軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第65話 ニックと孤児院

(げっ、マジか……)

「こんにちは、ニックさんでしたでしょうか? その節はどうも」

声を掛けられたミズトは無視をするわけにもいかず、仕方なく世間話を始めた。

「ああ、『草原の風』のニックだ。君はソロ冒険者の、ミズト君だったかな?」

「はい、よく私の名をご存知で」

「この町の冒険者でキミを知らない冒険者なんていないさ! なにせ昇級最短記録を次々に塗り替えた有名人だからね!」

(そうなの!?)

「いえ、有名なんてとんでもありません。まだまだ若輩の身。ニックさんのような先輩を見習い精進していこうと思っています」

「はは、変な謙遜をするんだね、キミは。そんなことよりさっきの話だけど」

ニックは聞いてもいないのに、ダニエルたちについての話を語りだした。

(待て待て! 聞いてないから! 聞きたくないから!)

ミズトは面倒だと思いながらも、傾聴しているフリを続けた。

ニックの話によると、彼はある教会の孤児院に定期的な寄付をしていた。

彼が孤児院出身、なんてありがちな話ではなく、単なる慈善活動の一つのようだった。

それは偽善じゃねえのか? とミズトは言いたかったが、『誰かの役に立つために僕は戦ってるのさ!』と平然と言い切る爽やか好青年に、さすがのミズトも否定する気持ちになれなかった。

もちろん肯定する気にもなれなかったが、少なくともミズトよりは善人であることは認めた。

そんなニックは、貧困に苦しむダニエル兄妹を見るに耐えられず、孤児院へ入るように何度も勧めたようだ。

しかし兄のダニエルが 頑(かたく) なに拒否し、スラム街のような劣悪な環境の中、幼い兄妹だけで暮らしているのだった。

「あんな小さな子たちだ。自分たちだけで生きるなんて間違っているよね? 孤児院に入るべきだと、ミズト君も思うでしょ?」

ニックが真剣な眼差しをミズトへ向けた。

「はい、ニックさんの言う通りだと思います」

(たしかに子供だけはどうかと思うけど、一人一人をいちいち気にしたらキリがねえよ。こういうのは制度でどうにかしないとな)

【そうはおっしゃっても、ミズトさんも定期的に二人を訪れ、クロと遊ばせたりパンや果物を差し上げております】

(そ……そうだった……かな……)

ミズトは自分の意見の矛盾を無視した。

「そうだ、ミズト君! これからキミも孤児院においでよ! ちょうど僕も行くところだったからさ!」

「はい?」

(は? なんでそうなる?)

「キミもダニエル達が気になるだろ? 孤児院がどういうとこか見ておくといいよ! それに、キミの使い魔が人気者になるのは間違いないしね!」

ニックはしゃがんでクロを撫でた。

「ワン!」

(おいおい、クロ。何その気になってんだ……)

「さあ、孤児院はこっちだ! 善は急げって言うしね!」

ニックはミズトの返事も聞かず歩き出した。

何故かクロも彼に続いて行く。

(なんか、俺の休日が潰れそうなんだけど……)

【やることないとおっしゃっていたので、良かったじゃないですか】

(…………)

ミズトはニックとクロの後を追った。

教会の孤児院を訪れると、クロを子供たちと遊ばせている間、ミズトはニックやシスターからひたすら説明を受けるはめになった。

想像していたより建物は大きく、今は五十人の孤児と、神父一人にシスター三人がここで暮らしていた。

孤児院の運営は、教会を訪れる信者からの寄付のみで 賄(まかな) っているが、実際にはニック個人からの寄付がほとんどを占めているようだ。

そのため生活はギリギリで、これ以上の孤児受け入れはかなり厳しい状況なのだが、拒否するようなことはないという。

どんなことがあろうと、苦しんでいる子供たちに手を差し伸べることが、ここの神父の信念なのだそうだ。

ダニエルたち兄妹のことも、スラム街で苦労していると知って、放置するわけにはいかないようだった。

だからと言ってミズトに出来ることは少ないし、なるべく関わりたくなかった。

それでもここまで聞いて何もしないとは言えず、たまにニックと一緒に訪れてクロと子供たちを遊ばせることになり、ついでに1,000Gの寄付をした。

「ミズト君、キミはやっぱり良い奴だったね!」

孤児院からの帰りに、ニックが爽やかな笑顔で言った。

「いえ、そういうわけでは。あくまで出来る範囲でのお手伝いですので」

「いや、それでもさ! 改めて、これからもよろしくね! 僕達『草原の風』は、だいたい『ギール地下遺跡』の地下十五階あたりをメインで活動してるから、いつでも声を掛けてくれ! 何かあれば力になるからさ!」

ニックが握手を求め、手を出してきた。

「ありがとうございます。こちらこそよろしくお願いします」

ミズトはニックの手を握った。

「それじゃ僕は先に帰るよ! また明日からお互い頑張ろう!」

「はい、お互いに」

ミズトは走り去るニックの背中を見送った。

(………………なに、この青春の一ページみたいなシーンは)

【非常に好感が持てる青年です。ミズトさんも素晴らしい演技でした】

(……それ皮肉だよな? もちろん彼が良い奴ってのは間違いないだろうさ。けど、この自己啓発セミナーとか投資セミナーの口車に乗せられたような気分は、マジでモヤモヤする。とりあえず俺のことは放っておいてほしいよ)

【わたしには何とかセミナーは分かりませんが、ミズトさんの行動は間違っておりません。もっと積極的に絡んでいくことをお勧めします】

(ふん、勝手に言ってろ)

今日は休日にしたはずが、いつも通り『ギール地下遺跡』に行った方がマシだったと、ミズトは帰路につきながら思っていた。