作品タイトル不明
第214話 越えた一線
「ところで――――」
ミズトはどうしても気になっていたことを青年に尋ねた。
「他の皆さんは、あなたと同じように『日本卍会』に吸収されたということでしょうか?」
「…………ミズト、君は確か、元々シュンタ君の知り合いだったね」
「はい……」
少し嫌な予感がした。
「死んだのは、うちのクランマスターだけだ……。だからシュンタ君も含め、みんな無事なことは無事だけど…………」
また歯切れが悪い。
だがミズトには青年が言いたいことを読み取れず、次の言葉を待つように観察していると、彼がある方向に視線を送っていることに気づいた。
そこには他とは色の違う大きめのテントがあり、青年は明らかにそこを意識している。
ミズトはそのテントの中の気配を探ると、覚えのある三人の気配を感じとった。
「!?」
(エデンさん、あの中から感じる気配は、シュンタで間違いないか?)
【はい、あのテント内には『オヤジ狩り』『戦慄の乙女』『北海道フェア』三つの元クランマスターがいらっしゃいます】
(…………)
「ウィルさん、大変申し訳ないのですが、用事ができたので皆さんを連れて先に行ってもらえないでしょうか?」
ミズトは表情を崩さずにウィルに言った。
「先に……? 分かった、こちらは気にするな。ミズトは自分のやりたいことをやるんだ」
「ありがとうございます」
「だが、一つだけ言わせてくれ」
ウィルはミズトの肩に手を置いた。
「いいか、ミズト。お前は何があっても誰かを殺したりするな。それだけは約束してくれ」
「…………分かっています。私はごく普通の人間です。私がいた世界では、普通の人間は誰かを殺したりしません」
ミズトはこの世界の法律なんて知らない。誰かを殺したらどういう罪になるのかも分からない。
だが、ミズトにとって誰かを殺すことは、法律など関係なく罪なのだ。そんな業を背負って生きていくつもりは毛頭なかった。
ウィルはミズトの言葉に笑顔を返すと、ミズトの肩から手を離し、若者たちを連れて出口へ向かっていった。
「お、おい……、シュンタ君たちのことなら……もう忘れたほうがいい……」
青年は、ミズトの行動を悟って引き留めるように言った。
「お気遣いありがとうございます。しかし、私はナカガワさんにお借りしているものがありますので、ご挨拶してくる必要があるのです」
「み、見ない方がいい……」
ミズトは青年の言葉を無視し、軽く会釈をすると、そのままそのテントへ向かって歩き出した。
間違いなく、シュンタを含め三人ともあの屋敷に住んでいた人物たちだ。
名前を憶えているのはシュンタ・ナカガワだけ。
皆、友人でもなんでもないのだが、このまま素通りすることはミズトには出来なかった。
三人の弱々しくなった気配を、見過ごすことはできないのだ。
*
テントは物資置き場に使われているようで、平屋の一軒家ぐらいある大きさのテントに入ると、武器や防具、食べ物など様々なものが置かれていた。
そして、一番奥の物陰から、三人の気配を感じた。
ミズトは気配に向かってゆっくりと足を進めた。
いつも足元にいるクロは、ミズトの表情を伺いながら何故か戸惑いを見せている。
「……っ!?」
ミズトの足音に気づいたのか、三人が反応したのが分かった。
しかし声は聞こえない。
さらに近づくともぞもぞと動き、ジャラジャラという金属音も聞こえる。
気配を読み取れない者だったら、人間ではなく犬や猫が隠れていると思うだろう。
(!?)
三人を視認できるまで近づくと、首輪をして鎖に繋がれたシュンタ・ナカガワと目が合った。
ミズトに気づいたはずのシュンタは、目をそらし、這いつくばるように逃げていく。
他にも集会所で見た記憶のある二人がいた。
誰も声を出さない。
一人は女性だというのに、三人とも布切れ一枚だけ羽織り半裸に近い状態だ。
(なんて……ことを……)
杖を握る手に自然と力が入る。
よく見ると、三人が這っている理由が分かった。
両手首と両足首の先が切り落とされていたのだ。
「ナカガワさん……」
ミズトが声をかけても、シュンタはミズトを見ず、顔を伏せたまま震えている。
他の二人も、ミズトを知っているはずなのにミズトを見ようとしない。
ミズトは見てはいけないものを見てしまった気持ちになった。
きっと、こんな姿は見られたくなかっただろう。
ミズトはどうしていいか分からなくなっていた。
そう迷っていると、女性がミズトの後方に視線を向けたまま怯えだした。
「……ぁっ……ぁっ……!!」
ミズトが振り向くと、ケンスケを含む日本卍会メンバーが十人ほどテントに入ってきていた。
「おい、コラァ! このガキ、何勝手に入ってんだ!」
ケンスケはミズトに怒鳴りつけた。
「っっっ……!?」
その声に女性は一層怯えだした。
涙を流し、全身が震え、出ない声を絞り出すように悲鳴をあげているようだ。
シュンタともう一人も、日本卍会のメンバーを見て怯えている。
いったいどれほど惨い目にあえば、ここまで怯えるのだろう。
このガキどもは、どれほどのことをシュンタたちにしたのだろう。
そう思うと、ミズトはかつてない感情が奥底から湧き出てくるのを感じた。
(こいつら……越えてはいけない一線を越えてしまったようだな……)
ミズトの中に湧き出たものが溢れてくる。