作品タイトル不明
053 黒塔の研究者集団①
翌日のこと。
ギルドルーム一階には、私とアルテミス、それからパンさんがいた。
私とアルテミスは楽しくお喋りしてたけど、パンさんは相変わらず書類の山を片付けていた。
グランベルジュが急に大きくなったせいで、ギルドマスターの仕事量がとんでもないことになっているらしい。
そんなとき、二階からリンドールさんの声が。
「皆さん、これ何でしょうか?」
そう言って降りて来たリンドールさんの手には、鉄のトレイ。
その中には、昨日召喚した透明なスライム──ガラスラくんの姿があった。
「これ……って、どれや?」
「これですわ」
リンドールさんは共用の大テーブルまでやってくると、そっと鉄のトレイを置いた。
それから、すっと一点を指差す。
その先を覗き込んでみると──ガラスラくんの透明な体の中に、確かに何か塊のようなものが沈んでいた。
「何って──ガラスラがなんか変なもんでも体に入れたんちゃうか?」
「いえ、わたくしの錬金部屋にこのようなものはありませんわ。つまり、ガラスラさんが自ら生み出したのだと思いますわ」
「ガラスラくんが、自ら……?」
スライムと固形物で思い出すのは 粘魔核(スライムコア) だけど、それとはちょっと見た目が違うなぁ。
透明な白銀色の、何だか、ガラス細工みたいな感じ。
「うーん、見たことないね。アルテミス、何か思い当たるものある?」
「私もありません。少なくとも、普通のスライムから出るものではなさそうです」
「せやな。そもそも普通のスライムとちゃうしな、コイツ……」
それは本当にそう。
召喚した私本人ですら、ガラスラくんがどういう子なのか、まだよく分かっていない。
ゴブリンが”剛体種ゴブリン”だったように、きっとこの子も異常個体なんだろうけど……。
……どうやら、この場にいる誰もそれが何なのか分からないみたい。
こういうときは、もう素直に本人に聞いてみよう。
「ねえねえ、ガラスラくん。これって何かな?」
私はガラスラくんに顔を寄せると、体の中にある透明な塊を指差してみた。
すると、言葉が通じたのか、ガラスラくんがもぞもぞと動くと、その塊を体外に吐き出した。
「なんや、サキはんの言葉が分かるんか。賢いなぁ」
「そうなのです。わたくしの言葉も伝わるみたいで……ある程度、言うことを聞いてくれるのですわ」
「それにしても、何やろこれ……」
パンさんは吐き出された塊を指先で摘まむと、まじまじと眺めた。
「うーん、ちょっと気になるとこやね。危険なもんやったらあれやし」
「そうですわね……。失敗作から生み出されたものだとしたら、何か有害な性質を持っている可能性もありますわ」
「よし、ほんなら黒塔の連中に聞いてみよか!」
「黒塔……?」
「”黒塔の研究者集団”──古代遺物やら禁制品やら、そういうきな臭いもんばっかり調べとる連中や。名前の通り、五大ギルドの黒── 黒冥府(ニュクス・フロント) とも繋がりがあるらしいわ」
パンさん曰く、彼らは”黒塔”という街の一角にある大きな黒い塔にこもって、日夜あやしい研究をしているんだとか。
かなりの秘密主義で、詳しいことはほとんど外に出てこないらしい。
そう言えば、前にレストランから街を眺めたとき、遠くにそんな塔が見えていた気がする。
あれがそうだったのかな。
……話を聞く限り、できればあんまり関わりたくない相手ではある。
でも、こういう正体不明のものを調べさせたら右に出る者はいないみたい。
だったら、頼る先はひとつだ。
というわけで。
私たちは、その謎の塊を調べてもらうために黒塔へ向かうことになった。