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冷やしエクスカリバーはじめました

作者: 仁司方

本文

【冷やしエクスカリバーはじめました】

文字として読むことはできるが意味は理解できないのぼりが、シュミット 刀剣鎚斧(とうけんついふ) 店の店頭に掲げられている。

勇者エディとその仲間たちは、とりあえずのぼりの文字列の意味は考えないようにして店内に入った。

「いらっしゃいま……エディさん!!! いつ王都に帰ってらしたんです?!!」

「昨日の夜中。まだ戻ったとしか城に伝えてないから、あとで報告にいかないといけないんだけど」

カウンター内から飛び出してきた店主のシュミットに対し、眠そうな顔で応えたのは、取り立てて背が高いわけでもなければ、筋骨隆々でもない、黒髪で黒い目の人物だった。この「ザ・モブA」が勇者なのだと知って、おどろき疑わなかった者は、いまのところまだひとりもいない。

王城よりも先に、自分の店へ勇者が立ち寄ってくれたと知って、シュミットは感動でむせび泣いた。

「勇者さまがまっさきにうちに来てくださるたぁ……ああ、ありがたい、ありがてえことでっせ」

スミス=シュミット38歳。 武器職人(ブラックスミス) としてはまだまだキャリアの浅い若造なのだが、ドワーフの里で5年ほど修行してきたことがあり、その鍛造と焼入れの技術はなかなかのものだった。

1000年ぶりに魔王が降臨し、対抗するために大天使が勇者の力をエディに与えたとき、王はシュミットを勇者パーティの鍛冶師として任命した。

シュミットの造る武骨な剣や槍は、貴族たちの美的センスにまったく合わなかったがため、王都の職人の中で仕事にあぶれていたからだ。

……ようするに、余りものとして勇者係に割り当てられただけだったが、シュミットの造る武器はエディと相性がよかった。なにせ、並の武器ではどれもこれも勇者の力に耐えきれず、三回振ったら砕けてしまうというありさまだったので。

武器の見てくれなんか気にしないエディにとって、シュミットが鍛えた剣は頼りになる相棒であった。

「新作、あるかなと思ってさ」

見た目へのこだわりゼロ、評価基準は使用感のみのエディだが、極度の武器オタといって差し支えないほどの得物マニアであった。

冒険先の各地で拾った武器を片端から試し振りし(そしてぶっ壊し)、新素材を見つけてはシュミットのところへ持ち込んで製作をせがむ。

今回は魔王四天王のひと柱、地のゴラナンドゥ討伐のために半月ほど遠征していたため、きっとあたらしい武器が完成しているだろうと期待して、王都に帰還してひと眠りするなりシュミットの店へやってきたのだった。

よくぞ聞いてくださった、とばかり、シュミットは満面の笑顔でうなずく。

「もちろん、とっておきを用意して待ってやしたよ! 新作、冷やしエクスカリバーを!!」

……が、エディの反応は芳しくなかった。

「えー……完全新作じゃなくて、エクスカリバーの改造?」

「いやいやいやエディさん、エクスカリバーですよエクスカリバー? オレっちが同じランクの剣を一から造ろうとしたら、あと50年は修業が必要な逸品ですぜ?」

「ぼくがエクスカリバーをゴラナンドゥ討伐に持っていかないで王都においていったのってさあ、あれがそんなに好きじゃないからなんだよ」

まさかのカミングアウトに、シュミットは絶句した。店の前にのぼりまで立てておいたのに。……いや、のぼりが立っていたのにエクスカリバーについて訊ねず、新作がないか、という言いかたをエディがしてきた時点で、察するべきだったのか。

「え……エクスカリバー、お好きでない? てっきりオレっちは、つぎの冒険までにこいつを強化しとけ、っていう意味でおいていかれたんだと……」

「あー、ごめん。そういうことはちゃんと伝えておくべきだったね。なんていうかさあ、エクスカリバーって、優等生すぎて。見た目からしてめちゃくちゃカッコイイし、雑なあつかいしづらいんだよ」

「……なるほど。なんとなく、わからないでもないです。エディさんにとっての武器とは、貴族のみなさんがお持ちの旗がついた槍とか紋章つきの盾みたいな名刺代わりの存在ではなく、あくまで藪漕ぎしたり、鍵が見つからなかった扉をぶち破るための普段使いツール」

シュミットが、見てくれと名誉にこだわる貴族の行軍と、決してお行儀がよいわけではない勇者の冒険を思い比べて述べると、そうそう、とエディはうなずいた。

「まさにそういうこと。エクスカリバー焼き串にして大イノシシの丸ごとグリル作るとかさあ、やっぱ……気が引けちゃうじゃん?」

「つまり……オレっちが作った武器は、普段焼き串として使ってらっしゃる、と」

「……あ、もしかしてさすがに地雷だった?」

わりと空気読めない系の勇者であるエディも、職人が丹精込めて造った武器でBBQをするというのは冒瀆であると気づいた。

が、シュミットはべつに自分の作品が焼き串代わりにされていることに怒りを感じたわけではないらしい。

「直火であぶって、強度下がったり斬れ味落ちたりはしてねえですか? オレっちの 剣(こ) は」

「うん、それは全然大丈夫。さすがドワーフ直伝の鍛冶の業だよ」

「そいつはよかった。実際に焼き串作って、勇者さま公認、1000回使えるBBQセットとでも銘打って売り出してみますかねえ」

勇者パーティの武器職人として王のお墨つきをもらってからのシュミット刀剣鎚斧店は、以前に比べると繁盛するようになっている。相変わらず貴族は来店しないものの、勇者と同じブランドを使いたいという庶民がよく買い物に訪れるようになっていた。

護身用の武器のほかに、鎌や鉈のような農作業道具、包丁や手斧のような日用品も地味に売れる。

「じゃあ、ポップ描くね。この焼き串なら、どんな肉でも美味しく焼ける!って」

エディは職人の魂を雑に使っていた罪滅ぼしも兼ねて、公式コラボの提案をした。

「いいっすねえ。エディさんに製品を預けると、造ったがわはまったく想定してない使いかたをしてくれるから、思わぬ欠点や知られざる利点が明らかになりますぜ」

勇者は 実戦フィードバック(コンバットプルーフ) を引き出してくれる、と、エディの雑さを良いほうにとらえたシュミットだったが、ここでふたりのやり取りを聞いていた魔法使いのリーシャが口を挟んだ。

「シュミットさん、エディに甘すぎる。このコ、なんも考えてないよ」

「リーシャひっど。ぼくだっていちおう足りないながらに頭使ってるし」

「それなら、エクスカリバーを食わず嫌いしないで、つぎの冒険には持っていきましょう」

アホの子なりにない知恵を絞っているとリーシャへ抗議したエディへ、神官のルビータが横から提言した。

「つぎは火の四天王ヴァルバーンが相手じゃからな。冷気攻撃追加のエクスカリバー、必ずや役立つであろう」

そういって、斥候のコルナもうなずく。

「……冷やしエクスカリバー、使わなきゃダメ?」

なおも気が進まない様子のエディだったが、

「エディさん、ひとまず試し振りしてから考えやしょう」

と、シュミットは無理強いはせず、まずは使い勝手の確認を勧めた。

+++++

リーシャの 一度来た場所へワープ(メモリージャンプ) の魔法で、勇者一行とシュミットは王都の北にある湖へやってきた。

滔々と水をたたえた静かな湖面が、視界の果てまでつづいている。この 海モドキ(フォールス・シー) は、湖周300キロを超える巨大な内水域だ。

「じゃあ、ちょっと試し振りしてみようか」

「あい。どうぞ、エディさん」

エディはシュミットから冷やしエクスカリバーを受け取り、鞘を払って 尖峰(きっさき) を天へ向ける。

刃身から立ち昇る冷気がにわかに下降気流を引き起こし、上空を覆っていた雲が消えていった。

反面、すっかり朝もやは吹き払われている時刻になっているにも関わらず、見通しは悪くなっていった。冷やされた空気中の水分が結露し、霧になっていくのだ。

「いくよっ!」

柄を両手で握り直し、エディの全身が跳ねた。

音速を軽く超える剣閃が、 海モドキ(フォールス・シー) の水面をふたつに断ち、ついで爆発的に噴き上げさせる。

津波が周辺地域へ被害をおよぼさないように、リーシャとルビータは 絶対障壁(ウォール・オヴ・フォース) で水際を覆った。

横方向への拡散を止められた水流は天へと向かい……直径2キロ、高さ900メートルはある巨大な氷の柱へと変わった。

「……自然破壊すぎんか?」

勇者が脳筋なことは知っていたがエクスカリバーの威力がここまでとは思っていなかったコルナは、あぜんとなる。斥候として優れた視力を持つコルナには、魚とかカメとかカニとか、水中の生き物が氷の柱に閉じ込められて凍結しているのがよく見えた。

「予想より大惨事になったね」

この巨大 氷柱(ひょうちゅう) は王城からも見えるな……と、リーシャはもうすこし遠くへ移動すべきだったと反省していた。そろそろ、勇者を地上においておくのは危ないんじゃないかと、お偉いさんたちが真剣に検討をはじめかねない。

「とりあえず、この柱は自然解凍を待ったほうがよさそうです。閉じ込められている生き物も、ほとんどは助かるでしょう」

生命探知(ディテクト・ライフ) で氷の柱の中を 走査(サーチ) して、ルビータがそういった。この湖は冬場に全面凍結するので、棲み着いている生き物たちは氷漬け自体には耐性があるのだ。

「え……エディさんすげえ……」

勇者のフルパワーをはじめて目の当たりにして、シュミットは腰が抜けていた。むしろ、自分が造った武器はこのスイングスピードに耐えられている、という事実が信じがたい。

だが。

「ん〜……やっぱ、冷気が弱点の相手ならともかく、ふつうに戦うならエクスカリバーじゃないほうが打点行くなあ」

と、エディはとんでもないことを口走っていた。

「え?? エクスカリバー以外だとこれより破壊力があるって……ウソでしょう?!!」

「えっとね、見た目の派手さと、実際に魔物にぶち込めるダメージって、ちょっと違うんだ。……ステータス」

怖がるシュミットに対し、エディはステータス表示魔法で自分の強さを数値化した一覧を見せる。

Name:エリーディア/Race:人間/Age:17/Gen:女性/Hei:156/Wei:45/Ali:中立・善/Class:勇者/Lev:377

Str:62243/Agi:64351/Dex:33255/Vit:63140/Int:12/Wis:58209/Pow:61133/Cha:44771/Fas:50300

Skill(説明に必要なもののみ抜粋):魔法攻撃効果7倍/両手持ち4倍/剛剣

Weapon1:冷やしエクスカリバー(物理攻撃力1200/追加冷気攻撃250/重量8)

Weapon2:シュミットの大剣(物理攻撃力650/重量400)

なお、一般人の筋力(Str)が100を超えることは基本的にない。知力(Int)12というのは、まさに12歳の平均的数値だ。

正直言ってステータスの羅列は理解できなかったシュミットは、自分でも意味がわかる武器の攻撃力に注目した。

「エクスカリバー、オレっちの剣よりずっと強くねえですか?」

「ここで重要なのは、攻撃力そのものじゃなくて、重さなんだよね」

「軽くて使いやすいように見えますけど」

シュミットは首をかしげた。長剣でありながら800グラムの重量しかないというのは、破格に軽い。軽々と振れるのにすさまじい斬れ味を発揮するのが、エクスカリバーが伝説の聖剣であるゆえんだった。

エディは武器の欄よりすこし上を指差す。

「スキルのほうを見て。剛剣ってやつ。このスキル、武器重量の10倍を最終攻撃力に加算できるんだ」

「ということは……エディさんがエクスカリバーを両手で握って一回攻撃すると、4880の物理ダメージと、1750の冷気ダメージを与えられるってことになりますかね?」

「計算早いね」

「オレっちが造った大剣だと、物理ダメージのみ6600……いちおう、冷気が弱点じゃない、ふつうに効くていどの相手でも6630だから、エクスカリバーのほうが強くねえですか?」

アホの子エディはシュミットの指摘に目を白黒させはじめたが、ここでリーシャが話に加わった。

「実戦だと、敵の魔法抵抗値が高いことはままあるから、冷気弱点以外の相手なら大剣のほうが安定するってのはあるよ。それと、このコはゴリラだから。物理攻撃って、だいたい筋力値の一割が基礎威力なんだよね。そこに武器の攻撃力足すわけ」

「てえと……おおよそ6224に、武器攻撃力を加算ってことですかい」

「そうそう。つまり、30って誤差なのよね」

「なるほど」

勇者が振るうと、伝説の聖剣より自分の大剣のほうが強い——その事実はシュミットの心に誇らしさをもたらしてくれたが、それはエディが重たい武器を使いこなすためのスキルに特化しているからであって、最初からエクスカリバーをメイン武器にしていたら、べつのスキルを取っていたのではなかろうか、という気もしてきた。

たとえば、重量10以下の武器なら二回攻撃できるスキルとか。

「どちらにしても、火の四天王ヴァルバーンとの戦いでは、冷やしエクスカリバーが特効を発揮するでしょう。持っていくのは決定事項」

ルビータがそう言って、話を締めた。

エディはといえば、まだ乗り気でないようだ。

「ヴァルバーン倒すまでだけだからね、冷やしエクスカリバー使うのは」

「……エディさん、どうしてそんなに冷やしエクスカリバーを避けるんですか?」

ついにシュミットがぶつけたその質問に対し、勇者は真顔で答えた。

「ぼく……冷え性なんだ」

ちゃんちゃん