軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

雨と洞窟と真実6

アシュレン様の元へ急ぎ戻ると、もう一つのランプに灯りをつけて、それを頭上で掲げながら待っていてくれた。

「洞窟が近くにありました。肩を貸しますので歩けますか?」

「すまない。一人では歩けなさそうだ」

身を屈め、アシュレン様の腕の下に潜り込むようにして立ち上がる。少しぐらつきながらも、まだ雨が降る中、私達は何とか洞窟に辿り着いた。少し奥まで進みアシュレン様を肩から降ろすと、私はさらに奥へと向かう。

「あっ、小枝があります。風で洞窟の中まで吹き飛ばされたのでしょうか」

手に取ると随分前からここにあるのか、湿ってはいない。

「火を起こしたいので拾い集めてくれないか?」

「分かりました」

飛び散った小枝はかなり多い。枯れた葉のついたそれらを拾いながら奥へ奥へと進んでいくと、ポタリと水の滴る音が聞こえてきた。

ひとまず枝を持ってアシュレン様の元に戻り手渡すと、私は雨合羽のポケットに布水筒が入っているのを確かめながら水音がした場所へと向かう。

飲み水は十分あるけれど、確保しておくに越したことはない。

水は天井からポタリポタリ、と落ちその下には小さな、でも深い水溜まりが出来ている。長い年月をかけ、水が岩をくり抜き作られたらしいその中にはもちろん生き物はいない。

指を浸して暫く待ち、刺激や痒みがないことを確認してから口に少しだけ含む。でも。

ペッ

すぐに吐き出し、布袋に僅かに残っていた水で口をすすぐ。駄目だ、この水は飲めない。

痺れはないけれど、少しピリピリとした刺激が舌に残っている。飲み水はあるから差し支えはないのだけれど、と思いながら洞窟の壁に手を添え、ごつごつとした岩肌をさっと撫でる。

「この洞窟の岩、山道にあったものと違う……」

ランプを近づけると僅かに岩の中に青い不純物が見えた。山道に転がっていた岩には、そんなものなかったので、この深さの地層独特のものかも。

気になる、と思いながらも今は優先すべきはアシュレン様。

私は水を諦めアシュレン様の元に戻ることにした。

「奥に水があったのですが飲まない方がよいです。傷の手当てをしますから、靴を脱がせますね」

「分かった。自分でするからライラはリュックから薬を出してくれないか。麻袋に纏めて入っている」

「はい。勝手に開けますね」

私のリュックはマーク様が持っていて、あるのはアシュレン様のリュックだけ。中を開け薬の入っている麻袋を探す。アシュレン様は両足とも靴を脱ぎそれを火の近くに置くと今度は雨合羽を脱いだ。

「ライラも靴と雨合羽を乾かした方がいい」

私は見つけた麻袋をアシュレン様に渡し、代わりに脱いだ雨合羽を受け取る。それを火の近くの岩に広げて干し、ついでに自分の雨合羽も脱いで隣に干した。それから、ちょっと戸惑いはあったけれど言われた通り靴を脱ぎ乾かすことに。

雨合羽を着ていたとはいえ、シャツもトラウザーも濡れている。でも、着替えはないから出来るだけ火の近くにいるしかない。

「湿布を貼ります」

自分で手当てをしようとするアシュレン様から湿布を受け取る。これは、私が作った湿布にさらにアシュレン様の改良が加わったもの。

「こんな時だが、どれほどの効果があるのか楽しみだ」

「そのお気持ちはちょっと分かります。靴には乾燥剤も入れておきましょう」

麻袋から乾燥剤を二つ取り出す。こちらは私が水虫薬が好評の騎士達のために作ったもの。

騎士達の靴の中は、ぬかるみを歩いたり、汗で湿ったりと中々悪い環境で。それなら効き目の強い乾燥剤をと、炭と一緒に幾つかの粉末状の薬草を通気性の良い布に入れた。ただの乾燥剤ではない、湿気をとり雑菌の繁殖を抑え、おまけに良い匂いもする力作だ。

「一つずつ使おう。途中で入れかえれば左右どちらの靴も乾くだろう」

「私のリュックがないばかりに申し訳ありません」

「気にするな」

アシュレン様と私の靴、それぞれ片方に消臭剤を入れておく。「それも結果が楽しみだ」とアシュレン様は言ってくれるけれど、私は自分の不甲斐なさに申し訳なくなってくる。

「それから濡れた服は着替えよう。着替えは二枚あるから一枚貸す」

「すみません」

「気にするな、と言っただろう」

アシュレン様はリュックの中から新しいシャツとトラウザーを私に手渡すと、背を向ける。

服を脱ぐのは抵抗があるけれど、濡れたままでいるわけにはいかないし、こんな状況で照れるなんて面倒なこともしたくない。

釦を外し、シャツを脱ぎ、アシュレン様から渡されたシャツを羽織る。もちろん大きくてぶかぶかだから袖は四回折り返した。ズボンもウェストが大きいので、ロープを借りて縛ることに。

着替え終わっても、自己嫌悪から下を向く私にアシュレン様は穏やかな声を掛けてくれる。

「ライラ、火の近くに。夏とはいえ風邪をひく」

「はい」

目の前の焚火に手を翳す。指先から伝わる熱に、すっかり身体が冷えていたのだと気付かされた。

「私に体力がないばかりに足手纏いになり、さらにアシュレン様に怪我までさせてしまいました。今だってこんな洞窟で碌に手当てもできず、申し訳ありません」

「ライラに怪我がなくて良かった」

「こんなに苦労して辿り着いても何の成果もないかも知れません」

「そんなことはない。『何も無かった』という成果を得られる」

『何もなかった』成果。初めて聞く言葉に焚火から視線を移すと、柔らかに微笑むアイスブルーの瞳と目があった。

「ライラ、やって無駄なことなんてないんだよ。やったこと自体が一つの成果になるんだ」