軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第25話

さて、馬車での旅でも基本的に座って揺られているだけである。途中で馬を休めるための休憩を挟んでいる時に、人間も馬車から降りて身体を伸ばす。

夕方ごろに馬宿に辿り着いたら、そこで夕食と宿泊だ。老若男女関係なく雑魚寝するので、できるだけ壁際を陣取ってエリックがガードしている。翌朝、簡単な朝食をとったらまた馬車に乗って旅を再開。この繰り返しだ。

「エリックさん、ここは今どのあたりですか?」

「ラシガムの南東ですね。ここから大きく北西に向かってカーブするように移動します」

「エリックさん、動物がいます」

「鹿ですね。たまに街道に飛び出して事故が起こるんですよ」

「エリックさん、このお肉なんですか?」

「チキンですよ。フルーツソースは珍しいですね。あ、お皿に残ったソースはパンにつけて食べると美味しいですよ」

「……!」

道中、シャルロットはよくエリックに質問した。魔法だけでなく、見るものすべてが新鮮に映っている。抑え込まれていた好奇心が顔を出してきた。

《ほら、遠慮せずに聞いてみなさい》

「……エリックさん、すみません。ここってなんて読むんですか?」

「うん? ……〝登竜門〟ですね。意味はわかりますか?」

「いえ、すみません」

「気にしないでください」

ただ、ところどころでまだ抵抗が残っている。そういう時はロゼットが背中を押してくれた。

「シャルロット嬢、教わるのは恥ずかしいことではありません。知らないことを知らないままでいるより、知っておいた方が後々役に立つことは多いです」

「はい。頭ではわかっているんですけど……」

シャルロットはちらとエリックを見た。

「その、質問ばっかりでご迷惑ではありませんか?」

「とんでもない。自習はいいことですけど、それと同じくらい誰かに聞くのはいいことです」

《私も魔法のコツを何度も聞いて回ったわ。自分と相性のいい精霊を見つけるのに、それこそ手当たり次第に臨時契約を結んでいったし》

「……ロゼットさん、それ大丈夫だったんですか?」

《魔力切れを起こして倒れてしこたま怒られたわ》

やっぱり、とエリックは頭を押さえた。

「魔力切れを起こすんですか? 人間が」

《そりゃあそうよ》

ロゼットはけらけらと笑った。

《精霊は、原初の精霊と人間の中継ぎよ。自分を含めてこの三種類の魔力をうまく組み合わせられなきゃ、魔法は発動しないの》

「そして、魔法は精霊と人間の相性が良ければ良いほど、その威力が高まっていく傾向にあります」

エリックが引き継いだ。

「人間関係と一緒です。仲のいい人たちは力を発揮しやすいけれど、仲が悪ければ協力しようとも思いません」

「そういうのって、契約前にわかるんじゃないんですか?」

「ところがそうでもないんですよ。お互いに本心や打算を隠している状態で近付くこともありますから。人間側はもちろん、精霊側もね」

「精霊が思惑を隠すことってあるんですか?」

「ありますよ。元人間ですし」

エリックがなんてことないように答えた。ロゼットも頷いている。

「精霊になって人間社会に縛られなくなった結果、世界を自由に見て回りたいと思うのは序の口です。ほとんど迷惑も掛かっていませんし。ですが、まだ生きている特定の誰かに危害を加えようと考えている精霊がいることも事実です。そういう事件もありますからね」

「その精霊は、処罰の対象にはならないんですか?」

「残念なことに、精霊に有効な処罰は原初の精霊からの罰しかないんですよ」

《そっちのほうが残酷だけどね》

ロゼットが言った。

《だって、精霊としての能力を奪われる――つまり〝転生の渦〟に強制的に投げ込まれるんだもの。原初の精霊ってあれにちょっと介入できるから、その時の記憶を持ったまま人間以外に生まれ変わらされるのよね。しかもその覚悟があった上で犯行に及んだのかと思ったら、『見逃してもらえると思ったのに!』って理不尽に喚くんだもの。呆れるしかないわ》

「その代わりと言ってはなんですが、そういう悪い精霊と契約した悪しき魔法使いの方は、人間の法律できっちり罰を受けてもらいますからね」

「どんな、罰ですか?」

「シャルロット嬢のように魔法使い未満の人たちは再教育です。魔法使いとしての資格を得た後に盗みを働いたのなら、一年以上の強制労働程度。罪状によって罪の重い軽いはありますけど、一番の重罪は殺人罪ですね。魔法使いとしての資格を剥奪の上、資格の再取得は永久に禁止。魔力封じの腕輪もつけられますし、ラシガムからの永久追放もあります」

「……ですが、〝ルビーの夜〟を起こした魔法使いは、 虚(ウロ) に封印されたんですよね?」

「よく覚えていますね。ええ、人数と動機で罰の内容も細かくなりますが、〝ルビーの夜〟は歴代最悪と言われるほどの事件でした。国外追放にすれば、今度こそフレイジーユが滅びるかもしれない。さりとてラシガム国内で自由にさせるわけにはいかない。数百年ぶりの虚の出番で、当時はちょっとした騒ぎになったそうですよ」

「……その魔法使いも、さっさと見切りをつければよかったのに」

「それだけ、奪われたものへの愛情が深かったということでしょう。さ、この話はおしまいです。精霊とのコミュニケーションについて、今のうちに学んでしまいましょう」

《エリック、講義はいったん休んで》

ロゼットが硬い声で言った。外を睨んでいる。

《盗賊がいるわ。こっちを狙ってる》