軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

28 だけど、魔法でつながってる

(まさか、わたしが天才過ぎて普通の人には理解されないタイプのセンスの持ち主だったなんて)

ヴィクトリカに魔法を披露した翌日、アリアは真面目な顔で思案しながら大学を歩いていた。

呆然とするヴィクトリカと、卒倒する庭師さんの姿はアリアの脳裏に鮮明に焼き付いていた。

ずっと自分の作品をお父様に褒められてきたアリアにとって、それはまったく予想外の出来事で。

しかし、考えてみるとたしかに納得できる部分も多くあるように感じられた。

世界を変える偉大な作品の中には、当初酷評されていたものも多く存在する。

時代を超える芸術にはある種の違和感や気持ち悪さが内包されていると聞いたことがあるし、自分の芸術的センスもそういう天才たちに近い方向性のものなのだろう。

(わたしのセンスをみんなが理解できるようになるまでは時間がかかっちゃうだろうし、今回はヴィクトリカの魔法に合わせる方向で行くしかないか)

幸い、ヴィクトリカは誰が見ても美しい魔法を作るのが得意であるように感じられた。

ヴィクトリカの魔法式には、周囲に見られることを意識した配慮が随所にあった。

名家の神童として幼い頃から、たくさんの人の目を気にしながら魔法に取り組んできたからだろう。

美しくなければならない。

完璧でなければならない。

そういう切迫感がヴィクトリカの魔法にはあるように感じられる。

(わたしの魔法とは正反対だな)

全部独学で、誰に見てもらうこともないまま創り上げた自分の魔法。

だからこそ、アリアにはヴィクトリカの魔法が綺麗に見えた。

ヴィクトリカの魔法には、アリアでは出せない美しさがある。

(あの魔法を元に、二人でもっと綺麗で力強い魔法を作る)

そのためにできることが自分にはあると思った。

二人で作る魔法はきっと面白いものになる。

(見てみたい。どんな魔法ができるのか知りたい)

練習に向けて、アリアは複合連係魔法について書かれた本を読みあさりながら、自分の求める理想を形にする方法を考えた。

それはアリアにとって楽しい時間だった。

ずっと入りたくても入れなかった魔法の世界。

自分ではない誰かの魔法について深く考えるのは初めてのことだったし、一緒に魔法を使うということにも一人のときとは違う新鮮さがあった。

ノートいっぱいに二人で作る魔法の設計図を描いたアリアは、翌朝の講義室でヴィクトリカに歩み寄って言った。

〖これ、練習までに読んでおいてほしい〗

「何これ?」

〖二人で作る魔法の設計図〗

「悪いけど、貴方の望んでいる形にはできないわよ。爆発も氷の像もコンテストの観客と審査員に理解できるとは思えない」

〖わかってる。だからヴィクトリカの魔法をメインにした〗

アリアの言葉に、ヴィクトリカは一度大きくまばたきした。

「私の魔法を?」

〖読んで〗

強い意思を込めて伝えた。

ノートを渡してからリオンの隣の席に座る。

リオンはほっとした顔で息を吐いた。

〖どうしたの?〗

「いや、戻ってこないかと思って」

アリアがヴィクトリカの隣で授業を受けると思ったらしい。

(なかなかかわいいところがあるじゃないか)

反応がうれしくて肩をつんつんすると、リオンくんは困った顔でそっぽを向いていた。

その日は、午後最初の授業が休講になった。

予定より早くエヴァレット家の別邸を訪ねると、ヴィクトリカは練習場で分厚い魔導書を読んでいた。

少し不安になりながら聞いた。

〖ノート読んだ?〗

「読んだわ。でも、ダメね。あれじゃ使えない」

言葉が出なくなる。

なんで、と聞こうとするアリアにヴィクトリカは言った。

「一箇所見落としてるところがあったから修正しておいたわ。他のところも、私が使う部分は私のやり方に書き換えてある」

ヴィクトリカは鞄からノートを取り出してアリアに渡す。

ノートを開いてアリアは驚いた。

たしかにヴィクトリカの言うとおりだった。

アリアがノートに書いた魔法式構造には見落としていた欠陥があった。

だけど、それ以上に驚いたのはヴィクトリカが修正したその内容だった。

細部の描き方に見える工夫と最適化。

そのすべてからアリアの意図を理解し、尊重しようとしてくれていることが伝わってくる。

「やるわよ」

ぶっきらぼうな言葉。

ヴィクトリカはアリアのことを敵だと言っていた。

友達とは多分思っていないのだろう。

それでも、彼女は魔法に対して嘘はつかない。

いいものは良いと言ってくれる。

二人の距離は仲良しにはほど遠くて。

だけど、魔法でつながってる。

気づかれないように口角を上げてから、アリアは魔法式を起動した。

◇ ◇ ◇

王都の中心部にあるエヴァレット家の本邸。

ヴィクトリカ・エヴァレットは、母とテーブルを挟んで夕食を食べている。

「大学生活はどう? ヴィクトリカ」

母の問いかけにヴィクトリカ・エヴァレットは考える。

目の前に現れた想定外の存在――アリア・フランベールについて話すか考えてやめる。

彼女のことは、エヴァレット家にとって取るに足らない些事だ。

母にとって、そして一族にとっての関心はヴィクトリカ・エヴァレットという作品を歴史上最高のものとしてこの世界に送り出すこと。

アリア・フランベールがどういう子だったとしても、母はそんなこと意にも介さないだろう。

私は一番でなければいけない。

負けてしまえば、どんなひどいことになるかわからない。

私にはたくさんの人が期待してくれているのだから。

たくさんのお金と労力が私のために注がれているのだから。

ヴィクトリカは不安を押し殺す。

表情を変えないように意識して口を開く。

「順調に進んでいます。何も問題ありません」

ヴィクトリカは言う。

「よかったわ。『大魔導祭』に出場することも決まったそうね」

「はい」

「私たちエヴァレット家にとって特別な意味を持つ式典だということはもちろん理解しているわよね」

母は言う。

「『大魔導祭』を創設したのは始まりの七魔術師の一人、マルセル・エヴァレット。私たちエヴァレット家の源流に当たる人よ。エヴァレット家は『大魔導祭』の運営に深く関わると共に、歴史と伝統ある魔法コンテストでも他家の魔術師をよせつけない結果を出し続けている」

ヴィクトリカは母を真っ直ぐに見つめて言った。

「今回の『大魔導祭』で、私は必ず最年少記録を更新して入賞します。そして、リオン・アークライトよりも先に一級魔術師合格への実績を作る」

母はヴィクトリカを感情のない目で見つめた。

少しの間、押し黙ってから続けた。

「入賞で貴方はいいと思っているのかしら」

「え?」

「お祖父様は十三歳一ヶ月で最年少入賞記録を作ったとき四位だった。入賞だとしても、それ以下の順位じゃ本当の意味で上回ったとは言えないでしょう」

母は言う。

「ヴィクトリカは今回の『大魔導祭』で何位になるの?」

うまく息が吸えない。

ヴィクトリカは声を振り絞って言う。

「三位以内に入ります」

「素晴らしいわ、ヴィクトリカ」

母は目を細める。

その笑みをヴィクトリカは少しだけ怖いと思う。

だけど、そんな風に思ってはいけないと思う。

この人は私のお母さんなのだから。

私を産み、大切に育ててくれている。

小さい頃から、私にたくさんのものを与えてくれている。

だから、私はこの人の期待に応えないといけない。

絶対に負けてはいけない。

誰が相手でも、どんな課題でも。

胸の奥にある少しの不安。

迷いを押し殺すように、テーブルの下で強く拳を握った。