軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

3⇔1 罪(Sin)と罪(Crime)

アルトが力尽きてから、数十分後。

俺――シンは、Cランクダンジョン【蜥蜴の巣穴】の外に出ていた。

ある一人の少女を連れて。

「んんっ……」

すると、まるでタイミングを見計らったかのように彼女――赤髪の少女、クリムがゆっくりと目を開けた。

「ここは……? ダンジョンの外? いったい、何が……」

クリムは状況を確かめるようにきょろきょろと周囲を見渡す。

そんな中、彼女の視線は俺に止まった。

しばしの沈黙のあと、クリムはその目を大きく見開く。

「――!」

警戒した様子で、バッと立ち上がるクリム。

気絶するまでの出来事を思い出したのだろう。

彼女は怒りを隠す素振りも見せず、俺をキッと睨みつける。

「そうでした、私は貴方の攻撃で意識を失って……っ! そうです、他の皆は――」

「俺が殺した」

「――え?」

時が止まったように、クリムはぴたりと動きを止める。

そんな彼女に現実を突きつけるように、俺は続けて言った。

「セドリックだけじゃない。ガレンも、シエラも、アルトも……全員、俺がこの手で最大の苦痛を与えて殺してやった」

「そん、な……」

クリムにとって、それはあまりにも衝撃的だったのだろう。

両足はぷるぷると震え、呼吸が荒くなる。

それでも今、この場所に俺とクリムが二人でいるという状況が、その事実を完膚なきまでに証明していた。

弱弱しい声で、クリムは告げる。

「どう、して……そんなことを……アルトさんたちは、私の恩人です。居場所がなかった私に、生き方を教えてくれた優しい人たちです……なのにどうして、そんな人たちを殺したんですか!?」

「………………」

回答に、少しだけ悩んだ。

ここでクリムに対し、かつてアイツらが俺にしたことを教えるのは簡単だ。

しかしそれで、果たして彼女は信じるのだろうか。

今のクリムは、かつての――二年前、アルトたちに裏切られる前の俺だ。

俺だって、あの瞬間まではアイツらのことを心から尊敬し、信頼していた。

仮にそんな状態で、今回のような襲撃者による復讐が起きたとしても、俺が襲撃者の言葉を信じることはなかっただろう。

だとするなら、クリムだって同じだ。

いくら俺が懇切丁寧に説明しようと、そこに意味はない。

ゆえに――

「さっきも言った通りだ」

「え?」

「お前に、わざわざそれを語る筋合いはない」

「――――ッ!」

切り捨てるような俺の言葉に、クリムは目を見開いた後。

これ以上ない怒りの形相を浮かべた。

「……してやる」

「何だ?」

「殺してやる! 貴方だけは絶対に、私が!」

それは紛うことなき殺意。

そして復讐の宣言だった。

どこまでも、嫌になるほどあの日の俺を彷彿とさせられる。

もっとも、立場だけはこうして反転してしまったわけだが。

でも、これでいいのかもしれない。

突如として寄る辺を失った彼女にとって、 復讐(それ) が新しい生きる目的になるのであれば。

アイツらから騙されていたという意味では俺と同じ立場にあるクリムが、不必要に死んでほしいとまでは思わないからな。

だからこそ、俺は――

「――そうか」

「ッッッ!?!?!?」

あえてここで、全力の殺気を放った。

それを受けクリムは、耐えることができずその場に膝をつく。

続けて、俺はクリムに告げる。

「その様子では、とても叶いそうにはない願いだな」

「……っ! だま、れ! 私は、絶対に、諦めない……!」

それでも、彼女の瞳に宿る意思は死なない。

もしかしたら本当に、いつの日か復讐にやってくる時が来るかもしれない。

そんなありもしない未来を、俺は幻想した。

俺はその場で踵を返す。

「じゃあな」

最後に別れの言葉を残し、俺は前に足を踏み出した。

後ろからはクリムの殺意を感じるが、気にせず歩を進めていく。

――しばらく歩き、クリムとも十分な距離が開いた後。

俺は改めて、今後について考え始めた。

今回の復讐で得た新たな情報。

それは、全ての始まりがアダムだったという事実と、その裏に潜むブラスフェミー公爵家という存在。

ヤツらもアルトたちと同じ目に遭わせなければ、この復讐は終わらない。

復讐を効率的に行うためにも、俺は拠点を代えることにした。

アダムの行方は不明だが、少なくともブラスフェミー公爵家に関してははっきりとしている。

まずはそこを目指すべきだろう。

それに、もう一つ。

俺には気になっていることがあった。

「…… あ(・) の(・) 声(・) だ」

【黒きアビス】の最深部にて。

無限に攻略報酬を受け取り続ける俺に対して降り注いだ幾つもの声。

あの声はこう言っていた。

『神の裁きが、必要である』――と。

それが何を指し示しているのか、今の俺にはまだ分からない。

しかし、また同じようにダンジョンの攻略を続ければ、何か分かる日がやってくるかもしれない。

そのためにも、次の目的地は都合がよかった。

俺は歩を進めながら、ゆっくりとその目的地を口にした。

「――迷宮都市【トレジャーホロウ】。そこが、新しい復讐の舞台だ」

かくして、プロローグは幕を閉じる。

本当の意味での俺の物語は、ここから始まるのだった。

『外れスキル【無限再生】が覚醒して世界最強になった』 第一部 完