軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

034 面倒な輩

光が収まった時――マジックアイテムの上には『レベル:44』という数字だけが浮かんでいた。

一瞬、ギルド内全体が沈黙に包まれる。

しかしほんの数秒後、一斉に笑い声が沸いた。

「あはははは! 見ろよ、あれだけ粋がっておきながら、たった44だぞ!」

「場違いにも程があるな!」

「たまにいるんだよな、ああいう勘違い野郎」

「はばっ、これまでどれだけレベルの低い田舎にいたんだか!」

そのほとんどが、俺のレベルを馬鹿にするものだった。

……まあ、そうなるのも当然だろう。

俺自身、この展開はさすがに予想してなかったからな。

まさか能力判定機が、レベルしか読み取ってくれないとは思っていなかった。

通常ならそれだけでも十分に実力が分かるんだろうが、俺の場合は例外だ。

成長の経緯がかなりイレギュラーだったからな。

本当の実力がバレなかったことに安堵するべきか、必要以上にレベルを低く受け取られたことを面倒に思うべきか……

そんなことを考えていると、目の前にいる受付嬢が困った表情で続ける。

「あ、あの……申し訳ありませんが、このレベル帯では本ギルドで活動するのは難しいと思います。依頼を受注するにも最低レベルの制限がありますので……」

受付嬢の発言はもっともだ。

俺は対応を少しだけ考えた後、彼女に疑問をぶつけた。

「依頼以外の部分――魔物の素材や迷宮資源の売却にも、制限はあるのか?」

「えっ? い、いえ、高ランク冒険者になると少しだけ査定額が高くなることはありますが、売却自体に制限はありません。冒険者であれば、どなたからでも受け付けております」

「それなら問題ない。登録を進めてくれ」

「わ、分かりました。それではお名前をお伺いしてもよろしいですか?」

……名前か。

今後のことを考えれば、偽名を使っておいた方がいいかもしれない。

少なくともアダムは俺の名前を知っているわけだし、調査途中で変に勘付かれるのも面倒だ。

問題があるとすれば、いい偽名がパッとは思いつかないことだが……

その時ふと、俺の脳裏にネクロ・デモンの姿が過った。

「……シモンだ」

結果、俺の口からは自然とそんな名前が出た。

元の名前から少しもじっただけだが、同一人物と思われることはないだろう。

「シモンさんですね! いまカードを作成するので、少々お待ちください!」

偽名を聞いた受付嬢は、冒険者カードの作成に入る。

少しだけ手持無沙汰になっていた、その時だった。

「おいおい、それはよくねえなぁ兄ちゃん! そんなゴミみたいなレベルでこのギルドに登録するだと? うちの評判を落とすつもりか!?」

「…………」

ギルド内にいた一人の冒険者が、そんな大声を張り上げた。

年齢は30代半ばだろうか。背は高く、筋肉質な肉体が特徴的な男だ。

漂う気配からしてアルト以上、ネクロ・デモン(1000レベル個体)以下といったところだろう。

男は俺がギルドに所属するのが気に食わなかったのか、それともまた別の目的があるのか、意地の悪い笑みを浮かべながら近づいてくる。

そしてそのまま、俺の右肩にポンッと手を置いた。

「仕方ねぇ。現実が見えてねぇテメェみたいなクソガキには、この俺様が直々に指導してやるよ」

続く言葉からは、明確に俺を傷付けてやろうという敵意を感じた。

だからこそ俺は、

「おい」

「あん? なんだ、その口の利き方は――」

その男に、敵意をそっくりそのままお返しする。

何倍にも、 そ(・) れ(・) を膨れ上がらせて。

「手を、離せ」

「――――ッ!?」

それだけで十分だった。

俺の敵意を真正面から受けた男は、目を見開いた後、震える足で無意識に後ずさる。

当然、その拍子に手も俺の肩から離れた。

「大変お待たせしました! こちらがシモンさんの冒険者カードに……あれ? 何かありましたか?」

「いや、何でもない。ありがとう」

タイミングよく戻ってきた受付嬢から冒険者カードを受け取ると、俺は踵を返し出口に向かう。

受けられる依頼もない以上、このギルドに留まる理由もない。

さっさとダンジョンの攻略にでも向かう方が、よっぽど効率的だろう。

「テ、メェ……」

背中に向けられた弱々しい敵意と呼びかけを無視し、俺はそのままギルドを後にするのだった。

◇◆◇

シンがギルドから出ていった後。

男は必死に、体の震えを止めようとしていた。

脳裏には、先ほどシンから向けられた鋭い視線が過る。

(何だ、今のは? レベルからして、アイツはただの雑魚なはず。なのにこの俺様が気配に圧されただと……?)

意味が分からず困惑する男のもとに、数人の冒険者――取り巻きが近づく。

「珍しいですね、フールさんが生意気な新入りにお灸をすえないなんて」

「何か思うところがあったんですか?」

その問いにどう答えるべきか、男は考えた。

まさかあんな低レベル相手に恐怖を抱いたなど、とてもじゃないが説明できない。

「あ、ああ。さすがにアレだけ弱けりゃ、軽く手を出しただけで殺しちまうかもと思ってよ」

「なるほど! さすがフールさんです!」

適当な言い訳をすると、取り巻きは納得して頷く。

彼らの反応を見るに、シンの得体の知れなさは自分以外感じ取れなかったようだ。

いやいや、と。

男は首を横に振った。

恐らく正しいのは取り巻きたちで、間違っているのは自分だ。

なにせ、あんな低レベル相手に自分がビビるなどありえないことなのだから。

(そうだ、そうに決まっている。それにあれだけレベルが低けりゃ、俺様が手を出すまでもなくダンジョンであっさり死ぬはず……そうに決まってる!)

抱いた恐怖心を無理やり振り払うように、男は――

フール・ ブ(・) ラ(・) ス(・) フ(・) ェ(・) ミ(・) ー(・) は、そう自分を納得させるのだった。