軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

027 ヴィオラが見たもの

中央での顔合わせが終わり、ヴィオラは踵を返しつつ、違和感を覚えていた。

「(あのエルフが召喚獣……?)」

エルフを召喚すること自体、珍しくはない。

ゴブリンを召喚するように、亜人種を召喚獣として扱うことはある。

「(パラッパ・レードの話が本当なら、あのエルフが相手の切り札。でもそれを召喚できるってことは……)」

ヴィオラは召喚士ではないため、詳しいことは分からなかった。

もしかしたら一度きりの召喚だったのかもしれない。

そう簡単にはまた召喚できないのかもしれない。

しかし。

「(もし、あのエルフを何体も召喚できるのだとしたら……)」

ヴィオラに悪寒が走る。

──そんな彼女とは対照的に、レードが背後で機嫌良さげに鼻歌を鳴らしていた。

「レードさん、浮かれすぎじゃない? これから本番なのよ?」

「いやいや、だってさ、烈火のオルダンいないんすよ? こっちは108で、向こうは9って──勝ち確じゃん!」

横からクランクが「まあまあ」と笑い、腹を揺らした。

「油断はいけませんが、そうですな。数は正義ですし、他の面でもこちらが圧倒的です。我々には建造物もありますしね」

「そ、そうよね……」

ヴィオラは前方にある自陣を確認する。

黄歯車団(イエロー・ギア) の建造魔法で作られた簡易の城塞。

盾兵が列を作り、弓兵が適切に配置され、騎兵が待機している。

急造の同盟にしては、配置が整っていた。

見た限り、相手に乗騎はない。

あのエルフが如何に強くても、向こうがこちらに向かってくる間に相手のギルドマスターを叩けばいいだけだ。

ギルドバトルの開戦を見届けた後、建造物に隠れておけば問題ない。

そう考え直し、ヴィオラは胸のざわめきを無理やり押し込めていた時だった。

「……ん?」

向こう──グランベルジュの陣営が妙に騒がしい。

距離があり、何をしているのか詳細は見えない。

ただ、あの少女──サキが何かを装着しているように見える。

「何しているのかしら……あれ……」

ヴィオラが呟くと、レードが肩をすくめた。

「最後の悪あがきじゃないすか? お守りでもつけてんじゃん?」

その軽さが、ヴィオラには不快だった。

「……あのエルフにだけは油断しないで。なんだか普通じゃない。それに──」

「はいはい、分かってますって。だから同盟も組んだんじゃん?」

レードが笑う。

「(……この男に指揮を任せていいのかしら)」

ヴィオラは弓の腕で恐れられているが、全軍指揮の経験は薄い。

クランクは職人気質であり、指揮に向いているとは言い難い。

となると、レードが指揮を執ることになる。

だが、彼には同盟ギルドの部隊を細かく動かすほどの統率力はないように、ヴィオラには見えていた。

陣に戻ると、誰かの叫び声が聞こえてくる。

「さあさあ、配置につけー!」

パラッパ・レードの団員だ。

すると、 紫羽の庭(パープル・フェザー) が「勝手に命令するな」と噛みつく。

黄歯車団(イエロー・ギア) は「城塞の近くに集まりすぎるな」と注意する。

言葉が三方向からぶつかり合い、陣は開始前からざわついていた。

「(急造の同盟なんてこんなものよね……)」

ヴィオラの中に嫌な予感が渦巻く。

正直、こちらの雰囲気は良いとは言えない。

パラッパ・レードの軽さ。

紫羽の庭(パープル・フェザー) の気難しさ。

黄歯車団(イエロー・ギア) の無関心さ。

どれが原因かは分からないが、何だか浮ついている。

それでも勝てるはず──ヴィオラは自分に言い聞かせ、落ち着かせる。

開始の時刻が近づき、ざわめきが増した。

──その瞬間。

「……え?」

ヴィオラの目に映った光景。

相手の陣営に、連続して、短い間隔で、大量の魔法陣が展開される。

「(召喚……? いや、こんなテンポで……?)」

一瞬の静寂の後、自陣営に大きなざわめきが起こる。

ヴィオラの背筋が強張る。

──もし、あのエルフを何体も召喚できるのだとしたら。

そんな最悪の想像が、ヴィオラの思考を塗りつぶす。

だが、魔法陣から現れたのは、エルフではなかった。

「……ゴブリン?」

誰かが呟く。

ヴィオラが目を細めた。

「(──ただのゴブリンじゃない……)」

体躯が大きい。

肩幅が異常だ。

筋肉の輪郭が鎧みたいに浮いている。

「──あれって、まさか」

数が増えるたび、前線の空気が重くなる。

「え、なにあれ……」

「ゴブリンだよね……?」

「ちょ、ちょっと待って、あれ“剛体種”じゃ……?」

ざわめきが波のように膨らむ。

ヴィオラは反射的に数を追うが、追いつかない。

十、十一、いや、もっと──。

開始のゴングが鳴った。

その瞬間、ゴブリンたちが二人一組になり、隊列を作るのが見えた。

「(な、なに……?)」

ヴィオラが気づいた瞬間、片方のゴブリンが、相方を持ち上げ、投げた。

大木のような腕で、剛体種を、投擲武器のように。

「……は?」

次の瞬間。

──ずどん。

砲弾のように飛来したゴブリンが、前線の隙間に落ちた。

地面が揺れ、砂が舞う。

悲鳴が一つ上がるより早く、そのゴブリンは立ち上がり、目の前の冒険者を拳で殴り飛ばした。

人が宙に舞った。

「うわぁぁぁぁ!?」

「何だこれ!!」

「止めろ! 弓! 弓撃て!」

叫びが重なった瞬間、第二弾、第三弾が降ってきた。

──どすん。

──ずどん。

──どがん。

彼らが着地した箇所から、悲鳴とともに陣の秩序が崩れていく。

「守れ! 砦へ下がれ!」

「下がるな! 押し返せ!」

「城塞の中に入られたらマズいぞ!」

三つの命令が、同時に飛んだ。

同時に飛んだ命令は、命令にならない。

「(まずい……!)」

ヴィオラは弓を引き、落下直後の剛体種に一瞬で狙いを定めて射る。

──矢は剛体種の肩口に突き刺さった。

刺さった、だけだ。

巨体は微動だにしない。

振り向いたゴブリンが、矢を掴んで引き抜き、指で折った。

そして、笑った気がした。

「(そ、そんな……!? 硬い、硬すぎる……!!)」

ヴィオラが驚愕する暇もなく、新たなゴブリンが飛来する。

「避けろォ!」

声が上がるが、避けられない者がいる。

そして着地とともに、ゴブリンは近くの冒険者を掴んで投げ飛ばした。

そんな地獄のような光景に、ヴィオラの脳裏には、中央で見た少女──サキの顔がよぎる。

「(何なのよいったい!!)」

どこからどう見ても普通の少女だった。

特別な力を持っているように見えない。

膨大な魔力も感じられない。

なのに、この光景は彼女が作っている。

「レード! 隊が崩れてる! 指揮をまとめて!」

ヴィオラは叫ぶが、レードは呆然としていた。

余裕の笑顔が剥がれている。

「え、いや、だって……こんな……」

「今は驚いてる場合じゃない!」

そんな混乱の中、一人だけ、心底楽しそうな少女──第六天位の冒険者、アマリリイの姿があった。