軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ヴィオラの顛末(ヴィオラside)

「ヴィオラさん、朝ですよ。起きなさい」

「うう~ん……、もうちょっと……」

「なりません! 朝のお祈りを済まさなければ!」

私は先輩の修道女、レベッカに起こされ、むくりと体を起こした。

ああ、今日もまたこの朝がやってきてしまったわ……。

「……ウィルフレッド……、私の、王子様……」

うわごとのように呟く。そんなことをしても、彼は私を迎えには来てくれない。

レベッカの「きりきりと動きなさい!」という叱咤に背中を押され、私は大人しく身支度を済ませる。

この修道院にやってきてから、ずっとこうだ。

やれああしろ、こうしろって……、周りの人間は命令ばっかり。規則に厳しい修道院だっていうのは聞いてたから、当然のことなのかもしれないけど……。

私は早くも、この生活に嫌気が差していた。

ある日突然、お継父様達がやってきて、「私たちが間違っていた。早く家に帰ろう」なんて言ってくれないかしら。そんな夢想を思いながら、私は朝の礼拝に向かった。

「今日は買い出しについてきてもらいます。その内、一人でも出来るようになってもらいますからね」

「……はい」

今日は街へ買い出しらしい。レベッカが歩く後ろについていく私。

街は今日も活気があって、賑やかで。ああ、ウィルフレッドとデートをしたあの日のことを思い出すわ、と思った。

……要らないオマケも付いてきてたけどね。そこだけは嫌な所だわ。

「ええっと、今日は市場に行って……」

レベッカが何事かをぶつぶつと呟いている。私はひたすらに街を眺めながら、ああ、家に帰りたいななんて考えて。

……とある所で、目が止まった。

「…………え……?」

ドクン、と大きく跳ねる私の心臓。

そこから──ううん、彼から目が離せない。

一瞬で、わかってしまった。全て、全て!

彼が──私の「運命の番」なんだって!!

「あっ、ちょ、ヴィオラさん?!」

レベッカの言葉なんて無視して私は彼の元へと走っていく。

早く。はやくはやく。そうしないと行ってしまうわ。

折角出会えた運命の人。この人を、逃してはならないと、本能が訴えかけている!

「待って!!」

人ごみを掻き分けながらようやく辿り着くことができて、私は彼の腕をガシッと掴んだ。

驚愕の表情と目が合う。

目が合って、尚のこと愛おしさが溢れ出た。

ああ……、この人が、私の運命なのね……!!

「は、え? 誰? 修道女……?」

見れば少しだけウィルフレッドに似ているような気がする。ほんのちょっとだけれどね?

くすんだ金髪、緑色の目。色の輝きはあっちの方が段違いだけど、そんなの私には関係なかった。

だって今度から、彼が私の王子様になるんですもの!

「ちょっと、ヴィオラさん?! 急に走り出して、どうしたの?!」

「レベッカさん! この人、この人が、私の運命の番なんです!!」

「え……、運命の……?」

驚きを隠せないらしいレベッカ。口に手を当てて、「信じられない」と呟いている。

信じられなくとも、この人が私の運命の番なことは明白よ。だって私がそう感じているから!

ウィルフレッドを愛していた頃とは比べ物にならない衝撃だったわ。体中に電撃が走ったみたいで!

一目見ただけで、ああ、この人がそうなんだ……! って思えたの。

(……ウィルフレッドも、セルマさんにそんな感情を抱いていたのかしら)

だが、今となってはどうでもいいことだ。もう私に彼は必要ない。

だって私には、正真正銘、運命の王子様が──。

「あの……、うちの夫に、何か御用ですか……?」

聞こえてきた声にビシリ、と体が固まった。

今、なんて……。

(私の、夫……?)

「ま、まぁ、こんな所でお話するのもなんですから……、カフェにでも入りませんか?」

レベッカがそう言ってくれて、私たち四人──私とレベッカ、そして、彼と……彼の奥さんは、近くのカフェへと入ることになったのだった。

「で、俺がその……、ヴィオラさんの? 運命の番ってやつなんですか」

私の番……イーサンはそう尋ねた。

私はこくこくと頷いて、「そう! そうなの!」と叫ぶ。レベッカに静かにしなさいと怒られるけれど、気にしない気にしない。

「すみませんけど、俺、何にも分からないんですが……。そもそも番って、竜人族だけですよね? わかるの……。俺は人間ですし……」

「そ、そんな!」

イーサンの言う通り、彼は竜人族ではなく人間族だったようだ。

そのせいで、この運命的な出会いが分からないのだという。

……ますます、ウィルフレッドとセルマを思い出して嫌になる。

今はそんなこと関係ないのに。

「それに、俺にはキャシー……奥さんが居るんです。運命の番って言われても、どうしようもないですよ」

「ですよね……」

イーサンとレベッカは何やらうんうんと頷き合っている。何? なんでそこ、急に仲良くなってるの? そこは私の席でしょ!

そこで私は彼の隣に座っている奥さんとやらをギッ! と睨みつけながら言った。

「イーサンの運命の番は私なの! 今すぐイーサンと離婚してよ!!」

「えっ……」

驚くキャシー。イーサンは「突然何を言い出すんですか?!」とキャシーの肩を持つ。

その光景にもイライラして止まらなかった。彼の運命は私なのに!! どうしてそんな女がそこに居るの!!

「キャシーは俺の大事な……愛する女性です! 俺はキャシー以外考えられない。よく分からないけど、とっとと帰ってくれ!」

「そんな……待ってイーサン! 私を見て!! 私を見てくれれば、全てがわかるから!!」

「はぁ……?!」

訝しげにしながらも私を見つめるイーサン。

それだけで体が熱くなって、頬を赤く染めてしまう。ついでに潤んだ瞳もセットでついてくれば、私に落ちない男は居ないはず!

……なのに……。

「全てがわかるって……、何一つわかんねえな」

「は……?! 何言ってるのよイーサン! 今の私を見て、何も感じないの?!」

「何がだよ! 何にもわかんねえわ!!」

「そこのキャシーとかいう女より、私の方が断然かわいいでしょう?! あなたの奥さんにふさわしいのは、この私なのよっ!!」

私の叫びに、イーサンははぁ~……、と深いため息をついて。

「んなわけねえだろ。キャシーの方が何倍もかわいくて、綺麗で、いいお嫁さんだよ。あんたなんか知るか」

そう、冷たく言われてしまった。

その瞬間、私の心は張り裂けそうなくらい傷ついてしまう。

……番に冷たくされると、こんな痛みが胸を走るのね……。知らなかったわ……。

私はうるる、と目に涙を溜めて、わんわん泣き出してしまった。

困った様子のレベッカとキャシーに宥められるが、その手を振り払って言った。

「触んないで!! 私はイーサンとお話してるのよ、あんた達は関係ない!!」

「で、でも、ヴィオラさん……」

「ねえ、私をかわいそうと思うのなら、今すぐイーサンを返してよ!! そこは元々、私の居場所だったのよ?! あんたが盗ったの!!」

私の訴えに、キャシーは「どうしましょう……」と戸惑った声を出すだけだ。

ふん、かわいこぶってないで、今すぐイーサンを私に渡しなさいよ!! 何が、「どうしましょう」なのよ、全く!!

「イーサンも、こんなブスのどこがいいっていうの?! 私の方が段違いにかわいいし、良い子よ?! ねえ、私を選んで──」

「話にならないな」

イーサンが立ち上がり、キャシーの手を取る。

そしてお金を机に置いたかと思えば、「俺たちは帰ります」と宣言した!

「見ず知らずの女にここまでお嫁さんをコケにされて……、許せるはずもありません。俺とその女は金輪際、関係がないことにしておいてください」

「イーサン……! でも、この人、あなたの運命の番だって……」

「わからない運命なんかに振り回されるほど、俺はバカじゃないよ。さ、行こう、キャシー」

「……え、ええ……」

「待って! 待って、イーサン!!」

「?!」

行ってほしくなくて、私はイーサンに抱き着いて阻止をする。

だがすぐに強引に振り払われた。その勢いで床に激突する。

「いた……っ」

「大丈夫、ヴィオラさん?!」

レベッカが慌てて駆けつけてくれるが、今は彼女に構っている暇はない。

イーサンは、と思い、よろよろと顔を上げる。

……イーサンは、この世のものとは思えないくらいに、鋭く冷たい表情をしていた。

それを見た私の心がどんどん張り裂けていく。いたい、いたい! やめて、お願い!

「俺はお前なんか知らない。興味もない。ただ……キャシーを傷つけることを言った、お前を許さない」

「イー、サン……」

「二度と俺たちの前に姿を現すな!!」

そう言って、イーサン達は店を出て行ってしまった。

残されたのは私とレベッカだけ。

「う、ううっ、う……!!」

ぼろぼろと零れる涙が止まらない。

番に冷たくされるのが、こんなにも心の痛むことだったなんて。

(……まるで、かつてのウィルフレッドとセルマさんみたい……)

私のことを好きだったウィルフレッドが、さっきのイーサンみたいに、セルマさんに冷たくして。

そんな光景を何度も見てきた。

……何度も?

「……ああ、そうか……」

いい気味だと思っていた光景。私とウィルフレッドの邪魔をするからいけないのよ、と思っていたあの頃。

それを今、私が体感させられているのね。

ねえ、セルマさん。

番に拒否される……ううん、誰かに強く否定されることは、どれだけ痛かった?

今の、私くらいかしら?

ごめんなさい。

私、何にも知らなかった。あなたが毎日、どれだけの傷を負っていたのか──。

「ヴィオラさん」

「う……ぐずっ、うう、!」

「私たちは神の花嫁……。たとえ運命の番を見つけたとしても、一緒になることは許されません。諦めなさい……」

レベッカが私を抱きしめながら言う。

それでも、痛みに痛んだこの心は、泣くことを止めさせてはくれなかった。