軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

93.リアム=ラードーン

シーラを連れて、迎賓館にやってきた。

もちろん、テレポートでだ。

一瞬で郊外から街中の迎賓館前に飛んだシーラとその一行は、瞬間移動に驚き、状況をにわかには把握出来ないって感じで、まわりをきょろきょろ見回していた。

「これはどういうことなのかしら。……幻術?」

警戒半分、興味半分。

そんな目で俺を見て、答えを求めるシーラ。

「テレポートという、ラードーンの魔法だ」

「『竜の王冠』ね」

「りゅうのおうかん?」

初めて聞く単語が出てきた。

「違うの?」

「いや、えっと……」

『合っている、我の事だ』

ラードーンが答えた。

答えはしたが、珍しく不機嫌な様子だ。

邪竜とか魔竜とかって言われてたときも淡々としていたのに、この「竜の王冠」という言葉には明らかに不機嫌に見えた。

どういうことなんだろ……。

「えっと……うん、そうらしい」

「なるほど。その魔法を多く体得しているって聞いたけど、どうやら本当のようね」

「あーえっと、とりあえず中へ」

俺はシーラ達を連れて、迎賓館の中に入った。

彼女の部下の半分はこの場にとどまった。

迎賓館の庭に乗ってきたドラゴン――ドラグーンの竜の世話をするという。

残りの半分が、シーラとともに迎賓館の中に入った。

中に入ると、非戦闘員のエルフ達が俺達を出迎えた。

迎賓館として作った以上、ここに招くものは賓客――大事なゲストばかりだ。

そのため、特に気が利くエルフ達を選んでここに常駐させた。

そのエルフ達にシーラの部下のもてなしを言いつけて、俺が自らシーラを案内した。

迎賓館で一番豪華な部屋にやってきた。

三階分をぶち抜いたくらい高い天井と、採光抜群の一面の窓硝子。

ふかふかのじゅうたんを敷き詰めて、適度な距離を保って置かれた二つの一人用ソファー。

「どうぞ」

「ええ」

シーラを先に座らせて、俺も座った。

彼女と向き合ってから、切り出す。

「それで、同盟を……って話なんだよな」

「オーホッホホホホ! その通りでしてよ」

シーラはまたも高笑いした。

「何か条件は?」

これまでの事を思い出して、そう聞く。

ジャミールも、パルタも。

姫を嫁がせるという話を持ってきたから、またそういうものなのかとちょっと身構えた。

もしや目の前の――とちょっとだけ思った。

「軍事的な不可侵条約。大きなところはそれだけでしてよ」

「……それだけ?」

「ええ」

「……」

なんか話がうますぎる。

同盟を結ぶ以上、軍事的な不可侵なんて当たり前の話だ。

前提の更に前提くらいの話で、あえて持ち出す必要もないレベルの話だってのは、貴族じゃなかった俺でも分かる。

それを「それだけ」って言ってくるのは、さすがに裏があると思うしかない。

「その顔は疑っているという顔ですわね。信じられませんの?」

「有り体に言えば」

「『竜の王冠には手をだすな』、それが我がキスタドールに代々伝わる言い伝えでしてよ」

「ラードーンと何があったんだ?」

「国を滅ぼされかけましたの」

「国を?」

本当か? って心の中でラードーンに聞く。

するとラードーンは不機嫌そうに、

『ふん』

とだけ、鼻をならした声で答えた。

黙認だが、やっぱり何か怒っているって感じだ。

それはそうとして、ラードーンも認めたって事は、キスタドールがラードーンにトラウマを持っている、という理由は納得出来る。

……これも、「三竜戦争」がらみのことなのかな?

「それもあって、わたくしが遣わされましたの」

「え?」

「ドラグーンを率いるわたくしが。もし本当に『竜の王冠』の力を継いでいるのであれば、竜達がなにかしら反応するはず」

「あっ」

はっとして、ラードーンが「トカゲ」と呼んだあの竜たちの反応を思い出した。

「結果は予想以上でしたわ。ドラグーンの竜が、乗り手の命令に抗うなんて、ここ百年間なかったことでしてよ」

「そんなに」

「それだけの訓練をくぐり抜けてきた竜だけがドラグーンになれる……逆説、あなたには間違いなく『竜の王冠』の何かがあるということ」

「なるほど……」

今にして思えば――な出来事を指摘されて、俺はシーラのいう「不可侵条約のみ」という事に納得しつつあった。

「どうかしら?」

「……どう思う?」

俺はラードーンに聞いた。

『お前の国だ、好きにするがいい』

「今回はあんたも絡んでるんだから、少しはアドバイスくれよ」

『……なら、うけるといい。敵は少ない方がいい。戦闘国家だとしても敵は常に一つに留めておくのが賢明』

「なるほど……」

俺は頷き、シーラに向き直った。

「わかった、同盟の話、受けさせてもらう」

「オーホッホホホホ! それが賢明でしてよ」

手の甲を口に当てて、高笑いするシーラ。

今する反応じゃないだろ――って思ったが、よく見ると彼女は額に汗していた。

緊張……してたのか?

ラードーンの力をもってる相手に交渉してる……から?

それで虚勢をはっている、と思うと可愛らしく見えてきた。

同時に、ラードーンが何をやったのかを知りたくなった。

ラードーンに聞いても答えてくれそうな雰囲気はない。

後で、三竜戦争の事を知ってるスカーレット辺りに聞くか。

「では、そういうことで」

シーラは立ち上がって、握手を求めてきた。

俺も手を伸ばして握手した。

手を握った途端、シーラが小首を傾げる。

「そういえば、調べても出てこなかったのだけど」

「え?」

「あなたの国の名前、何ですの?」

「国の名前……」

そういえば、決まってなかった……気がする。

「えっと……」

どうしようか、と頭を悩ませていると。

俺の体が光った。

光が俺の体から離れて、離れた場所に集まった。

直後、三階分をぶちぬいたほど広いホールの中に、巨大な竜の姿が現われた。

「ラードーン!? どうしたんだ?」

「……」

俺の横で、シーラが固まっていた。

完全に固まって、顔色が紙のように白い。

本当に何をやったんだ……って思った次の瞬間。

『国の名は』

「え?」

『国の名は、リアム=ラードーン。我が全権を与える人間が治める国だ』

リアム=ラードーンって、おれの名前も?

いきなり何を言い出すんだ、って思っていると。

「リ、リアム……」

シーラが俺を見つめた。

恐怖半分――何故か尊敬半分、そんな顔だ。

「あっ……」

『我も絡んでいるようだからな』

――意趣返し。

さっきの事の仕返しにこうされたようだ。

まったく、子供か。

と、毒づいた俺はまだ気づいていなかった。

国の名前にするほど、そしてラードーンが自ら顕現して宣言するほどの事態。

リアム=ラードーンの名は俺の格を思いっきり上げ、あっという間に、その事を全世界に知らしめる事になってしまう事を。

今の俺は、まだ気づいていなかった。