軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第4話(王城side)

扉が閉められて、国王はソファにぐったりともたれかかった。

「はぁ……」

「お疲れ様です、陛下」

王妃が紅茶をすすめる。すっかり冷めたそれを一口飲んで、国王は口を開いた。

「三百年前と同じだな」

「ええ」

二人は頷く。

フレイジーユ王国では過去、一度だけ似たようなシチュエーションの婚約破棄が行われた。

一方は王族。もう一方は魔法使いだ。

この時も、婚約破棄を申し出たのは王族だった。

「歴史は繰り返されるのだな」

「ええ。あの時と違うのは、魔法使いが怒りや悲しみに任せて暴走しなかったことかしら」

歴史書にも載っている、三百年前の惨劇。

通称〝ルビーの夜〟。

婚約破棄された魔法使いが、その直後に精霊を使役して王都を襲った事件だ。平民も貴族も見境なく襲い、王都は壊滅寸前まで追い込まれた。

翌日の結婚式に参列するため、魔法大国ラシガムから高名な魔法使いが来ていなければ、もしかしたら国は滅んでいたのかもしれない。

だが、今回のケースではシャルロットの姿が消えただけ。どこにも被害が出ていない。

それが、国王夫妻にとって嵐の予兆のような気がした。

国王が執事に向けて言った。

「近衛隊長をここへ」

「はい」

執事が礼をし、応接室を出る。しばらくして、豪奢な鎧に身を包んだ男が入ってきた。

「近衛隊長シャルル・モンバートン、ただいま参りました」

「シャルルよ、シャルロット・ド・アルヴァリンド侯爵令嬢を知っているな?」

「はい。王太子……いえ、元王太子の婚約者でございますね」

さすが近衛隊長、耳が早い。国王は頷いた。

「彼女を探し出し、連れ戻せ。あの子は魔法使いの血を引いている。魔法ですでに国外に脱出している可能性も高い。どんな手を使っても構わない」

「は……つかぬことをお聞きします」

「なんだ?」

「自分は魔法や魔法使いを信じておりません。いえ、実際にこの目で見たことがありますが、あのような奇怪なものは、正直言って受け入れられません。なぜ魔法使いの子どもを連れ戻すのですか?」

国王はモンバートンの問いに、口元へ手をやって考えた。

「ふむ……。魔法大国ラシガムの国力は知っているな?」

「はい」

モンバートンは首をかしげながら頷いた。

「面積は都市国家一つ分程度ですが、同じ面積の国を十ヵ国は養える農業技術、煮沸せずに飲める清浄な水や上下水道設備、それに総合的な治安の良さ。どれをとっても他の国の追随を許しません」

「そうだ。そこから送り出される魔法使いは皆、ラシガムが善良な魔法使いであることを認めた良き魔法使いたちだ」

「はい」

「送り出された魔法使いには、子どもたちに良き魔法を受け継がせる義務がある。シャルロット嬢の母親もそうであった」

「はい」

話が見えない。しかしモンバートンは遮らずに耳を傾けた。

「良き魔法とは、簡単に言えば人のための魔法だ。犯罪を未然に防ぐ、災害の救助に尽力する、そして国の発展への貢献。彼女の母親も、亡くなるまでずいぶん貢献してくれた」

「…………」

「だが個人では限界がある。その力を十全に発揮できる環境を、我々が整えてやらねばならない」

「……それが、王太子妃」

モンバートンの言葉に、国王は頷いた。

「左様。王妃よ、妃教育はどの程度進んでいた?」

「すでに妃教育は終えていますよ、陛下。たまに城へ招いたのは、私とのお茶会のためです」

王妃の言葉に国王は満足そうに頷く。

「妃教育を終えているのであれば、新しく妃候補を探すよりも彼女を探した方が良い。我が国にとっても、彼女にとっても、これ以上の幸せはない」

「……承知いたしました」

モンバートンが礼を執った。

「かならず、シャルロット嬢を連れ戻してごらんにいれます」

「期待しているぞ」

手で振って下がるよう命じ、モンバートンを退室させる。

さらに傍のメイドたちも下がらせると、国王はまた紅茶を一口飲んだ。

「さて、見つけてくれよ、シャルル」

「そう簡単に見つかるでしょうか」

「……どうだろうな」

「あら、自信がないのね」

「影の報告を聞いたら、な」

二人の表情が曇る。

国に絶対の忠誠を誓う諜報組織「影」。過去の教訓を生かすため、王太子とその妻とされる人物には、代々専属の影が張り付いていた。

だからフェルディナンドの婚約破棄は、国王夫妻にとって想定の範囲内。水面下で着々と王太子交代の準備が行われていた。もちろん、次の王太子妃もシャルロットのつもりだ。

「目を離したわけでも瞬きをしたわけでもないのに、突然彼女が消える」

国王が呟いたのは、人を通じて聞いた影からの報告。

「まさかとは思ったが、影にも追えない隠蔽の魔法があるとはな」

「……シャーリーはどこへ行ったのでしょうか」

王妃が呟く。シャルロットを愛称で呼べるのは、この世では彼女一人だった。

「わからぬ。だがもしも魔法大国ラシガムであれば……」

国王の掌に、じわりと汗がにじむ。

「この国の終わりを、覚悟しなければならない」