軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ジルギスタ国での日々4

それなのに、辿り着いた夜会は既に褒賞が終わり軽快な音楽が流れていた。

煌びやかなシャンデリアが重たげに天井からぶら下がる下で、人々は愉しんそうに手を取りステップを踏んでいる。

「あぁ、間に合わなかったのね」

落胆のため息が自ずと溢れる。何やっても駄目だな。私はただ、この国で暮らす人が少しでも豊かになるために、そして何よりカーター様の為に頑張ってきたのに。

「ライラ、来たのか」

「カーター様!」

入り口付近で佇む私をカーター様が迎えに来てくれた。ただそれだけのことに沈んでいた気持ちが浮上する。

「お待たせして申し訳ありません。褒賞はもう終わったのですね」

「あぁ、それでお前に話がある。付いてきてくれ」

「はい」

カーター様は踵を返すと足早に歩き始める。慣れないドレスと靴では後を追うだけでも大変。ドレスの裾を摘み、小走りになりながら後ろをついて行くと、沢山の人が集まっている場所でカーター様は立ち止まった。

「殿下連れて参りました」

殿下、と言う言葉に緊張が走る。

カーター様の向こうに見える銀色の髪の青年は見間違うはずもなく、この国の第二王子殿下。

ああ、カーター様はやっぱり私をお認めになっていたのね。研究結果はカーター様の手柄で構わない。でも、それでもやっぱり労を労う言葉は欲しいと思ってしまう。

「初め……」

「ライラ、俺はお前との婚約を解消してアイシャと結婚する」

カーテシーで挨拶をしようとしたところを、カーター様の言葉によって遮られてしまう。

えっ? 今、何と仰ったの?

「婚約解消……?」

何かの聞き間違いかとカーター様を見ると、アイシャがスッと現れカーター様の腕に手を絡ませる。

「あ、あの。これはどういう」

「この婚約はもともと、薬草の研究に取り組む我がレイビーン伯爵家のために王家が縁組をしてくれたもの。それを勝手に解消するわけにはと今まで我慢していたが、この度、第二王子殿下が婚約者をアイシャに代えることを了承してくださった」

アイシャはもたれかかるようにカーター様に寄り添い、庇護欲のそそる笑顔を浮かべる。

「理由をお聞かせいただけませんか?」

震える声を抑えて、私は出来るだけ冷静を取り繕う。本当は泣き喚きたい気分だけれど、そんなことしたらウィルバス子爵家に泥を塗ってしまう。それに目の前には第二王子殿下がいるのだもの。

ぎゅっと手を握り、ドレスの中で震える足を踏ん張っていると、予想外の方から声をかけられた。

「なるほど、確かにカーターの言う通りだな。こんな状況で顔色ひとつ変えないなど、実に冷淡な令嬢だ」

「第二王子殿下……」

「お前の話はカーターから聞いている。仕事の要領が悪く研究の足手纏いであるにも関わらず、女の癖に意見や主張ばかりして可愛げがない。挙句にカーターの研究結果を自分のものだと主張したとか」

「そんなっ、お言葉ですが私はそのようなことは……」

黙れとばかり、第二王子殿下は私に手のひらを向け発言を制すると、冷ややかな視線を向けてくる。

「そして、口にするのはでも、だってなど自己弁護の言葉ばかり。今も、まさしくその通りだな」

これ以上の発言を許さないとその目が態度が言っている。第二王子殿下から発せられる威圧感に、私は顔から血の気が引き背中を冷や汗が流れる。

「第二王子殿下は目立つことしか考えていないお前より、俺を陰で支えてくれるアイシャの方が婚約者に相応しいと認めて下さった」

「おねえさま、ごめんなさい」

「アイシャが謝ることはない。全てライラが至らないからだ。ウィルバス子爵には俺から説明するのでお前はでしゃばるな」

目の前で熱い視線を交わす二人。

いつかこういう日が来るのでは、と心の隅で思っていた。

もうどうでもいい。

諦めとも落胆とも取れる感情が胸に湧き上がる。

私の努力なんて誰も見ていない。

私の言葉を誰も聞いてくれない。

自分の考えを述べれば可愛げのないだの、自己弁護だと言われ、もう何も言う気も起きない。

私を悪者だと決めつけ弁解の余地もくれないこの国の第二王子殿下も、私を利用するだけの婚約者も、妹も私には必要ない。

「分かりました。婚約解消を受け入れます」

「良かったよ、理解してくれて」

「それから研究所も辞めます」

「なっ、お前!」

私の言葉はカーター様にとって思いもよらないものだったらしく、目を瞠目させこちらを見てくる。

「私は要領も悪く、カーター様を支えることもできません。これ以上いても足手纏いになるだけですから」

「お前、そういうところが可愛い気がないと言うんだ。拗ねて意地悪く俺を困らせ楽しむなど性格が捻くれているにもほどがある」

「そうよ、おねえさまだって心を入れ替えれば、カーター様も今までのことを許してくださるわ」

急に二人が慌て出す。

そうよね、二人だって本当は気づいている。

誰が研究をし、誰が雑用をしているか。

私がいなくなれば研究所がどうなるか。

「そう思われるなら尚更、私を研究所から出した方が良くないですか? 私ごとき、代わりになる方は沢山おられましょう。殿下、至らない私より相応しい方をカーター様と妹のために手配していただけませんでしょうか」

「なるほど、女の癖に男の言葉にいちいち反抗する。確かにお前がカーターの役に立つことはないだろう。心配するなお前より優秀な人材は大勢いる」

第二王子殿下が侮蔑の視線を投げてくる。

この人もカーター様と同じ。双方の意見を聞こうなんて頭は持っていない。

「では失礼致します」

私は自分にできる精一杯のカーテシーをして、その場を後にした。そして、そのまま扉に向かい会場を後にする。

人がまばらな廊下にカツカツと私の靴音が響く。

これから先のことは今は考えていない。

お父様とお母様はアイシャが婚約者となって喜ぶでしょう。二人にとって大切なのはアイシャだけなのだから。