軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

25 学年で一番魔法が上手な女の子

「聞いたよ。あの講義室天井のミスリル片、君がやったって」

ローレンスさんに声をかけられたのはそんなある日のことだった。

次の授業に向けて一人で歩いていたアリアは、意外そうな顔でローレンスさんを見上げた。

〖どうして知ってるんですか?〗

「学長に修理を頼まれてね。折角来たんだからついでにやってくれって。まったく、王国一の修繕魔法使いをなんだと思ってるんだか」

肩をすくめるローレンスさん。

大学に入学してからしばらく顔を合わせていなかったはずなのに、なんだかずっとどこかでその気配を感じていたような気がした。

大学で優秀な魔術師さんたちに囲まれて生活しているからだろうか。

凄腕の魔術師さんの気配には、どこか共通しているものがあるのかもしれない。

「リオンくんは今日お休み?」

〖前の授業の途中まではいたんですけど、王室の仕事で行事に出席しないといけないらしくて〗

「第三王子とはいえ、なかなか忙しいみたいだもんね。周囲をがんばって説得して、大学に通う時間を作ってるみたいだし」

〖そうなんですか?〗

「うん。それだけどうしても大学に通いたい理由があるみたい」

〖リオンくん……〗

アリアは優しい目で自分の胸に手を当てて言った。

〖すごくうれしいです。そこまで魔法のことを好きになってくれてるなんて。友達として、魔法を知るきっかけになった幼なじみとして誇らしい〗

「いや、多分魔法以外の理由なんじゃないかなって思うけど」

〖リオンくんに魔法以外の理由なんてありません! リオンくんは魔法大好きなんです!〗

「どうしたの、急に」

〖リオンくんはわたしが育てたので〗

お母さんみたいな顔で言うアリアに、ローレンスはくすりと笑ってから言う。

「そういえば、そろそろ『大魔導祭』の季節だよね」

〖大魔導祭?〗

「うん。知らない?」

〖世俗の文化にはあまり興味が無くて〗

「急に難しい言葉を使うね」

〖大学生ですから。大人ですから〗

胸を張るアリア。

「そうだね。大人だね」

ローレンスは目を細める。

〖『大魔導祭』というのは、いったいどういうものなんですか?〗

「歴史と伝統ある祭典だよ。【裏切りの魔術師】によって、魔法を危険視する声が多くなっていた中で、始まりの七魔術師の残る六人の英傑たちが魔法の価値を伝える祭典として始めたと言われてる。たくさんの魔術師たちがお店を出したり、魔法を使ったアトラクションを展示したりしてるんだ」

〖どうしてそんな面白そうなものを教えてくれなかったんですか!!〗

「いや、魔法好きなら当然知ってると思ってたし」

(ぐ……ずっと一人で勉強していたから……)

そんな楽しそうなイベントを知らずにここまで来てしまったなんて。

魔法好きとして一生の不覚、と唇を噛む。

「中でも、一番注目を集めるのは二人一組で行う魔法コンテスト。魔法の美しさと出力を競うんだ。人々の関心を集められるチャンスということもあって、マイナーな研究をしてる魔術師が多く出場する。なかなかお目にかかれない一線級の魔術師の魔法が見られるということもあって毎年八万人を超える来場者が詰めかける」

〖それは絶対見に行きたいですね〗

うなずくアリアに、ローレンスさんは言う。

「ちなみに、今年の分のチケットは完売してたと思う」

「…………」

アリアは悲しい顔をした。

楽しみにとっておいたおやつのいか焼きを、泥水に落としたときのような悲しみがそこにはあった。

〖人生とは儚いもの。泥水つきのいか焼きを食べたあの雨上がりのように〗

「食べちゃダメだから。もう二度と食べちゃダメだからね」

焦った様子で言うローレンスさん。

(魔法コンテスト見たかったなぁ)

アリアは肩を落とす。

少しの間考えてから、ローレンスさんは言った。

「ここの学生なら推薦枠で出場できたと思うんだけど、君が出たいと言ってるって伝えようか」

〖参加できるんですか!?〗

「君の実力だと十分選ばれると思うよ。任せて」

大学事務局の職員さんから魔法コンテストの出場者に選ばれたと聞かされたのはその数日後のことだった。

お昼休みに行われた説明会でコンテストまでの日程や当日の待機場所を聞く。

「コンテストの題材は二人一組で行う複合連係魔法です。使う魔法の練習は各自で行ってください」

もらった用紙の最後に大学推薦枠で選ばれた出場者の名前が記されていた。

四年生が十二人。三年生が八人。二年生が六人。

そして、一年生が二人選ばれている。

「ペアを組む相手はこちらで選ばせていただきました。皆さんの健闘を心からお祈りしています」

アリアがペアを組む相手はもう一人いる一年生――ヴィクトリカ・エヴァレット。

(入学生首席。わたしの学年で一番魔法が上手な女の子)

参加者の中で一番前にいたヴィクトリカはアリアのことを見なかった。

ただ、真っ直ぐに前だけを見つめていた。

「ヴィクトリカ・エヴァレットよ。よろしく」

ヴィクトリカがアリアに声をかけたのは説明会が終わってすぐのことだった。

真紅の髪。

上品で仕立ての良い服。

アリアより高い身長。

声をかけてくれたのがうれしくて、アリアはぱっと顔をほころばせた。

〖アリア・フランベール! よろしく!〗

浮かんだ氷文字を冷ややかな目で見つめてヴィクトリカは言った。

「あらかじめ言っておくわ。私は貴方と馴れ合うつもりはない。むしろ貴方を敵だと思っている」

〖敵?〗

意外な言葉に首をかしげるアリア。

「入学式の模擬試合は実技試験で最高点を取った入学生が選ばれる。私は選ばれるつもりで準備を進めていたわ。でも、実技試験で最高点を取ったのは貴方だった」

ヴィクトリカは言う。

「同世代の女子で私の上をいったのは貴方が初めてよ。だから敵」

その言葉は、アリアの胸をいたく打った。

みんなが簡単に使える詠唱魔法が使えなかったアリアにとって、魔法界屈指の名家であるエヴァレット家で育ったヴィクトリカは、自分には届かない遠い世界の住人だった。

そんなヴィクトリカが、アリアのことを敵として意識してくれている。

うれしくなって頬をゆるめる。

「なんでうれしそうなのよ」

怪訝な顔で言うヴィクトリカ。

〖あきらめなくてよかったなって〗

「何を言ってるのかわからないんだけど」

〖わたしもヴィクトリカに負けないから〗

アリアの言葉に、ヴィクトリカは「へえ」と腕組みして言った。

「まずは互いの魔法を確認するところから始めましょうか」

ヴィクトリカは言った。

「ついてきなさい」

〖どこに行くの?〗

「大学近くにあるエヴァレット家の別邸。そこなら思う存分魔法が使える練習場があるから」

(お家にお呼ばれしてしまった……!)

生まれつき声が出せなかったことで、小さい頃のアリアは同年代の子たちの輪に入ることができなかった。

魔法に出会った後は時間があればずっと一人で魔法の勉強をしていたから、人生を通して同年代の友達はリオンくんただ一人だけ。

それも、ローレンスさんと一緒にこっそり忍び込んだあの一度を除けば、お家に遊びに行ったことはない。

(同級生のお家……! しかも、魔法界随一の名家……! いったいどんな感じなんだろう?)

アリアはわくわくしながら、ヴィクトリカの後に続いた。