軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第30話

「ベルティさん、ホーンドラゴンが目撃された辺りに到着しました」

そんな声が聞こえ、私は手に持っていた弁当を一瞥する。

……もう、お弁当終わっちゃうのね。

そんなことを考えていると、御者台の方からこちらを伺うように御者が顔を向けてきていた。

御者の女性の頬は引きつっていた。

「相手がホーンドラゴンだからってそんなに怯える必要はないわ。もっとリラックスしなさい。リラーックス」

私が彼女を落ち着かせるためにそういうと、彼女はじっと荷台を睨みつけた。

「怯えているんじゃないです……。ベルティさん……ご飯、食べすぎです……」

御者が指さした先には、大量の弁当箱があった。

残り僅かの弁当箱であるが、これは私が馬車の道中に食べたものだ。

「これから動くのだから栄養補給は重要でしょ?」

冒険者は体が資本。

だから、このくらい食べるの当然というつもりだったんだけど……。

「……え、栄養補給の限度を超えています! そんなに食べて動けるんですか!? ていうか、どこに入ったんですかあの大量の食糧は!」

「ここ」

「絶対おかしいです! あなたの胃袋はアイテムボックスですか!?」

「さすがに私の口に手を突っ込んでも取り出せないわよ? あっ、嘔吐なら可能よ?」

「いいです! やらないでくださいぃぃ!」

まったく、まるで私が食いしん坊みたいな言い方だ。

冒険者はみんなよく食べるんだから。

私はまだ途中まで食べていた二桁目の弁当の蓋を閉じ、それから軽く伸びをする。

「とりあえず、ちょっと様子でも見に行ってみるわ。あなたはここで待機していてね。万が一、ホーンドラゴンが来た時は逃げるといいわ」

「わ、分かりました。でも……一人で大丈夫ですか?」

「万が一の時は私もうまく馬車を身代わりに逃げるわ」

「やめてくださいぃぃ!」

やっぱりいい反応する。けらけらと笑いながら、目撃情報のあった場所を歩いていく。

この辺りには魔物も出るが、御者だってBランクの冒険者と聞いている。

一人で残しても大丈夫だろう。たぶん。

何があっても私の残りの弁当箱だけは死守してくれればそれでいい。

それにしても、ホーンドラゴンかぁ。

私は冒険者ギルドでの依頼を受け、このバーナスト領へと来ていた。

その依頼にあった魔物がどれほどのものなのか。

まずは自分の目で確認しておきたかった。

しばらく平原を歩いていく。森が見えてきた。その近くに巨大な岩がある。

……巨大な岩? 以前この地方へと足を運んだ時にあんな岩があっただろうか?

うーん、それにしても頑丈そうな岩。

それに、綺麗ね。思わず近づいて触ってみたくなる。

「ははーん、なるほどねぇ」

私は顎に手をやり、その岩をじっと眺めていた。

それから気配を殺し、じっと観察していると、その大岩へ一体の魔物が近づいてきた。

ウルフだ。モフモフとした毛を持つ彼らは、野生化していないものであればペットとしても人気があったが、あいにくその魔物の目つきは鋭い。

ウルフは周囲を警戒した様子で歩いている。

私がアピールするように少し気配を見せると、ようやくウルフはこちらに気づいた。

唸り声を上げながらゆっくりと近づいてくる。その際に、大岩へと近づいたのだが――。

「ぎゃ!?」

その悲鳴はウルフのものだった。

ウルフの背中へと、岩が叩きつけられた。それは……岩ではない。

尻尾だ。

ホーンドラゴンは岩へと擬態していたのだ。岩から体を動かしたそいつは、黄色の瞳でウルフの背中をさらにもう一度叩きつける。

かろうじて息の有ったウルフは、二撃目によって完全に命を失った。

ぴくりとも動かなくなったウルフを見たホーンドラゴンは、ゆっくりと顔を動かし咀嚼する。

同情的な感情はない。野生ではごく当たり前の景色だからだ。

一口で飲み干したホーンドラゴンは満足げな様子だ。

岩のような頑丈な体を持つって聞いていたけど、あんな風に化けるなんて聞いたことない。

これは新情報ね。

これを魔物の研究者に教えたら高額で買い取ってもらえるだろうか?

その金でご飯をお腹一杯食べられるかも。

そんなことを考えていると、ホーンドラゴンはこちらへと向いた。

その鋭い角の先がまっすぐに私へと向けられた。

まるで、次の標的はおまえだ、と言わんばかりだった。

私は二つ差しているうちの一つの剣を鞘から抜いた。

ホーンドラゴンは地面を蹴りつけ、こちらへと駆けだしてきた。

「そんな焦らなくても、相手してあげるわよ!」

それを横に跳んでかわす。無理のない跳躍と同時、私は剣を振りぬいた。

ホーンドラゴンの皮膚へと剣は当たるが――。

「かったっ! いった! 何これ、無理!」

私のビーレア魔鉄で作ってもらった剣では、刃が通らない。

私はこれでも、結構前にホーンドラゴンを一度討伐している。

……その時の個体よりも、かなり皮膚が固い。

石っぽいどころではない。もはや魔鉄でできているんじゃないだろうか? そう思うほどだ。

むぅ……どうしようか。

この剣では無理ってことはエイレア魔鉄の剣を使わないと駄目かも?

ホーンドラゴンが尻尾を振りぬく。世界が揺れるような重圧感とともに振りぬかれた一撃を、私は後方に飛んでかわす。

「ライトニングアロー!」

私は、最も得意な雷魔法を放つが――あまり効いているようには見えない。

私の雷魔法には痺れの効果もあるんだけど、どうにもその影響もないようだ。

速度では勝っている。ただ、私の攻撃ではとてもすぐに倒せる様子はない。

「長期戦は覚悟して……と。うはぁ、考えただけで腹減ってきたわね」

今回はあくまで様子見だ。

ホーンドラゴンを倒すための情報収集に徹する。

私は剣を鞘へとしまい、もう一つの剣を抜く。

こちらは先ほどの剣よりも質の良い剣だ。

エイレア魔鉄を加工できる鍛冶師自体が少ない。

そのほとんどが王都にしかいないし、最低でも一年後までは予約でいっぱいの鍛冶師ばかりだ。

エイレア魔鉄ともなればエンチャントも大変だ。

王都にいる鍛冶師くらいしかエンチャントできないため、無駄に消費したくないのよね。

だから、普段からエイレア魔鉄の剣はまったくといっていいほど使わないでいた。

その剣を抜いた私は、ホーンドラゴンの攻撃を跳んでかわす。

そのホーンドラゴンの背中を越えるように跳躍した私は、くるりと回るようにして剣を振りぬいた。

魔力を載せた一閃は……しかしホーンドラゴンの皮膚によって弾かれる。

岩なんて目じゃない。

私の方へととびかかってきたホーンドラゴンから、逃げるように背中を向ける。

ホーンドラゴンも、攻撃を受ける際に魔力をまとい、私の一撃を防いでいた。

「あー、もう。刃こぼれしたらどうするのよ」

エイレア魔鉄の加工をお願いするには、それこそかなりの時間がかかる。

Sランク冒険者という特権を活かしても、一ヵ月は最低でも見るべきだ。

だから私は、普段使いする剣はビーレア魔鉄の剣ばかりだった。

エイレア魔鉄で作った剣でも攻撃が通らない。ならば、今は逃げるしかない。

ホーンドラゴンは私が打つ手なしと見たのか、反撃を恐れる様子もなく追いかけてくる。

魔物は一度調子づかせると本当に厄介だ。

走って逃げながらも、私はありったけの魔力を蓄えていく。

馬車が見えてきた。

「ベルティさん!? ちょ、ちょっとそ、そいつホーンドラゴンじゃ!」

「懐かれちゃったみたい」

「懐かれちゃったじゃないですよー!」

「ほら馬車走らせて! じゃないと死んじゃうわよ!」

「ひぃぃ!!」

御者が涙目になりながら急いだ様子で馬車の準備を始めていく。迫るホーンドラゴンの迫力に、馬車の引手であるブラックホースたちも怯え始めている。ブラックホースたちも魔物だ。

ただ、走るのは得意だけど、戦闘能力はあまりない。

そんなブラックホースたちが野生の魔物に怯えるのは当然。

出発の準備が終わるまでの間、ホーンドラゴンと少し遊びましょうか。

私は反転し、ホーンドラゴンとすれ違うようにして剣を振りぬく。

もちろん、使用するのはビーレア魔鉄だ。表面を殴るように剣の腹を叩きつけると、反撃とばかりに尻尾が振り下ろされた。

回避すると、ホーンドラゴンの尻尾が地面へとめり込んだ。直撃していれば今頃全身の骨が折れている。

そう思ったとき、その尻尾を鞭のように振り回してきた。土をめくりあげながら私の方へと迫ってくる。

跳んでかわすと、ホーンドラゴンはその尻尾の勢いを活かすようにその場で回転した。

「おっと!」

後方へと飛んでかわしたときだ。

「べ、ベルティさん! 準備できました!」

「了解。それじゃあホーンドラゴン。また今度、準備が整ったら相手してあげるわね」

私はウインクを一つ残し、ホーンドラゴンへと雷魔法を放った。

まるで落雷のような一撃は、ホーンドラゴンの背中へと命中し、その体が崩れた。

さすがに、私が持っている魔力の半分近くを使って叩きつけてあげれば、ホーンドラゴンでもどうにかなるみたいね。

その際にホーンドラゴンの体の一部がはがれた。

私はその石を回収しながら、ホーンドラゴンから距離を取る。

多少痺れた様子で、ホーンドラゴンはその場でうずくまり、こちらを睨んでいる。

ただ、それでもまだまだ体力的には余裕がありそうだ。残っている魔力のすべてを使っても、とてもじゃないけど仕留められないだろう。

馬車へと乗りこむと、すぐに動き出す。ブラックホースたちの脚力がいつもよりも早い。

よほど怯えているのかも。

私は御者台から後方を観察する。ホーンドラゴンが追ってくる様子はなかった。

「困ったわね」

「それはこっちの台詞ですよ!」

「あれを倒すには今の剣じゃ駄目なのよね。あー、もう。私も他のSランクの奴みたいに剣を作ってもらえればいいのだけど」

「……それじゃあ、どうするんですか?」

「一応エスレア魔鉄は持ってきたし、このホーンドラゴンの石を使って加工してもらうことはできるけど、王都に戻って鍛冶師に依頼でもしようかなぁー」

「……でも、それだとかなり時間かかりますよね?」

「うん、一ヵ月くらい?」

「ながっ!?」

「ホーンドラゴンに事情話したら待ってくれるかしら?」

「なんて説明する気ですか!」

「あなたをぶっ殺すための剣を準備してもらうからちょっと待っててって」

「誰が自分殺しに来る奴のお願い聞くんですか!? ふざけてないで真面目に考えてください!」

エスレア魔鉄自体が中々手に入らない。

国内で加工できるのは三人しかいない。そもそも、彼らは仕事を多く抱えているため中々仕事も受けてもらえない状況だ。

「とりあえず、街に行って領主様に相談かしらね」

「……そうですね」

どんな美味しい料理が用意してもらえるんだろうか? 今からそれが楽しみだ。

「あっ、鍛冶師といえば、バーナスト家で今優秀な鍛冶師が見つかったみたいで、娘さんの婚約者になったとか」

「へぇ、そうなのね。でも、なんで鍛冶師なのよ?」

「元々鍛冶師の家系ですので、家族の誰かしらが鍛冶師と結婚するのが風習みたいですね」

「なるほど。その鍛冶師が優秀というのは本当なのかしら?」

「え、ええ。ただ、どのくらいの腕前かは分かりませんが」

「ふぅん……」

それなりに優秀な鍛冶師、かぁ。

まあ、エスレア魔鉄の加工ができるとは思えないけど、何かしら出来ることはあるかもしれない。

ついでくらいの気持ちで相談してみるのもいいかもしれないわね。

「とりあえず、街に向かって出発よ。ほら、急ぎなさい」

「分かっていますよ」

私は新しい街での美味しいものへの興味でいっぱいだった。