少しでも居心地のいい場所を作ろうと細かな部分まで気を回してくれている。

布を持って立ち尽くすニナと、ゴーンの話を聞いてクラレンスは勝手にそう解釈した。

二人は異変に気づいていたが制止を聞くことなくクラレンスはシャルルを罵ってしまう。

絨毯を汚すなと言ったクラレンスに対して、シャルルは迷うことなく膝をついて布で床に落ちた水を拭った。

それにはクラレンスも呆然としていたが、すぐに声を上げてシャルルの手首を掴んだ。

もしかしてしおらしい態度をとって、同情を引くつもりかと思ったが、「申し訳、ございません……すぐに絨毯を、綺麗にしますので」と言って再び作業を続けようとしている。

噂で聞いたシャルルだったら間違いなく怒り文句を吐き散らすのではないかと思っていた。

本性を見せるかと思いきや、明らかに瞳には怯えが見える。

クラレンスと目を合わせることなく震える唇が開いたり閉じたりを繰り返していた。

何かがおかしい……そう思った。

貧相な体と何かを誤魔化すようにベッタリと髪に塗ってある香油。

我儘令嬢とは思えない質素な格好と慎ましい態度。

目の前にいたのはイメージとも噂とも違う控えめな少女の姿があった。

(反省しているフリでもしているのか?いや、違う……これは)

違和感を感じてシャルルの様子を見てると、当然の如く侍女服を着て部屋から出てきたかと思いきや、ニナに屋敷を案内するように頼んで見て回っている。

(ベル公爵から聞いていた話と違う。違いすぎる……)

文句も言わずに歩いていたシャルルだったが、突如体が崩れ落ちていくのが見えてクラレンスは反射的に駆け出した。

そのまま倒れたシャルルを抱きしめて支える。

ピンクブラウンの瞳と一瞬だけ目が合ったが、ぐったりと体から力が抜けていく。

そのままシャルルは意識を失ってしまった。

いきなり倒れたことにも驚いたが、それよりも衝撃を受けたことがあった。

「シャルル・サシャバルはいくつだ?」

「アリーリエ様と同じで十六ではなかったでしょうか」

「十六、だと……?嘘だろう」

クラレンスが驚いたのも無理はない。

肉づきが悪く、異様に軽い体を抱きしめたままクラレンスは固まっていた。

とても十六歳とは思えない体の細さだった。

しかし肌は燃えるように熱い。

クラレンスは一応、用意していたシャルルの部屋へと運んでベッドに寝かせた。

「ゴーン、至急医師を呼んでくれ」

「かしこまりました。トーマスに迎えに行かせます」

「ああ、頼む」

胸が上下に動いていて苦しそうに呼吸をしている。

棒のような腕を見てクラレンスは眉を顰めた。

(こんな状態で、今から平然と仕事をしようとしていたのか?)

クラレンスが噂で聞いたシャルルは我儘を言い、帰りたいと泣き叫ぶと思っていた。

しかし実際は自分の役割を理解して淡々と仕事をこなそうとしていた。

少なくともクラレンスにはそう見えた。

クラレンスの頭の中はシャルルと目の前にいるサシャバル伯爵家からきたこの少女があまりにも噛み合わない。

そこでクラレンスはある一つの答えに辿り着く。

この少女がシャルル・サシャバルではないということだ。

(もし別人だとするのなら、サシャバル伯爵は何を考えているんだ?いくら娘が大事だからといって王命に逆らうような真似をするのだろうか)

クラレンスはニナにその場に任せて部屋の外に出た。

シャルルが再び社交界に顔を出せば、すぐに別人だとバレてしまうことになる。

なのに、堂々と別人を送って寄越すとは考えてもみなかった。

クラレンスが考え込んでいるとゴーンがシャルルが持っていたカバンを持って現れる。

「クラレンス殿下、よろしいでしょうか」

「どうした?」

「シャルル様が持ってきたお荷物についてなのですが、妙にゴツゴツしていて重いものが入っていたので危険物がないか確かめるためにニナと中身を確認させていただいたのですが……」

「何が入っていた?」

「本が十冊ほど、入っていただけでした」

「……本?他には?」

「何も……」

「なんだと!?」