軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

084 白亜の門からの忠告

「──説明は以上になります」

コナツはそう締めくくると、皆を順に見回した。

「開始前に、何か質問などはありますか?」

「一つ、確認させてくれ」

コナツが問いかけた直後、エリーゼが小さく手を挙げた。

「どうぞ、エリーゼさん」

「サキ側の召喚獣は、そのエルフと、その……門と像だけと考えていいのか? 彼女は召喚士ということだが、試験中の追加召喚も認められているのか?」

その問いに、レグは小さく息を呑んだ。

言われてみれば、当然確認すべきことだった。

戦いにおいて、数は力。

それは、火を見るよりも明らかだ。

一騎当千の個は確かに存在する。

だが、それは例外中の例外であり、実際の戦闘において、数の差は無視できない要素になる。

仮に一対一の力量で勝っていても、数で劣れば基本的に不利になる。

どれほど優れた個であっても、体力には限界があり、疲労も蓄積するので、継戦は困難となるからだ。

つまり、この状況──数の上では勝っているように見える現状は、レグたちにとってかなり有利なはずだった。

あのエルフと像を戦力として数えると、二対六。

二人がかりで片方ずつ押さえても、なお二人が余る。

その間に、あの召喚士──サキ本人を狙えばいい。

だが、もしここに新たな召喚獣が増えるのであれば、話は大きく変わってくる。

エリーゼは、それを確認しようとしたのだろう。

「はい、当然認められています」

コナツの返答に、エリーゼはやはりと言わんばかりに小さく頷いた。

「……ということは、突然、剛体種ゴブリンやザラスト級の相手が増える可能性があるというのか」

エリーゼの呟きを聞いた瞬間、レグは目の前にぶら下がっていた第六天位が少し遠のいたような気がした。

剛体種ゴブリンやザラスト・ザラメイヤ──おそらく自分たちより上の実力を持つ個体を、事もなげに召喚してくる。

もしそんなことが可能なのであれば、勝てるわけがない。

「いやいや、流石にそんなことはできないんじゃねえか?」

カイルは引き攣った笑みを浮かべていた。

その声にはわずかに願望が混じっているようにレグには感じられた。

「カイルはキライだが、そこは同意する。召喚には疎いが、相応の魔力が必要なはずだ。ザラスト・ザラメイヤや剛体種ゴブリン級の存在を、何の準備もなく何体も出せるとは考えにくい」

「一言多いねえ。……まあでも、そこは俺もそうであってほしいね」

カイルは肩をすくめる。

だが、そんな軽い仕草とは裏腹に、顔はあまり笑っていない。

レグもまた、二人と同じように考えていた。

普通に考えれば、自分たちと同等──いや、それ以上の存在を、気軽に、際限なく増やせるはずがない。

「(……というか、それほど軽々しく召喚されたら、自分たちの存在意義が……)」

準備もリスクもなく、息を吐くように自分たち以上の存在を召喚できる──もし本当にそんなことが可能なら、自分たちがこれまで積み重ねてきた鍛錬や経験、努力、その全てが何もかも馬鹿馬鹿しくなってしまう。

「もう彼女だけで良いんじゃないか」……と。

そんなレグたちの思いなど知る由もなく、サキは真剣な表情でうーんと唸っていた。

「モーリー、どうしようか? モーリーに戦ってもらうつもりだけど、念のためゴブリンズを二、三体くらい召喚しとく……?」

そのあまりにも軽い相談は、当然、レグたちの耳にも届いた。

「……できる……みたいだな……」

「……そのようだ」

サキの今の口ぶりは、切り札を使うようなものではなかった。

ただ、必要なら少し数を足しておこうか、という程度の軽さだった。

「二、三体って……普通のゴブリン、じゃねえよな」

「そうね。この流れで普通のゴブリンを出すとは思えないし」

「ははっ……冗談……であってほしいねえ」

カイルたちの引き攣った反応をよそに、サキは白亜の門とのやり取りを続ける。

「……分かった。まあ、モーリーの力も見てみたいし、今回はなしでいこっか」

どうやら、開始前の召喚は行わないらしい。

その判断に、レグたちは内心でわずかに息をついた。

「承知しました。開始前の召喚はしないということで。まあ、試験中の召喚も可能ですので」

「はい! 分かりました!」

サキはこくこくと頷いた。

「それでは、両陣営は開始位置へ移動してください」

コナツの言葉で、場の空気が切り替わる。

サキは白亜の門と像の近くへ移動した。

その横には、金髪のエルフ──アルテミスと呼ばれていた召喚獣が静かに付き従う。

「……あのエルフ、気を付けろ」

ソノイチがぼそりと呟いた。

「気を付けろって言われてもなあ」

「一言も喋らねえ、武器も持ってねえ。……手の内が分からねえな」

「不気味ね。相手が丸腰って」

彼女について、レグたちが持っている確かな情報はほとんどない。

噂らしい噂も聞いたことがなく、武器を持たぬその立ち姿からは、戦闘スタイルの予測もつかない。

ただ、サキの傍らに控えているだけだ。

「……とりあえず、あのエルフと──像には要注意だな」

白亜の門、そしてその傍らの白亜の像──そのどちらも、今はただ静止している。

それは本来当たり前のことなのだが、それが、かえって不気味だった。

レグたち六名も、サキたちと向かい合うように距離を取る。

誰かが指示を出したわけではない。

だが、自然とそれぞれが位置を取っていった。

前衛にレグとアッシェ。

その後ろに、カイルとソノイチ。

さらに後方に、エリーゼとディガル。

即席にもかかわらず、六人は奇妙なほど自然に隊列を組んでいた。

コナツが両陣営の位置を確認し、そして開始宣言のために片手を上げようとした。

──その直前だった。

「あのー……」

サキが遠慮がちに声を上げた。

コナツの手が止まり、レグたちの視線もサキへ集まる。

サキは困ったような、気まずいような顔をしながら、白亜の門を見ていた。

「なんかモーリーが先にルールを伝えておいてほしいらしくて……これを読むの?」

「(……ルール?)」

レグには意味が分からなかった。

試験のルールなら、今しがたコナツが説明したばかりのはずだ。

サキはためらいつつ、門に浮かんだらしい文章を何度か目で追った後、観念したように息を吐いた。

「……えっと、じゃあ、とりあえず読みますね。モーリーからの伝言です──

彼を見ざる者、神速の接近あり。

彼を見ざる者、裁きの拳あり。

彼を見ざる者、一切の勝ち目なし。

我に挑む者、天より落つる光の柱あり。

我は門であり、番人であり、天界を守る古き奏者なり。

我に挑む者、光の律動を読み、我が門前へ至ってみせよ。

ただし、片時も彼から目を離してはならない。

目を逸らした者は──

まあ、かなりクールな勢いで殴られると思うよ:)

──とのことです……!!」

……読み終えた瞬間、訓練場に何とも言えない沈黙が落ちた。

「……な、なんだ?」

「意味が分からないわ……」

「…………」

カイルたちの反応に、サキはみるみる顔を赤くし、白亜の門へと詰め寄る。

「も、モーリー……!!! やっぱりいきなりこんなこと言っても変な人扱いされるって!!!」

サキがそう抗議する中、ソノイチがぼそりと呟く。

「像から目を離すなということか」

「……え、そういうことなのか?」

「なるほど。確かに”彼”が像のことであれば、そうなのかしら」

「じゃあ像から目を離すと、どうなるんだ?」

「それはやってみなければ分からない、ということだろう」

レグは白亜の像を見た。

汗を拭うようなポーズで固まったままの像──あれから目を離すとどうなるのか。

「──いいから早く始めねえか?」

皆の視線が像に集中する中、後方からディガルの苛立った声が響く。

「ルールが何だか知らねえが、この試験のルールはただ一つ。あいつに一撃でも当てれば勝ち、だろ」

「それもそうね。このルールもハッタリかもしれない」

「その線はある。像に注目を集めさせて、召喚士自身を狙われないようにする」

「……でも、あの子、裏が無さそうに見えるんだがなあ。こういう時の俺の勘は当たるんだぜ?」

「知らん。死んでくれ」

「…………」

「それでは、改めまして」

カイルが黙り込んだところで、コナツが小さく咳払いをした。

その声に、散りかけていた注意が再び中央へ戻る。

コナツは一度だけ深く息を吸った。

そして、訓練場に響く声で告げる。

「第四天位昇格試験、開始です」

こうして、異様な第四天位昇格試験が始まった。