軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

31 魔法コンテスト

控え室に戻ったとき、出番まで残された時間は十分しかなかった。

ヴィクトリカは顔をしかめてからアリアに言う。

「魔法式の修正をするわよ」

〖この感じでどうかな〗

アリアは手帳を取り出す。

そこには第二補助式を使わない形に修正した新しい魔法式が描かれている。

「いつの間に」

〖手帳はいつも持ち歩いているから〗

二人でずっとここにいようと言いながら、ヴィクトリカが出てきたときのために戦える準備もアリアは進めていた。

(この子は、なんで……)

ヴィクトリカは一瞬泣きそうになって堪える。

アリアが描いた魔法式を確認する。

そこには魔法界ではあまり使われない第二補助式が代わりに使われている。

「これって、聖女様の」

〖そう。昔使われてた初期の魔法の魔法式〗

「この時代の魔法式は今の魔法式と比べると出力が弱すぎて使いものにならないでしょ。大丈夫なの?」

〖使えない魔法式がほとんどだけど、この魔法式は代用として使えると思う。わたしはよく使ってるし、ローレンスさんの魔法にも使われてるのを見たことがあるから〗

「本当に? あの時代の魔法式で今も使えるものがあるなんて聞いたことないけど」

〖使い方にちょっとコツがあるんだよね。ある願いを込めると別物みたいに出力が変わるの〗

「ある願いを込める?」

〖うん。欠けているものへの願いを込めるの〗

アリアの言葉に、ヴィクトリカは少しの間考えてから言う。

「……それは、自分が足りないと感じているものでいいのかしら」

〖そう。これもローレンスさんに教わったんだ。わたしの場合は声が出せないこと。それでも伝えたいって思いが振動魔法になってるんだけど〗

「私の欠けているもの……」

ヴィクトリカは唇を引き結ぶ。

「わかったわ。やってみる。他の私が起動する部分は好みで修正していいわよね」

〖もちろん。お願い〗

ヴィクトリカは魔法式を修正する。

「次、ヴィクトリカ・エヴァレットさんとアリア・フランベールさんのペア。こちらに来てください」

名前を呼ばれ、コンテストの舞台へと向かう。

その間もヴィクトリカは手帳を見ながら魔法式の修正を続けている。

途中から右手のペンは動かなくなる。

あきらめたわけじゃない。

描くのを省略して頭の中で修正している。

(やっぱりすごいな)

心の中で感心しつつ歩いていると、廊下の先から光が漏れているのが見える。

光の中に入っていく。

吹き抜ける風が前髪を撫でる。

会場である古城の広場。

城壁で覆われたその入り口に立っている。

地響きと轟音に、アリアは一瞬よろめく。

前のペアが魔法を放ったのだ。

円形の広場の中心で、付与魔法が施された壁が激しく振動する。

砂煙が舞う。

魔力測定鏡(ルミナススケール) が魔法の出力と魔法式構造を測定している。

七人の審査員が測定結果を元に点数を入力する。

沈黙。

張り詰めた空気。

点数が表示されるクリスタルに波紋のような光が現れる。

司会者が各項目の詳細な点数を読み上げる。

「【美しさと創造性 181点】

【純度と出力 179点】

【緻密さと安定性 161点】

【魔法式精度 172点】

【連係精度 175点】

――合計868点! さすが今魔法大学で最も優秀と言われている四年生コンビ! 学生最高点で暫定四位に入りました!」

大歓声が響く。

広場の奥に置かれた石盤に青い炎の文字で五位までのペアの名前と点数が表示される。

『1位 ベルナルド・アボロ&レクス・ネイワード 969点』

『2位 ダレッサンドロ・ルピエール&ジェンナーレ・ロッシ 931点』

『3位 リタ・ワーズワース&デレク・アルバラン 929点』

『4位 ルー・グリット&ファン・アペル 868点』

『5位 アールト・デ・ヘルデ&メインデルト・エルメレン 832点』

「969点って歴代最高点じゃない……去年の優勝者でも910点台だったのに……」

呆然とつぶやくヴィクトリカ。

(さすが、噂の優勝候補)

たしかに、明らかに一人異質な魔力を持つ魔術師さんがいるのを微弱な振動で感じる。

〖上位三組の片方が準特級魔術師さん?〗

「そうね。代表として先に名前が書かれている方が準特級魔術師よ」

ヴィクトリカは苦々しげな顔で言う。

残る二組の準特級魔術師も昨年の優勝者の点数を超えている。

学生最高点である四位のペアでさえ、61点の差をつけられていた。

コンテストに出るのが初めてのアリアでもわかる大きな差。

しかし、状況を落ち着いて確認している時間はアリアにはなかった。

「こちらへ。そのまま前に進んでください」

誘導されて、広場の中心へと歩きだす。

広場を包むように建てられた城壁。その上に作られた観客席から、たくさんの人たちの声が響いている。

それは音圧になって、入り口にいるアリアの頬を揺らす。

「続いて、エントリーナンバー176番。拍手でお出迎えください。ヴィクトリカ・エヴァレットさんとアリア・フランベールさんです!」

司会者さんの声が響く。

広場の中心部。指示された所定の位置に立つ。

目の前で鎮座する測定鏡は静かにこちらを窺っているように感じられた。

隣にいるヴィクトリカの首筋を汗が一筋伝っている。

(緊張してる)

当然か、と思う。

たくさんの人に見られている上、アリアたちはぶっつけ本番。

下手したら、大失敗する可能性もあるのだ。

加えて、ヴィクトリカを硬くしているのは会場中から注がれる好奇の視線だった。

エヴァレット家の最高傑作。

飛び級で魔法大学に入学した神童。

落胆させてはいけない。

絶対に結果を出さないといけない。

ヴィクトリカの身体がふるえ始める。

動揺と恐怖の気配を微弱な振動で感じる。

(最高点が出せる精神状況じゃない)

アリアは横目でヴィクトリカを見つめる。

(わたしがなんとかしないと)

前に歩み出る。

少し後ろでヴィクトリカが小さく息を呑むのが聞こえる。

戸惑いの声を無視して、アリアは魔法式を起動した。

氷の文字を作り出す魔法。

大きな文字の板を作って目の前の観衆に向けて並べる。

〖世界一かわいい超天才魔術師アリア・フランベールです!!!〗

アリアは大きな氷文字の前に立つ。

ざわめく観衆。

仁王立ちで腕組みするアリア。

氷文字が揺らめいたのはそのときだった。

大きな氷文字は風に煽られ、バランスを崩して前に立つアリアに向けて倒れる。

氷文字がぶつかったアリアは情けない音と共に倒れ込んだ。

会場を沈黙が包んだ。

明らかに盛りまくった自己紹介に潰された小さな少女。

その残念な姿は、観衆にとって笑いを誘うものだった。

響く笑い声が質量を伴った音圧になってアリアの身体を撫でる。

何もなかったみたいにいそいそとアリアは氷文字を片付ける。

「がんばれ、嬢ちゃん!」

「良い心意気だぞ!」

アリアは気恥ずかしそうに頭をかく。

「貴方、何をしてるの。大事な魔力を無駄遣いして」

信じられないという顔のヴィクトリカに、アリアは小さな氷文字を浮かべる。

〖これで、失敗しても謎自己紹介に潰された間抜けなわたしのせいになる〗

はっとするヴィクトリカ。

「貴方、倒れるところまでわざと」

〖失敗しても大丈夫。だから思い切りやろう〗

アリアはヴィクトリカに薄い氷を手渡す。

そこには、〖ヴィクトリカならできる〗と書かれている。

視線を落としたヴィクトリカは何も言わなかった。

静かに握りしめて、ポケットに仕舞う。

前を向く。

「貴方に恥はかかせない。最高の魔法を見せてあげる」

ヴィクトリカは中空に手をかざす。

「一緒に度肝を抜くわよ」

ひりつくような魔力の気配にアリアは口角を上げた。

(そう来ないと)

濃くなった魔素濃度に髪がふわりと浮く。

二人の魔法が光を放つ。

どうしよう、大事なコンテストの本番なのに。

アリアの胸はどうしようもなく弾んでいる。