軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

29 まるで夢みたい①

王宮に赴いたヴァイオレットたちは謁見の間に通された。

「急に呼び立てして、手間をかけさせた」

国王陛下の御前で、ヴァイオレットの両親は取り繕ってはいるが、顔色は悪い。

「へ、陛下……このような機会をいただき、きょ、恐悦至極に存じます」

国王陛下は改めて間近で見ると、やはりユリシーズにどことなく似ているとヴァイオレットは考えていた。しかし威厳ある国王陛下だが、今日ばかりは浮かない表情をしている。

「用件はもう察しているだろう。エイドリアンのことだ」

「は、はい! 我が娘ヴァイオレットの不徳と致すところで……」

「何を言う。謝罪せねばならぬのはこちらの方だ。エイドリアンは庇いきれぬ罪を犯してしまった。禁制の薬品や魔術具の所持のみならず、それらを使い、さらにマイエール侯爵家で多数の怪我人を出してしまった。それ以前にも、婚約者であるシアーズ公爵家令嬢をずっと蔑ろにしていたとは……我が子ながら恥ずかしい限りだ」

ヴァイオレットは国王陛下に問いかけた。

「陛下、エイドリアン様はどうなるのでしょうか」

「ヴァイオレット、黙っていなさい!」

「いや、構わぬ。本人の先々に関わることなのだ。──エイドリアンだが、多数の人間に怪我をさせてしまった。いくら治癒したとはいえ、もはや、殺人未遂としか言いようがない。王室規則に則り、王位継承権を剥奪し廃嫡となる。並びに罪を償うため、怪我の治療が済み次第、黒鐘の塔に収監することに決まっている。王妃も何をしたわけではないが、妃の立場から退いてもらうことにしたよ。本人も息子の件が堪えたようでな、しばらくは遠方で療養させるつもりだ」

黒鐘の塔は、貴族の犯罪者や、政治犯を収容する監獄塔である。禁制の魔術具所持だけであればまだしも、多数の怪我人を出してしまったエイドリアンには妥当な判断だろう。おそらく、数年で出られるような刑ではないはずだ。

「……そう、ですか。あの、モース男爵令嬢の方は」

「そちらは治療が済み次第、どれだけ事件に関与していたかを調べてからだ。少なくともモース男爵家の爵位返上は免れないだろう。罪状によってはエイドリアンと同じく黒鐘の塔に収監となるやもしれん」

少なくともエイドリアンとフリージアは、今後表舞台に立つことはない。黒鐘の塔から出られたとしても、長く監視が付き、自由は制限されることだろう。

その説明にヴァイオレットは納得したのだった。

「そういうわけで、エイドリアンとシアーズ公爵家令嬢の縁組はなかったことにしてほしい。幸い、婚約していたとはいえ正式な披露目はまだだ。今回、迷惑をかけた詫びとして、当初の約束にあったオーデリーの土地の権利はシアーズ公爵家に譲ろう」

「わ、わたくしどもはそれで構いません!」

ヴァイオレットの両親は土地がもらえると知って喜色満面になる。その現金さにヴァイオレットは呆れ返った。

「それと、ヴァイオレット嬢の今後の縁組に関してなのだが……」

「そ、それはお気になさらず。ヴァイオレットはとても心を痛めており、もう結婚どころではありません! どこか遠くで静かに暮らしたいと本人が申しておりまして」

ヴァイオレットはそんなことを言った覚えはない。このままではヴァイオレットはまた厄介払いされてしまう。違うと言おうとしたヴァイオレットだったが、国王陛下本人の言葉に遮られた。

「──いや、そこで提案なのだ。ヴァイオレット嬢に是非と思う相手がいるのだ」

「なんと、陛下のご推薦ですか。それはどなたなのでしょうか」

ヴァイオレットの父親はきょとんとしている。ヴァイオレットも初耳だった。

「少し年上ではあるが、ヴァイオレット嬢と縁がある相手だ。そなたたちも知っている名前のはずだ。我が王宮魔術師の中でも最強。いや歴代でもおそらく最高位であろうな。王宮魔術師が誇る筆頭魔術師、ユリシーズ・パロウだ」

──嘘、ユリシーズ!?

ヴァイオレットは思いがけない名前に口元を押さえた。もちろん、嬉しくないはずがない。心の底から喜びが湧いてくるかのようだった。

「パロウ筆頭魔術師……!? ば……いや、あの!?」

しかし両親はその名前を聞いて倒れんばかりに青ざめた。母親に至ってはブルブルと震えている。

「そうだ。そして公表はしていないが、私の甥にあたる。今は亡き妹、アンヌ=マリーの遺児でな。非嫡出子であることと、これまでは少々差し障りがあったのだが、ヴァイオレット嬢のおかげで見違えたのだ。ユリシーズよ、入ってこい」

国王陛下の合図に扉が開く。白銀の長い髪を揺らして入ってきたのは、間違いなくユリシーズである。

「ユリシーズ・パロウにございます」

国王陛下に並ぶと、やはり立派な体格と瞳が似通っていた。

「ま、まあ……」

それまで倒れそうなほど嫌がっていたヴァイオレットの母親は、ユリシーズに目が釘付けになっている。父親も驚愕に目を見開いた。

「まさか、本当にアンヌ=マリー様の……? いえ、確かに陛下に面差しが似ているような」

「そうであろう。そなたたちの息女が採寸してくれたおかげで可愛い甥っ子に新しい服を作ってやることが出来た。アンヌ=マリー似の髪からして、今後は白銀の魔術師と名乗らせるつもりなのだ」

「陛下──いえ伯父上、その二つ名については後ほどと……」

「あらあらまあまあ……とても素敵ではありませんか! あなた、是非このお話をお受けしましょうよ!」

母はうっとりとユリシーズを見つめた。手のひら返しの速さにはヴァイオレットも驚くばかりだ。しかし危惧していたエイドリアンとの婚約関係もなくなり、密かに片思い中のユリシーズとの婚約が持ち上がるとは。思いもよらない僥倖だ。

そしてここまで、一度目の世界で失った数々のものは、全て守り切れている。兄弟の絆、コーネリアとの友情、モニカとお腹の子の無事。そして、一度目には出会わなかったユリシーズへの恋心。まるで思い描いた理想的な展開に、ヴァイオレットの頬が紅潮していく。

しかし、ユリシーズはそれでいいのだろうか。

ヴァイオレットとユリシーズは出会ってからそう間もない。白モジャの髪を切ったことを感謝されたが、それはたまたまヴァイオレットが出来ただけのこと。

ユリシーズにはモニカのような人が相応しいのではないだろうか。ヴァイオレットはモニカの屋敷にいた時、モニカのそばにいると、ユリシーズと何度も目が合ったのを思い出す。

昔からの知己で、化け物と呼ばれていたユリシーズにも親しみを込め、明るく聡明なモニカのことを好きなのでは──

今回の婚約は、ユリシーズがヴァイオレットを哀れに思ってくれたのかもしれないし、伯父であり国王陛下の頼みを断れなかったからだとしたら。

そう思い、まごまごとしていたヴァイオレットの前にユリシーズが跪いた。

「ヴァイオレット。君さえよければ、俺との婚約を考えてはもらえないだろうか」

いつもは高い位置にある月のような瞳が、今は下からヴァイオレットの俯く顔を覗いている。

ヴァイオレットの胸がドキッと高鳴った。