作品タイトル不明
第115話 クレアの足取り
夜、ミズトとエドガーは宿に戻ると、集めた情報について整理していた。
まず、クレア王女が一か月ほど前にこの町に到着していたのは、間違いなさそうだった。
泊まった宿をつきとめることができ、更には船が着いた翌日、馬車を借りて出発したことが、貸し出した業者の記録に残っていたのだ。
しかし、その後の足取りについては掴むことができなかった。
港町エルポートを去って以降、クレア王女と見られる一行の目撃情報はないのだ。
「やはり気になるのは、帝都オルフェニア付近で最近多発しているという 人攫(ひとさら) いの情報でしょうか」
ミズトは、エドガーが触れようとしない話題を敢えて振った。
「ミズト、お前はクレア様が 人攫(ひとさら) いに遭ったとでも言うのか……?」
エドガーはミズトを睨むように言った。
「いえ、断定しているわけではありません。ただ、先ほどお伝えした通り、冒険者ギルドでは関連の依頼が大量に出るほど、港町エルポートと帝都オルフェニア間の襲撃は問題になっているようです。エドガーさんもそんな情報をお聞きになりませんでしたか?」
「たしかに、酒場などではその話題で持ちきりだったが…………。しかし、クレア様は王女の身分を隠しておられるはずだし、最低限の護衛は付けている。野盗なんかに襲われるとは考えにくいのだ」
そんな不吉な話は認めたくないと、エドガーの顔には書いてあった。
「ではどうされます? ちょうどその野盗の拠点情報を冒険者ギルドが手に入れたらしいのですが、明日はもう少し情報集めでもしますか?」
「なに? 拠点情報? どういうことだ?」
エドガーは興味ありそうな反応を示した。
「 人攫(ひとさら) いの疑いのある野盗が住みついている拠点場所を、冒険者ギルドが入手したらしいです。その拠点調査の依頼を、明日にでも張りだそうとしているそうですが、拠点の場所情報を直接買うことも可能なようです」
「なんだと!? それを先に言え! ミズト、明日朝にでも情報を購入するんだ! すぐにでも向かうぞ!!」
(なんだよ、 攫(さら) われたと思ってたんじゃねえか……)
「分かりました、朝一でギルドに行ってみます」
「ああ、頼んだぞ……」
エドガーはミズトを見ることもなく答えた。
*
冒険者ギルドから購入した情報によると、野盗の拠点は通常の馬車で、港町エルポートから一週間ほどの場所にあるようだった。
しかしミズトたちは馬車の数倍の利用料を支払い、早馬を借りて二日で辿り着くことができた。
「野盗の拠点はこの先だったな?」
馬を木にくくり付けながらエドガーが言った。
「はい、あの丘の上に見える大きな屋敷が拠点という話です」
ミズトが答えた。
「そうか。野盗というから、洞窟にでも住んでいるのかと思ったが」
「意外と隠れもせず堂々としているものですね」
ミズトはそう言いながら、屋敷の気配を探っていた。
(なあ、エデンさん。前から気になってたんだが、王女の捜索なんて大きな依頼だと思うんだが、どうして限定クエストが発生しないと思う?)
【最初にお伝えしましたが、限定クエストは、クエストの結果がその後に大きな影響を及ぼす場合に発生します。今回発生しないということは、ミズトさんが王女捜索に加わろうと、その後に大きな変化はないということです】
(それって、すでに結果が決まってるってことなんじゃ……)
ミズトは嫌な想像をしてしまった。
野盗の拠点とされる屋敷には百人ほどの気配があり、悪意のある気配がほとんどだが、 攫(さら) われた人たちと思しき弱った普通の気配もいくつもあった。
そして、その中にクレアの気配は感じないのだ。
「ミズト。クレア様はあの屋敷にいると思うか?」
エドガーがミズトの考えていることに気づいているのではと思うような質問をしてきた。
「えっと……、どうでしょうか。クレアさんが 攫(さら) われたと確定したわけではありませんし、 攫(さら) われたとしても野盗の目的も分からないので、何とも……」
「そうか……」
エドガーも分かり切った質問をしてくるな、とミズトは思いながらも、エドガーの気持ちも理解できた。
クレアが 攫(さら) われたとは思いたくないが、もしあの屋敷に囚われていなければ、手掛かりがなくなってしまう。
いくらクロでも、こんな状況で匂いを辿ることはできるはずもない。
もう何一つない状態で、一から探し直さなければならないのだ。
「エドガーさん、お待ちください。何か様子がおかしいです」
ミズトは、先ほどから察知していた違和感の正体を見つけ、立ち止まった。
「ん? どうした? ゴブリンか!」
エドガーはそう言って走り出した。
(バ、バカ!)
ミズトとエドガーは野盗の拠点前で、五体のゴブリンを見つけた。
エドガーはそれを偶然に出くわしたゴブリンだと思い、排除しようと飛び出したのだ。
見た目はただのフォレストゴブリンなのだが、なぜか屋敷を護衛するように立っていたゴブリンの気配に、ミズトは遠くから違和感を覚えていた。