作品タイトル不明
051 ガラスのようなスライム
庭へ移動した私とリンドールさん。
よし、早速スライムを召喚してみよう。
……あまりにも久しぶりだから、一応『ステータス』でスライムを召喚するスキルを確認する。
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【低魔召喚Ⅰ】 スライム、ガルムを召喚できる。
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うん、【低魔召喚Ⅰ】だね。
スライムを召喚するのに必要な魔力は6。
昨日今日とマナエーテルを飲んでいたのもあり、今の私の魔力は30もある。
余裕で召喚できそうだね。
というわけで。
「では、召喚します!」
「お願いしますわ」
「【低魔召喚Ⅰ】──スライム!」
私の詠唱に呼応するように、透き通った魔法陣が展開される。
そこから現れたのは──ガラスのような透明なスライムだった。
「……なんですの? このスライムは」
「……さあ?」
「どうして召喚したサキさんが分からないんですの!?」
そうは言っても、いつもこうなんだよね……。
だって私の【運】の効果だから、どんな子が出てきてくれるのか予想もつかない。
でもこのスライム、見た目がガラスみたいなだけで、剛体種ゴブリンみたいな”いかにも”な異常個体じゃなさそう。
動きもぷよぷよしてるだけでダンジョンで見たスライムと変わらない。
……ただキレイな色をしたスライムだったり?
透明種スライム、みたいな。
「……まあキレイですし良いですわ。これなら、錬金部屋に居ても様になりますわね」
「錬金部屋に置くんですか?」
「そのつもりですわ。失敗作をその場で処理してほしいので」
なるほど。それなら【 召喚権限委任(サブマスター) 】をしておいた方がよさそうだね。
後でやっておこう。
「それでは早速ですが、失敗作を与えてみますわね」
リンドールさんは手に持った失敗作を、ずぶっとガラスのようなスライム──ガラスラくんに突っ込んだ。
その瞬間──
「きゃあっ!?」
「あっつ!?」
ガラスラくんがまるで加熱されたかのように、急に真っ赤に!
しかも、少し離れた位置にいる私ですら分かるほどの超高温!!
思わず尻餅をついたリンドールさんに手を貸して起こし、二人で距離を取りながらガラスラくんを凝視した。
透明だった身体は赤熱したガラスみたいに真っ赤に染まり、揺らめく熱で向こうの景色がぐにゃりと歪んで見える。
見てるだけで、肌がじりじりするほど。
「ど、どうしたのですの? まるで怒ったかのように……」
「あっ、でも見てください! リンドールさんの失敗作を取り込んで……あっ……」
リンドールさんの失敗作が、も、燃えてる……。
「ぎゃああっ!? これじゃあ違法に廃棄物を燃やしてるだけですわ!!! 全然溶かしてない!!!」
リンドールさんが慌ててギルドルームの中に戻っていく。
もしかして、燃やすと有害物質でも出るの!?
戻ってきたリンドールさんの手には、水の入ったバケツ。
「でぇええいっ!」
水をばしゃっとガラスラくんにかけると……
「さむっ!?!?」
ガラスラくんの赤みが一気に引いて、今度は冷え切ったガラス──いや、霜をまとったすりガラスみたいな見た目に変わった。
周囲には白い冷気が立ち上るほどの低温で、さっきまでとは大違い。
「ど、どうなってるんですの!?」
「い、いやあ、私にもさっぱり……」
水をぶっかけられた衝撃で、ガラスラくんはいったん失敗作を取り込むのをやめ、ぴたっと固まっていた。
でもやがて、じわじわと失敗作へ身を寄せていき──
「また熱っっ!?!?」
「ああっ、全部取り込んでしまいましたわ……」
ガラスラくんは失敗作を全て取り込むと、再び真っ赤な身体に変化して、消化を続ける。
そして、そのまま消化を終えてしまった。
「ど、どういうことなの……?」
「高温になったり、低温になったりするスライム……聞いたことありませんわね……」
「と、とりあえず一旦冷ましましょう!」
離れていても分かる、この子、超高温!!!
このままだと新しいギルドルームが全焼しかねない……!
急いでバケツに水を入れて持ってくる。
……ここで慌てて水をかけると、今度は超低温になってそれはそれで困るので、
ちょっとずつちょっとずつ水をかけてあげる。
──すると、ガラスラくんは徐々に体が透明に戻っていき、普通の温度に戻った。
「ふう、これで一安心ですわね」
「というか、大丈夫ですかね……? ちょっと煙が出ちゃってましたが……」
「……まあ、黙っていればバレませんわ」
「……私も見なかったことにします」
”ガラスラくんが上手いこと消化して、錬金失敗作はキレイに処理できた”んだよね。
うん、そういうことにしておこう。
それよりも……。
「これじゃあ錬金失敗作の処理ができないですね……」
「そうですわね……」
二人でガッカリしていると、ちょうど帰ってきたパンさんとペールルージュさんが庭にやってきた。
「おー、二人とも庭でどないしたんや──って、なんやこのスライム!?」
「あっ、二人ともおかえりなさい! 実は……」
私はかくかくしかじかと、これまでの経緯を二人に説明した。
「透明なスライム……聞いたことないわね」
「なるほどなぁ、錬金失敗作で超高温になって、水をかけたら今度は超低温になる……謎やな」
「そうなんです……。消化はできてそうなんですけど、燃えちゃうと煙が出るので……」
「当初の目的を達成できない、っちゅうわけか」
「そうなりますわね……。どうにか、高温にならないようにできればいいのですが……」
「……それなら、水に浸したままにしてみたら?」
「──なるほど!!」
流石、ペールルージュさん!
頭がいい……!
私たちは早速、適当な鉄のトレイに水を入れて持ってくる。
この中にガラスラくんを入れた状態で、錬金失敗作を与えてみるわけだ。
まずは、ガラスラくんを抱きかかえる。
水の入ったクッションみたいな、なんか不思議な感触……。
そして、ガラスラくんを鉄のトレイに入れると、再び超低温になった。
「さっむ!! ほんまに寒なるんやな……」
「不思議なスライムね……これも異常個体なのかしら」
寒さに両腕をさするパンさんの横で、ペールルージュさんは顎に手を当てて何か考え込んでいた。
「とりあえず、錬金失敗作を与えてみますわね」
リンドールさんは鉄のトレイの上でぷるぷるしているガラスラくんに、恐る恐る錬金失敗作を突っ込んだ。
──すると、ガラスラくんは周囲の水を消費しつつも、高温になることなく錬金失敗作を消化し始めた。
「おっ、これは上手くいっとるんやないか?」
「そうみたいです! さすがペールルージュさん!」
「ふふっ、ありがとう」
「やろ? ルルはグランベルジュの頭脳担当やからな!」
「なんでパンが得意気なの」
そんなやり取りをしている間に、ガラスラくんは無事に失敗作を消化し終えたみたい。
リンドールさんがほっと息をついた。
「──ふう、上手く行きましたわね! これで部屋にある何百個の失敗作を処理できますわ!」
「何百個!?!? 何回失敗しとんねん!」
ま、まあドロップアイテムの減り方的に、それくらい失敗しててもおかしくないよね……。
その後、【 召喚権限委任(サブマスター) 】でガラスラくんの権限をリンドールさんに委譲し終え、リンドールさんは嬉しそうにガラスラくんを抱えて錬金部屋に戻っていった。